陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

箱根駅伝監督トークバトル、前回トップ5から本音も「男だろ!」も飛び出した

原監督の左隣になることが多い酒井監督は「いつもリアクションに困ってます」(すべて撮影・藤井みさ)

12月10日、箱根駅伝に出場する全21チームのエントリーメンバー16人が発表され、同日には東京・恵比寿で恒例の「監督トークバトル」が実施されました。前回1~5位だったチームの監督、さらにコーディネーターとして関東学生陸上競技連盟駅伝対策委員長の上田誠仁さんが登壇。冒頭で「本音を語る会にしましょうって事前に話しましたからね」と上田さんが言いましたが、監督たちはいかに!?

壇上に並んだ監督は向かって左から前回1位の東海大・両角速監督、2位の青山学院大・原晋監督、3位の東洋大・酒井俊幸監督、4位の駒澤大・大八木弘明監督、5位の帝京大・中野孝行監督。初めて左端になった両角監督が「なんか落ち着かない」と言えば、原監督は「(両角監督とは)同級生対決ですからね」と言い、「原さんの左横が続いてますのでなんとか変えたいですね。いつもリアクションに困ってます」と酒井監督。3年ぶりにトークバトルの舞台に帰ってきた大八木監督が「久しぶりなんでちょっと緊張してます」と言うと、中野監督は「6年ぶりですからね。大八木さんが緊張してるなんて、私なんか心臓が口から出そうです」と笑いを誘いました。

大八木監督(左端)は3年ぶり、中野監督(右端)は6年ぶりの監督トークバトル

ズバリ! 今大会の目標順位は?

最初のお題は毎年恒例の「ズバリ! 今大会の目標順位は? 」から。監督たちがフリップに書こうとすると、大八木監督のペンのキャップがとれず。大八木監督が「男だろ!」と気合を入れ直してペンと格闘するシーンもありました。

大八木監督はとれないペンのキャップに悪戦苦闘。中野監督が助けてくれました

東海大・両角監督「(往路)3位以内、(総合)優勝」
「前回大会、往路が2位で終わりまして、その後、巻き返して総合優勝ということでした。全体的にレースのレベルが上がってますので、しっかり3位以内に入って復路で巻き返しをしたいともくろんでます。(往路1、2位となるライバルは)ここにいらっしゃるチームになると思います。(復路の逆転は)前回は8区でしたけど、そうですね、アンカーにまでもつれこみますかね。そのぐらい今回は接戦、戦国だと思います」

青山学院大・原監督「(往路)3位以内(1分以内)、(総合)優勝」
「順番よりはトップとのタイム差と考えてます。理想を言えば1分以内で往路を終えられればチャンスがあるかなと。トータルで戦うのが青山学院です。往路は10位でもいいと思ってるんです。順位よりも先頭とどのぐらいのタイム差であがってくるのかが一つのポイントになると思ってます」

東洋大・酒井監督「(往路)1位、(総合)1位」
「往路は3連覇を目標に掲げてます。往路は混戦が予想されますけど、優勝を狙うぐらいでいかないと。右隣にいる大学(東海大と青山学院大)に比べると選手層が薄いですので、往路でしっかり流れをつくって主導権を握りたい。(前回の往路では)テレビにだいぶ映ってくれました(笑)。学生たちが攻めるんだという走りをしてくれたのが私たちも非常にうれしかったですし、同じように今回も気持ちがこもった走りをしてほしいなと思ってます」

上田さんの鋭い考察に中野監督から「あんまり言わないでください」という声も

駒澤大・大八木監督「(往路)3位以内、(総合)3位以内」
大八木監督が話し出す前、フリップを見た上田さんは「あれほど言ったんですよ、本音で話しましょうって」とコメント。続けて「でも(大八木監督は)柔和な、余裕がある表情をしてますでしょ? あの表情っていうのはやっぱりいいんですよ、チーム状態が」と胸の内を探りました。それに対して大八木監督は「なんせ前回は4位でしたから。着実に上を目指していこうというのがうちの今回の目標。学生三大駅伝すべてで3位以内と言ってたので、とりあえずは3位以内をクリアしていかないと。でも往路はトップを狙わないと3位以内には入れませんから。往路で3位以内と言いましたけど、勝ちにいきたいという思いはあります。とにかくがんばります」

帝京大・中野監督「(往路)?、(総合)V<W」
「『5強』と世間では言われてて、でもその中にうちは入ってません。往路はタイム差かなと思ってます。なんせ前回は5位だったもんですから、5位からちょっとでも隙があれば一角を崩したい。かき乱したいと思ってます」

往路優勝を掲げる國學院大の前田監督に対し「そんな甘いものじゃないぞ」

「一角を崩す」という話から、今年、出雲駅伝を初めて制した國學院大の話しになりました。大八木監督の教え子である國學院大の前田康弘監督に対し、大八木監督は「出雲では負けてちょっと悔しいのと、ほめたいなというのがありましたけど、箱根は別ですからね。往路をとりくにくると思いますけど、そんな甘いものじゃないぞと言いたいですね」と改めて箱根の厳しさを口にしました。

エントリーメンバーをこの16人に絞った狙いは?

この日、各チームのエントリーシートが発表されました。そのメンバーにした意図や箱根駅伝本番に向けたプランを、監督よりそれぞれ語ってもらいました。

帝京大・中野監督(上位10人の10000mの平均タイムは28分52秒21)
「ほかの大学では1年生が6人いるようなチームもありますけど、でも私は箱根では上級生ががんばるものだと思ってます。(10000mの平均タイム)の1~10番目がいつもだと1、2人かけて平均が下がるんですけど、今回は1~10番目の選手がそのままスポッと入るぐらい順当なメンバー構成になりました。逆に1~2年生にもおもしろい選手がいます」

駒澤大・大八木監督(同、28分51秒37)
「さきほど中野監督がおっしゃった通り、箱根の場合は20kmだから、上級生がスタミナ的なところをしっかりしてくれればチームも上がってくるとは思います。2~3年生がもう1~2人増えてくれたらよかったけど、今年は1年生の元気がいいもんですから。田澤廉(1年、青森山田)は当然、主力区間で使います。でもまぁ、1年生なので思いっきりやってもらいたいな。箱根だけじゃないんで、もっと上を目指していかないといけない素材かなと思ってます。前回、全日本(大学駅伝)が初めてなんですよ、10km以上を走ったのが。だんだん自信がつき始めましたけど、まだまだこれからだと思います」

東洋大・酒井監督(同、29分3秒76)
「駒澤に似たようなオーダーなんですけど、やはりエース相澤(晃、4年、学法石川)を中心として、下級生、とくに1年生がエントリー直前でものすごく調子を上げてきました。2~4年生の中にも駅伝シーズンもしくは箱根初エントリーの子も多いのが特徴になってます。蝦夷森章太(愛知)と宮下隼人(富士河口湖)の2年生の二人も非常に期待してます。西山和弥(3年、東農大第二)に関しても、東京オリンピック50km競歩に内定した東洋大の川野将虎(御殿場南)と同期なので、大いに刺激になってるようです。彼らががんばることでエース相澤の走りも変わってくると思います。西山は出雲と全日本では本来の力を発揮できてませんけど、12月になってからはこれまでに比べるとだいぶ調子を上げてきてますので、3年連続(1区)区間賞、もしくは他の区間で存在感を出してほしいと思ってます」

「今年は自ら出てきた作戦です」と原監督

青山学院大・原監督(同、28分45秒37)
「バランスがよくなってきたのかなと思ってます。各学年にいわゆる走れるメンバーを準備できたかなと。前回、山登りをして今回リベンジをかけていた竹石尚人(4年、鶴崎工)が外れたことが、残念なオーダーなんですけど。それでもおかげさまで、10000mの平均タイムは20大学中1番にいるといういい状態でこられたと思ってます」。原監督はさらに今回の作戦名を尋ねられると、「いつ言おうかと思ってたんですよ」と笑顔。「第1回でメジャーになりました『わくわく大作戦』、あれは自ら出てきた作戦でした。でも段々とマスコミのみなさんに踊らされて、作られてきた作戦になってたんですけど、今回は自ら出てきました。『やっぱり大作戦』。春先から状態が悪かった。青山学院は終わったんじゃないかと思われてきたファンのみなさんも多いと思います。それでもやはり最後は、やっぱり4年生強かった、やっぱり青山学院強かった、やっぱり青山学院応援してよかった。そういう風なかたちで、大手町に笑顔でゴールをしたい」

作戦名に対し、原監督の同級生でもある両角監督は「やっぱりだめだったね」と言っては笑いをとり、原監督も「『やっぱり東海だったと言われないように」と意気込みました。

「やっぱりだめだったね(笑)」。同級生の両角監督だからこその言葉も

東海大・両角監督(同、28分50秒55)
「学生スポーツは4年生が引っ張る。とくに『黄金世代』と呼ばれる選手たちが最終学年を迎えましたので、彼らが中心になっていくわけです。箱根駅伝経験者が8人残ったんですけど、でも8人がそのまま残るんじゃなくて部内競争をして連覇を目指そうとしてました。その中で3年生以下が台頭してきまして、選手層に厚みがでてきたのかなと思います。館澤亨次(4年、埼玉栄)がしっかり戻ってきたので、起用する予定ではいます」

帝京大・中野監督から直球の質問

続いての「監督からの質問」では、帝京大・中野監督からストレートに「1区2区は誰ですか? 」という質問がありました。

「本学の戦術にも関わるところなので正直に答えてもらいたい」と中野監督

駒澤大・大八木監督は腕組みをしたり首をひねったりしながら「いま一番悩んでるところです」と言い、「たぶん3~4年生の中からいくと思います」とコメント。東洋大・酒井監督は「経験者で言えば西山と相澤、経験者じゃない選手からあげるという可能性も大いにありますし。でも経験者を使うという可能性は高いと思います。西山を復路にもってきて、思いきって(1区)相澤でいくとか。でも、相澤は4区も経験してますからね」と明言を避けた。相澤1区には、大八木監督から思わず「ありえない!」との言葉も。

青山学院大・原監督が「出雲と全日本では湯原慶吾(2年、水戸工)でそこそこのとこにきたので、湯原もあるかな。前回、鈴木塁人(4年、流経大柏)が裏の1区(アンカー)を走ったし、1区の経験もあります。岸本大紀(1年、三条)も使いようがあるかな」と言うと、中野監督が「結局誰? 」とツッコミを入れるシーンも。東海大・両角監督「鬼塚が1区を2回経験してます。出雲は西川雄一朗(4年、九州学院)、全日本は小松陽平(4年、東海大四=現・東海大札幌)も1区を経験してますし誰でもいける体制です。2区は阪口竜平(4年、洛南)や名取燎太(3年、佐久長聖)、塩澤稀夕(きせき、3年、伊賀白鳳)もこうご期待」と回答。逆に誰でもいけるという印象を与えました。

大八木監督はサウナでコミュニケーション、両角監督はランでコミュニケーション

駒澤大・大八木監督からの質問は「選手とのコミュニケーション」。大八木監督ご自身は「私はいつも(寮にある)サウナで5~10分、優しい言葉でコミュニケーション」と明かしました。帝京大・中野監督は「これと言ったことはなく。ソフトに丁寧に会話をします」とコメント。東洋大・酒井監督は「基本的に全員に声をかけることを大事にしてます」と言い、青山学院大・原監督は「学生たちと一緒に寮で暮らしてますから、毎朝の食事のときに立ち会うようにしてまして、他愛もない話しをしてます」。その中で東海大・両角監督は「一緒にランニングをして汗をかく。時間もじっくりとれますから、いろんなことを聞き出します」と話しました。

監督車の中はどう? どんな声かけをする?

一般から募集した質問として「監督車の中はどんな雰囲気ですか。声かけで気をつけていることはなんですか」が各監督に投げかけられました。

駒澤大・大八木監督
「声かけは1分間でしっかり伝えないといけないので、ポジティブになるような言葉を考えてしてますね。いまの状態や前後との差、ペース配分とかをどれだけ分かりやすく伝えられるか。そしてやる気を出させられるか。前半はおとなしいですよ、優しいですよ。後半になりましたら檄が飛びますし会津弁が出ます。でも最後だけです、『男だろ!』は」

大八木監督の「男だろ!」の声は酒井監督にも届いているようです

東洋大・酒井監督
「(前にいても)大八木さんの声はこだまのように響いてきます。おかしいなと、同じスピーカーのはずなのに。本当に大八木さんの声は通るんですよ」

前回の8区は先行していた東洋大に東海大が追いつき、併走しながら先頭争いをする展開となりました。声かけをすると相手の選手にも届いてしまう。そんな中、両校の監督はどう声をかけたのでしょうか。まず東海大・両角監督は「いろんな声をかけたけど、小松には聞こえてなかったそうです。決して声が小さかったわけじゃないと思うんですけど、観衆に消されたのか。でも結果オーライ」とコメント。東洋大・酒井監督は「後ろから青山学院が猛追してたので、東洋と東海がスローダウンするのはまずいと思い、互いが競ってくれたらいいのかなと思いました。こっちが声かけても選手には聞こえないときがあります。沿道の大声援もありますし、本人がゾーンに入ってるときとか、声も入らないほど余裕がないときとか。そうした反応を見て対応するようにしてます」

帝京大・中野監督
「声かけですか? 思ったことしか言ってないので、そのときのフィーリングでしかない。監督車の雰囲気もあるんですけど。監督車には走路管理員審判、ドライバー、監督とマネージャーの5人が乗ります。私は必ず乗る前に『監督車の経験はありますか?』と尋ねます。そこで中央学院の川崎勇二監督や駒澤大の大八木監督と乗ったことがあると言ったら、『大丈夫だな』と安心できるんですよ」

青山学院大・原監督
「監督車に乗って最初にやる仕事はみなさんに飴を配ることです。5時間一緒に乗るので、まずは仲良くならないといけない。ゆっくりいきましょうねって車内を温めてからスタートします」

各校の目標。たった一つの優勝を目指し、勝負のときは間もなく

それぞれの監督がどのようなことに心を砕いているか。外からではなかなか見えないところも、このトークバトルでは少しだけ明かしてくださいました。本戦が迫った中、選手たちはここからさらに走り込み、最終調整に向かいます。その先でどんなレースが繰り広げられるのか、期待が高まります。

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