陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

箱根駅伝監督トークバトル オンラインでも舌戦は健在! 各大学の戦略は?

前回の優勝会見での原晋監督。果たして今大会のこの席に座るのは誰になるのか(撮影・藤井みさ)

12月10日に第97回箱根駅伝のチームエントリー・記者発表会が行われ、毎年恒例のイベントとなっている「監督トークバトル」も開催された。今年は新型コロナウイルスの影響により、司会者以外はそれぞれの場所からつなぐという異例のオンライン開催となった。

初登場2人、新鮮な顔ぶれでスタート

トークバトルには例年、前回大会で5位までに入った監督が出席する。今回の顔ぶれは青山学院大学・原晋監督、東海大学・両角速監督、國學院大學・前田康弘監督、帝京大学・中野孝行監督、東京国際大学・大志田秀次監督の5人。初登場となる前田監督と大志田監督は若干緊張している様子。さらにモデレーターとして山梨学院大学陸上部監督であり関東学生陸上競技連盟の駅伝対策委員長でもある上田誠仁さんを迎え、画面越しにトークが交わされた。

まずは例年にない状況となった今年、どのように過ごしてきたかという質問。各大学の監督はそれぞれこの状況で大会が開催されることへの感謝を口にしつつ、それぞれが工夫して苦しい時間を乗り越えてきたことを明かした。前田監督は「なぜ走っているのか、なぜ箱根を目指しているのかを改めて考える時間ができ、裏を返せば貴重な時間だったと思う」と実感を込めて口にした。

ここで上田さんがフリップを出し、「競走⇔協創」、そして「共創」の文字。競走を目的とする箱根駅伝を、協力して、ファンのみなさんもともにつくっていこう。無観客での開催に協力していただき、「暗い闇のような時代なんだけど、一筋の光差し込むような大会であってほしい」とさすがのコメント。

「優勝」目標は青学、東海

続いて「目標とする順位(往路・復路も)」の質問。原監督は往路・復路・総合すべてに「優勝」。往路から先頭に立たなければ大混戦の箱根は勝てない、往路から遅れるようでは復路大逆転もできない、と強調。そして作戦名を「いつもまじめにやってるつもりなんですけど」と前置きし、「絆大作戦」と発表。「コロナ禍において分断社会になってきている気がします。会話は駄目、距離を取れ。そういう今こそ絆を大切にしたいと。部員全員の絆をもって走り切る、そういう思いですね」

戦力と「駅伝力」が充実する青山学院大学は、「絆大作戦」で2連覇を狙う(撮影・藤井みさ)

続いて両角監督は往路・復路ともに「優勝」、そして総合で「優勝V」と記載。「原監督と同じだったのでVを入れました(笑)」といい、「全日本大学駅伝のときも原監督と同じような意気込みだったけど共倒れしたんで」と笑いを誘った。「今回はなんとか優勝争いに絡みつつ、僅差でもいいので勝ちたい」と意気込みを語った。

続く前田監督はすべて「3位」。学生たちが立てたチーム目標は総合3位。「前回3位を取って、(今回は)試される大会だと思う」とし、前回は往路2位・復路10位だったこともあげ「(往路と復路の順位は)あまり気にしてないんだけど、中野監督のところにしっかり勝って総合3位を取りたい」

ケンカを売られた形の中野監督は往路3位、復路は空白、総合は3位と記載。前回の箱根駅伝が終わった後、前々回5位、前回4位だったので3位を目指したいと決めたという。「11月に学生たちが話し合って、往路3位でいける確信ができた」という。重ねて往路3位の確証とは? と問われると、「1位、2位は東海と青学のどちらかが当然取るでしょう。1区から4区を走る選手がいて、5区の上り対策もできてきてるし……作戦は言いません!」と煙に巻いた。

國學院大学と帝京大学は3秒差で3、4位となった。中野監督や選手たちは悔しさを口にした(撮影・藤井みさ)

大志田監督はちょっと気まずそうな雰囲気を醸し出しながらも「往路6位、復路10位、総合8位」と記載。控えめじゃないですか? と問われると「やっぱり勝てないところが相当数あるなと思います。でも去年そんな話を選手たちとしている中で5番まで来てくれた。これを見て学生たちに奮起してほしいです」と実直な大志田監督らしい回答。これに上田さんは「優勝と書くには、ある種の確信を持たないと書けないんですよね。大志田さんのように堅実にというのは、大切な要素かと思います」とアシスト。

各チーム注目の選手の現状は?

続いてエントリーメンバーを見ながらそれぞれの見どころをチェック。10000mの上位10人の平均タイムが28分台のチームが、シード校では10校中5校、予選会からと学生連合チーム合わせた11校中5校にものぼることに上田さんが触れ、「こんなことは過去なかったですよ。シード権を取るのも優勝するのも大変だけど、まず出場するのも大変です」と近年さらに激しさを増している長距離界の競争について語った。

東京国際大学は4年生が6人。バランスが取れ、誰がどの区間に回ってもいいエントリーだと上田さん。大志田監督はイェゴン・ヴィンセント(2年)が秋口にけがをしたことにも触れ「練習は順調にこなしてるので、我々も何区にするか見ながら、考えながら調子を上げさせてるところです」。

帝京大学は4年生が5人、3年生が7人と上級生主体のエントリーに。「4年のときに集大成を発揮できる、いろいろな経験をして4年生のときに花開くのが学生スポーツではベスト」と「育成の帝京」らしい中野監督の発言。前回3区区間2位だった遠藤大地(3年、古川工)の活躍が期待されますが……と話を向けられると、「去年は出雲がだめで、全日本を走ってなくて箱根でのあの活躍。今年は全日本では結果を出せていませんが、調子は上がってきていますよ」と含み笑いでかわした。

國學院大學は4年生が8人と最多のエントリー。「土方、浦野が抜けたと言われがちですが、主軸は前回も箱根駅伝を経験した6人。彼らの充実度は例年と比べたらかなり高いです」と前田監督。藤木宏太(3年、北海道栄)、中西大翔(2年、金沢龍谷)がその中でも抜き出ている。「往路から出遅れてしまうと、うちには原監督の言うところのゲームチェンジャーはいないので、本流に乗って粘っていきたい」と引き締める。

東海大は前回、名取と西田が4、5区で襷リレー(撮影・北川直樹)

東海大学は4年生4人、3年生5人、2年生4人、1年生3人とバランスの取れたエントリー。両角監督は「やはり4年生の塩澤稀夕(伊賀白鳳)、名取燎太(佐久長聖)、西田壮志(九州学院)の3本柱。この3人は前回も往路を走ったので、最初から主導権を握っていきたいです」という。上田さんから全日本のレースでの巻き返しはさすが、と評され「今年一番の成長株は?」と問われると、両角監督は長田駿佑(3年、東海大札幌)の名前をあげた。「1年で大きく成長してくれました。全日本で区間賞を取り、先頭に出てくれた。こういった選手が、昨年の黄金世代の影に埋もれていましたが、卒業とともに出てきました」。また、1年生は記録会に出していないから公認タイムがないとし、タイム以上の実力はしっかりとついていることにも言及した。

青山学院大学は1年生でエントリーしたのは、佐藤一世(八千代松陰)のみ。原監督は「例年だともう少し1年生が入るんですけどね。毎年選考と位置づけている11月の世田谷ハーフが中止になって、1年生にとってはハーフの実績を発揮する場面がなかった。トラックのタイムは持っているけど、箱根の距離に対する信頼を獲得する機会がなかったんです」と独特の表現。

4年生の竹石尚人(鶴崎工)、吉田圭太(世羅)、神林勇太(九州学院)には絶大な信頼を置いているとし、「有終の美を飾ってくれると信じている」と常々「4年生力」を強調している原監督らしい言葉を発した。

1年生ながら2区で好走した岸本。原監督は彼の将来性も考えてじっくり育てたいという(撮影・藤井みさ)

上田さんは「28分台10人と、29分台1桁の選手。それからハーフマラソンで1時間3分台が7人いるんですよね。平均タイムはそこまで速くなくても、原さんの指導によりレース展開のうまさも備えている」と評価。「5区は竹石くんとか飯田(貴之、3年、八千代松陰)くんとか?」とサラリと聞くと原監督は「上田先生の話術にはまっちゃうな~」と笑いながらかわす。前回2区を走った岸本大紀(2年、三条)はエントリーから漏れている。今の状態については「ようやく走り出したところ。箱根駅伝だけを目標にしてほしくない、2024年パリオリンピック、2028年ロサンゼルスオリンピックで活躍する選手だと思っている」と期待を語り、中途半端な状態でレースに出すのではなく、しっかり強化したいと方針を語った。

1区、2区は誰が走るの? 直球質問に監督の回答は……

続いて「監督からの質問」コーナーでは、各監督が他の監督に質問をぶつけた。まず大志田監督からの質問は「区間配置はいつ選手に伝えますか?」。大志田監督は選手に対して、だいたいここで行くよ、というのは早めに話しているという。

中野監督は「主要区間はだいたいなんとなく話す」としながらも、「うちは固定メンバーをあまり作ってないんです」という。2007年に入学した西村知修(ともなお)は4年間箱根を走ったが、すべて違う区間だった。「当日にベストな選手を使いたいんです。早いうちに伝えているって聞くと、大丈夫なのかな? と思いますね」

前田監督は「年によって違う」と言い、前回は早かったと振り返る。「5、6区は早めに人選してると思うけど、復路はギリギリまで迷うところもあるのかなと。主要区間はある程度早い段階で伝えますね」。原監督は毎日考えているといい、「ぼやき」の形で選手に伝えているという。「お前は2区かな~~」などとつぶやいたりして「それで選手がなんとなく意識していると思います」。トイレの中にホワイトボードがあり、毎回区間配置を考えていると言い、「奥さんがうんざりしてると思います」と笑わせた。

両角監督は「ずいぶん上りばっかりやらせるなとか、なんとなく選手も察してくると思います」と匂わせ型。本人がどこを走りたいかも重要だと考えていて、「マネージャーをうまく使って引き出したりします。腹のさぐりあいですね」と明かした。

中野監督からの質問はズバリ「1区、2区は誰が走るの?」。昨年同様、切り込み隊長ぶりが光る。大志田監督は「ご想像どおり」とイェゴン・ヴィンセントが2区だと認め、「隠しても隠しきれないので……」。1区はまだ決めかねていると素直に返答。前田監督は「藤木くんは往路です」とかわそうとすると中野監督は「それは聞いてないです」と笑ってピシャリ。

ヴィンセント(右)は前回3区を走り、異次元の区間新記録を樹立。今年は2区が濃厚だ(撮影・藤井みさ)

ここで前田監督からの質問として、「中野さんとかぶっちゃいますが」といいながら「1区問題」に言及した。1区がスローペースになるかハイペースになるのか、展開と人選を読み合うのが一番大事として「青学さんは吉田、帝京さんは小野寺を使ってきそう」とかまをかけた。両角監督は「ここまで一言も出てないですが」と前置きし、「間違いなく1区には順天堂の三浦くんと中央大の吉居くんが来てハイペースになる」と予想。「遅れたら致命傷になるので、出し惜しみしないこと。うちはエースを先手必勝で出そうと思ってます」。

トークバトルにも永久シード権!? やっぱり物足りないのは……

その両角監督からの質問は「メンバーを外れた選手へのフォローは?」。両角監督自身も悩ましいとし、「涙する者もいて、なかなか適切な言葉が出てこない」と選手の心情を慮った。原監督は「個人としては(フォローは)さほどしてなくて、チームとしてフォローしてる」と回答。「そもそも59人部員がいて、10人しか走れないんです。エントリーメンバーの16人も好き嫌いで選んでるのではなく、平等な基準で選んでいるので」とし、寮母の美穂さん、コーチ、学生スタッフ、同級生、先輩後輩が「組織としてフォローし合っている」と原監督らしい回答。

前田監督は10人のメンバーを選び伝える際、1対1でメンバー外の選手に話をするといい、「大晦日か元旦ですが、1年で一番キツイ日です」。監督の一番大事な仕事だとも言いながら、情に厚い前田監督は選手が部屋に入る前から泣いてしまっていることもあるという。

中野監督は年間を通して学生たちのいいところを見つけようとしているが、この時期だけはメンバーから外すために「嫌なところを探す作業」になると回答。しかし情を入れてしまうと、学生たちの総意であるチーム目標を達成できない。「本当に勝ちたいんだったら人以上のことをやれよ、勝てなかったり(メンバーに)なれなかったら努力が足りなかったんだよと伝えています」と、日頃から最終的にフォローをしなくても良い状況を作っているという。

大志田監督はメンバー外になる選手には、全員に発表する前に理由とともに伝えるという。傷つかないように、発表するときには理解して聞いてもらえるようにという思いからだ。現状の部員は70人。上のチームに入れない選手たちに関しては、もう来年の戦いは始まっているとも告げ、それぞれの目標・目的を早い段階で持たせるようにしていると回答した。

そして原監督からの質問。「このトークバトルをもっともっと盛り上げていかないと思うんです!」と前置きし、「トークバトルにもシード権を! 永久シード権は誰!?」とフリップを掲げた。大志田監督は駒澤大学の大八木弘明監督の名前をあげ、前田監督、両角監督も同意。「満場一致ですか?」と原監督が聞いたところで中野監督が「原監督と言いたかったんですが。言ってほしくて書いたんじゃないかな? と思って」というと、原監督は「そこまで図々しくありませんからご心配なく」とまたも「原節」を披露した。やはり大八木監督の「男だろ!」のないトークバトルは、少し物足りなさと寂しさを感じさせたようだ。

やはり大八木監督がいないことに物足りなさを感じる方が多かったかも?(昨年のトークバトルにて、撮影・藤井みさ)

ここで司会からの質問、「注目の1年生は?」。大志田監督は「やはり順大の三浦くんと、中大の吉居くん」。中野監督は「あえて駒澤大学の1年生」。3人が28分30秒を切っているとし、「本番で見てみたい」と口にした。前田監督は「東海大の石原(翔太郎、倉敷)くん。劣勢の中、塩尻(和也、順天堂大~富士通)の記録を破るのは、駅伝力が素晴らしい」と評価。両角監督は「駒大の鈴木(芽吹、佐久長聖)くん。勝負強さがあるし、箱根駅伝に対して適正がある選手じゃないかなと思います」。原監督は自分のチームの佐藤一世と石原の名をあげ「この世代は本当に速い、強い。速さプラス『駅伝力』を持ってるのがこの2人じゃないかな」と評価した。

ファンからの質問は「憧れの指導者は?」。前田監督は「言わなくてもわかりますよね(笑)」と恩師・大八木監督の存在を匂わせた。大志田監督は「同い年なんだけど、中央学院大学の川崎(勇二)監督の指導スタイルを真似したい」。高校時代に力がない選手をじっくり強く育てる、その指導力に憧れるという。

中野監督は「憧れは前田さんですね」と笑わせたあと、目標にしたい指導者として上田さんの恩師である澤木啓祐さん、故小出義雄さんの名前をあげた。「2人の緻密さ、丁寧さをずっと伝えていかなければいけないのかなと思っています」。両角監督も「意識したことはなかったけど」と前置きしつつ、両角監督が大学時代に順大が4連覇したときの指導者が澤木さんだったことに触れ、「澤木監督はサイエンスを取り入れた方の先駆け。情もあり信頼感も得ていたし、厳しさもあった。なかなかああいう指導者は現れないのでは」と言いつつ「上田監督も非常に尊敬しております」。

原監督は「指導者を陸上の世界だけで捉えていない」と独自の視点を展開。プロ野球・中日ドラゴンズや東北楽天ゴールデンイーグルスの監督を務めた故星野仙一監督の名前を挙げ「熱意があった愛ある監督」。さらに2015年ラグビーワールドカップ時に日本代表監督を務めていたエディー・ジョーンズさん、ジャパネットたかたの高田明さん、GMOインターネットの熊谷正寿さんなどの名前も口にした。

学生たちの嘘偽りのない走りを見てほしい

最後に各監督の意気込みを発表。

大志田監督は「今年で創部10年目。5年で箱根駅伝出場、5年でシード権、そして次の1歩です。前回大会の5位に恥じないように、固く固くシード権を守っていきたいと思います」。

中野監督は「今年1年、新たな試みをしてきてトライアンドエラーの繰り返しだったのかなと思っています。未来は必ず開けるものだと信じています。その一歩が箱根駅伝であってほしい。帝京大としては4年連続シード権はまだないので、当然チャレンジしていきます。みんなで最高の舞台で、最高の力と力の戦いをしたいです」。

前田監督は「前回総合3位を取れたのは、いままでの卒業生も含めての歴史。しっかり継承して未来につなげていきたい。今大会も頑張っていきたい」。

両角監督は「多くの方が注目される大会で、開催してもらえることに感謝される大会であってほしいと思います。最後まで諦めない走りをしたい」。

原監督は「学生たちも、箱根も開催されるのか不安でしょうがなかったと思う。そんな中で夏合宿などしっかり走り込み準備してきました。学生の嘘偽りのない走りを見てほしい。応援よろしくお願いいたします」。

最後に上田さんは「今回の箱根駅伝は、チーム関係者には応援を自粛し、ファンにもどうか控えてくださいとお願いしています。各大学、予選会を走ったチームもいつもより多く補助員を出します。長距離だけでは足りないので短距離の部員も、すべての大学が黄色いウエアを着て補助員をします。みんなで協力、共創して苦しいときですけど乗り切って、いい大会を見たね、感動したね、と言ってくれたらいいなと思います。福を届けるような熱い走りをテレビの前でしっかり見守っていただければと思います」と締めた。

区間エントリーは29日、本番まであと1週間。果たして今年はどんなドラマが待っているのだろうか。

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