野球

早稲田・小宮山悟監督×青学・原晋監督が語る理想の主将、学生を指導する思い

野球と陸上、競技を超えて小宮山監督(右)と原監督が大学スポーツの現場での思いを語り合った(写真提供・ UNIVAS)

UNIVASは1月16日、2021年シーズンに新主将を務める大学生アスリートを対象にした「リーダーズキャンプ」として、早稲田大学野球部の小宮山悟監督と青山学院大学陸上競技部長距離ブロックの原晋監督のトークショーを実施。監督としてのリーダーシップやチームにいたらうれしいキャプテンなど、現場を知る監督だからこその思いを語り合った。

感心したホームスチール、目についた意識の低さ 早稲田大野球部・小宮山悟監督(上)
青学・原晋監督、「勝てるメンタル」は型破りなポジティブ思考から

早川を中心にひとつになり、10季ぶりに早大野球部優勝

このリーダーズキャンプはUNIVASのトップパートナーであるマイナビとともに昨年から展開しており、UNIVAS加盟大学・競技団体に所属する2021年度運動部の主将を対象にしている。今回は新型コロナウイルスの影響を受けてオンラインでの開催となったが、昨年2月に行われた前回は、北海道から九州まで23大学19競技41人の新主将が集い、競技や大学の枠を超えて交流を深めた。

今年は第1回を1月16、17日に、第2回を1月23、24日に、第3回を2月19、20日に、第4回を2月21、22日にそれぞれ実施し、学生たちがチームの主将として、また社会で求められるリーダーとしての心得を学ぶ場所を提供している。小宮山監督と原監督のトークショーは16日のみ行われ、参加者からの質問に答える時間も設けられた。

早大は秋季リーグで無敗を守り、10季ぶりの優勝をつかんだ(撮影・朝日新聞社)

小宮山監督は現役時代、早大で第79代主将を務め、1989年秋のドラフト1位でロッテに入団。横浜を経て2002年にはMLBのニューヨーク・メッツでもプレーした。04年から再びロッテで投げ、09年シーズン限りで引退している。早大の監督に就任したのは19年のこと。2年目となる20年シーズン、早大は秋季リーグで15年秋以来となる10季ぶり46度目の優勝を飾った。「コロナで思うようにならなかった1年でしたけど、学生が今、何をすべきかをいろいろ考えながら行動し、練習した成果をあげてくれました。早川(隆久、4年、木更津総合、楽天にドラフト1位で入団)が目立ったチームでしたけど、早川以外の4年生もひとつにまとまっていいチームになったと思っています。見事でした」と学生たちをたたえる。

青学は今年の箱根駅伝で往路12位から巻き返し、復路優勝・総合4位を成し遂げた(撮影・藤井みさ)

原監督は中京大学卒業後、1989年に実業団の選手として中国電力に入社し、95年に現役引退後も同社に勤めた。青学の監督に就任したのは2004年。15年には青学を初の箱根駅伝総合優勝に導き、箱根駅伝で4連覇を達成した。今年の箱根駅伝では往路12位に沈み、「私自身が本当に落ち込んでいた」と原監督は言う。しかし復路の選手から「僕たちの力はこんなもんじゃない。監督心配しないでください、復路優勝します!」と励まされたことで前を向き、青学は復路優勝・総合4位をつかんだ。

学生への指導で大切にしていること

小宮山監督は「試合なので相手に勝たないといけないのが大前提だけど、基本的に勝つことよりもグラウンドの中で大事なものを育てるというつもりで学生とは接している」と話す。毎日ぶれることなく自分のレベルを上げるためにどうしたらいいのかをそれぞれが考え、昨日の自分よりもうまくなる。そんな思いを大切にしてほしいと考えている。

その根本にあるのが「試合に臨むまでにどれだけ準備ができたか」ということ。「学生にはやり残したことがないように試合に臨めと言っていますけど、絶対にそんなことはないですから。試合に臨む前には『あれをやっておけばよかった』と思うのが当たり前。その不安をできるだけ解消して試合に臨めるかどうかが監督の仕事だと思うので、毎日顔を突き合わせて、昨日よりもいい動きだなとか、やる気がないのかなとか、毎日観察しています」

壁にぶつかった時、「壁の向こうに何があるんだろうという思いが強いやつの勝ち。僕自身、壁だらけだった。それを四苦八苦しながらやるのが楽しくてしょうがなかった」と小宮山監督(写真提供・ UNIVAS)

今春で青学の監督に就任してから18年目となる原監督は「当初と今では指導スタイルがある意味真逆。簡単に言うと、君臨型からサーバント型に変わっているんです」と言う。また就任当初は1から10までこと細かく指摘することが多かったと振り返る。

「規則正しい生活が大切。陸上競技の先生というよりは、生活指導の先生のようなところがありました。中電のトレーニングをそのままもっていったら強くなるのかなと思ったんですけど、そんなことはありません。まずは陸上競技に向き合う心構えをしっかりしないといけない。朝起きて、3食しっかり食べて、夜10時に寝る。その中でトレーニングをする。それが基本です」

そうした基本が確立できるようになり、15年の初の箱根駅伝総合優勝につながった。今は「当たり前のことが当たり前にできるようになりましたね。監督の仕事は、夏合宿で走り込みすぎる選手を抑えることです」と話す。

主将が背中を見せてチームを引っ張る

「チームにいたらうれしいキャプテン」というテーマに対し、小宮山監督は20年シーズンの主将を務めた早川の名前を口にした。監督1年目の時は学生たちが主将を決めたが、2年目の20年シーズンは小宮山監督が「彼だったら間違いない」と考えて指名した。「チームの中で一番能力があったから、彼が先頭になってみんなを引っ張る形を取りたかったんです」

早川はドラフト1位候補としても常に注目を浴びていた中、主将としてエースとして、チームを勝利に導いた(撮影・朝日新聞社)

そんな早川は主将になってからすぐに、「思うようにならない選手を一緒に引っ張り上げたい」と小宮山監督に伝えたという。しかし小宮山監督は「それはするな」と止めた。「必死になってもがいている選手には監督として手を差し伸べる。その姿勢が伝わらない選手はほっといていい」と小宮山監督は言い、背中を見せてくれる主将の姿を早川に求めた。

主将としてエースとして、早川は日々考えながら練習に取り組み、先頭を切って走る姿をチームに示した。「キャプテンとしての1年間は満点。最終的に頑張りが利くかどうかってところが、監督としてありがたいキャプテンがどうかだと思うんですけど、どこに出しても恥ずかしくない選手でした。プロの選手として4月から1軍でデビューするでしょう。学生時代の練習しているさまを見ていたら間違いなくプロでやれる」と小宮山監督は言う。

チーム崩壊の危機を救った主将

青学長距離ブロックの主将は毎年、新4年生が中心になって学生が決めている。ただその際、原監督はじゃんけんや多数決で決めることはせず、覚悟をもってできる選手が主将をやるようにしてほしいと伝えている。また、主将だけに任せることがないよう、みんながリーダーとしての気質はもってほしいということも加えている。

「たまたまそのポジションについているだけで、それをキャプテンだけに任せるのはおかしい。できないことまで無理やりする必要はない。自分の強みの部分を生かせばいい。できる理屈をもってして前向きにやろうね。お前だけには任せないよ。監督やマネージャーもいるよ。組織としてがんばっていこうね、と言っています」

そんな原監督だが、過去に1度だけ、主将を原監督自身が指名したことがあるという。監督就任時の1期生で入ってきた代の檜山雄一郎主将だ。就任3年目の箱根駅伝予選会で16位に沈み、チームは崩壊寸前。原監督とチームの関係も悪化していた中、原監督の支えになってくれたのが檜山さんだった。「彼が私の右腕になって私の言葉をかみくだいて、後輩たちに『原監督はこういう意味でみんなに言っているんだよ』と伝えてくれた。箱根を走っていない、指導者をしたこともない、青山のOBでもない。そんな原が指導してちゃんと伸びるのかって選手は分からないですよね。それでもキャプテンが信じてくれ、チームを再建してくれました」

当時を振り返り、「妻(寮母も担う美穂さん)からも『監督、それはちょっと言葉足らずだよ』って言われることもあった。反省しています」と原監督。そうした経験も経て、原監督は学生と向き合いながら指導方針を見定めてきた。「聞く耳をもつ指導者じゃないといけないでしょうし、ちゃんと論理的に話ができるかということも大切になります」。その一方で主将には「言葉の理解度が高いことが必要」と話す。小宮山監督も「監督の言わんとしていることを先を読んで動けるような、そういう考え方で動けるといいのかな。毎日顔を合わせていたら監督の人となりなんて分かりますから」と加えた。

原監督自身が実業団という高いレベルで競技をやっていたこともあり、「これは分かるだろう」という思いから言葉を省略していたところもあったという(写真提供・ UNIVAS)

最後に21年シーズンの新主将へのメッセージとして、小宮山監督は「あっという間に1年なんて時間が経ってしまうので、毎日毎日無駄に過ごさないでください。みなさんが思っている以上に時間はないですから。とにかく無駄な時間を過ごさないように頑張ってください。応援しています」とコメント。原監督も「真剣に熱量をもってやってください。これからのスポーツ界はみなさんが切り開いていきます。頑張ってください!」とエールを送った。

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