バレー

特集:全日本バレー大学選手権2020

鹿屋体育大が4年ぶりインカレV 金本彩花主将「私たちは日本一幸せな4年生でした」

鹿屋体育大は決勝で東海大を下し、4年ぶり4度目の優勝をつかんだ(撮影・全て松永早弥香)

第67回 全日本大学女子選手権 決勝

12月6日
鹿屋体育大学 3(25-14.26-24.11-25.25-15)1 東海大学
鹿屋体育大学が4年ぶり4度目の優勝

第63回大会以来4年ぶり4度目の優勝。鹿屋体育大学のエース中島咲愛(3年、宮崎日大)がレフトからのスパイクでビクトリーポイントを決めると、コートに歓喜の輪ができた。涙と笑顔が入り交じる中、笑顔で優勝インタビューに答えた主将の金本彩花(4年、沼田)が、最後に言葉を詰まらせた。

「4年間、こんなキャプテンについてきてくれて、ありがとう」

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練習もままならない中、サーブレシーブに集中

自粛期間は練習もままならず、春先から夏にかけては自宅待機が続き、全体練習はマスクをつけてサーブとサーブレシーブだけ。時間も1時間に満たず、磨き上げるはずのコンビ練習に時間を割くどころか、まずは今できることに精いっぱい取り組むのみ。3年生セッターで副将の東美奈(宮崎日大)は、焦る気持ちを抑え、コンビよりもサーブレシーブの精度を高めることに努めてきたと振り返る。

「レフトやライト、平行だけでなく外から中に入ったり、中から外へ開いたり、多彩な攻撃ができる選手がそろっているので、まずは1本目(のサーブレシーブ)に集中しよう、と。アタッカーは全員バックアタックも打てるので、試合になったら相手のブロック配置を見ながら入る位置を変えたり、試合をしながら試して成長できたことがたくさんありました」

練習再開後、限られた環境の中でサーブレシーブの精度を高めた(写真は金本)

主軸を担うのは3年生。セッターの東とエースの中島、2年生ミドルブロッカーの横山真奈(宮崎日大)は中学、高校のチームメート。これまで築き上げてきたコンビは、練習を重ねなくても試合になればあうんの呼吸で繰り出すことができる。だからこそ、自分たちの強みを発揮すべく、サーブレシーブに集中すれば大丈夫だと、全員で共有して取り組んできた。

たとえコートに立てなくても

決勝の東海大学戦でも、ユースやジュニアなどアンダーカテゴリーでも活躍する選手がそろう相手に対し、ブロックと連動したレシーブやそこからの攻撃展開。第1セットから東海大を圧倒し、25-14と大差をつけて先取。第2セットもジュースまでもつれたが26-24で連取し、優勝まであと1セット。だが、ここで後がない東海大は一気に巻き返しを図り、0-5と先行。サーブで連続得点する東海大に対応すべく、中島に代わってコートには主将の金本が送り出された。

それでも波に乗る東海大を止められず。「1本切らなければならない場面で自分がミスをして足を引っ張った」と金本が言うように、中盤、終盤にも連続得点を重ねた東海大が更にリードを広げる。11-25で第3セットを失った後、タイムアウト時に金本は「今までやってきたことをやろう。発揮できれば大丈夫だから」と笑顔で後輩たちを送り出す。思うようなプレーができなかった悔しさを押し殺し、主将としてできることに徹した。

たとえコートに立てなくても、悔しさよりもどうすれば後押しできるか。金本は「4年生のために頑張る」と背負い、戦う後輩たちのために主将として腹をくくった。

思うようにプレーできず、コートに立てない悔しさはあれど、それでも金本(右)はチームのために腹をくくった

チームのため、時には厳しい言葉で叱咤

インカレ開幕を2カ月後に控えた10月。右肩の前鋸(ぜんきょ)筋まひで突然、右肩が上がらなくなった。九州での強化試合の最中で、痛みがあるわけではないが神経が回復しなければ動かすこともできない。腕を上げることもできないのだから、当然、スパイクも打てない。

数少ない公式戦の場で、諸石真衣(3年、清和女学院)とレギュラー争いを繰り広げている最中のこと。メンバーからも外れ、それでもチームのために主将として引っ張らなければならないと頭では分かっていても、最初は自分のことしか考えられず落ち込んだ。「11月の2週目になってやっとスパイクが打てるようになったけど、全ての練習に出られるようになったのは最後の最後。この2カ月、たくさん泣きました」

時間は止まらず、インカレへのカウントダウンは進むばかり。試合が近づき、3年生主体のメンバーが固定されつつあったが、なかなかまとまらず、個々がバラバラになっているのが金本にも分かった。自身が思うようなプレーができないもどかしさはあったが、このままではチームとして戦うことすらできないかもしれない。だから金本は「腹をくくった」と言い、時には厳しい言葉で練習中から後輩たちを叱咤(しった)した。その「喝」と「檄(げき)」がチームを変えた。セッターの東はそう言う。

東(7番)はコートに立てない4年生の思いも背負ってプレーした

「大会が近づいて、勝つためにはもっとこうしなきゃと分かっていても気合が入らなかったり、ミスをしたら落ち込んだりとバラバラでした。でも4年生がそこで喝を入れて、自分たちがゲームをつくっていかなければいけない、と思い知らされた。私たちにはあと1年あるけれど、このメンバーで戦えるのはこれが最後。4年生のために頑張ろう、とチームがまとまるきっかけになりました」

「後輩たちが頑張ってくれてつかんだ勝利」

サーブレシーブが返った万全の状態からのコンビバレーに限らず、レシーブが崩れ、セッター以外の選手が上げる二段トス時も、ただ簡単に返すのではなく打ちにいく。今年のテーマである「団結」「貪欲」が示すように、難しい状況からも諦めるのではなく、思い切って打つ。攻めの姿勢が流れを引き寄せ、第4セットからは再びチームとして機能し始める。追う東海を“受ける”のではなく、自分たちから“攻め”にいく。第4セットの最後に中島が決めたスパイクは、それまでの成果が積み重なった会心の一本だった。

攻めの姿勢で流れを引き寄せ、チーム力で戦い抜いた

金本は決勝の舞台で与えられたチャンスも、迷惑しかかけられなかったと苦笑いを浮かべた。コロナ禍で試合がなくなる悔しさも、けがの苦しみも乗り越え、最後にたどり着いた頂点。「実感がなかった」と笑いながら、金本が言った。

「とにかくうれしいのひと言。後輩たちが頑張ってくれてつかんだ勝利。私たちは日本一幸せな4年生でした」

苦しい時の涙は誰にも見せたくなかった。たくさん、たくさんひとりで泣いて、最後にやっとみんなの前で流したうれし涙。諦めないでよかった。最後は笑顔で、喜びをかみしめた。

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