本郷理華が原点の「アイスリンク仙台」でスケート教室 将来を模索する日々
この春も多くの学生スケーターたちが卒業、第二の人生を歩み始めた。その中で卒業後も競技を続ける女子選手がいる。15、16年四大陸選手権2大会連続銅メダルなど国際大会で活躍した24歳の本郷理華だ。2年前に中京大学を卒業し、約1年半の休養をへて昨年10月に競技復帰し、2年ぶりとなる全日本選手権に出場した。カナダに拠点を戻したいがコロナ禍でいまは中京大学で練習する。この先どんな人生を生きたいのか、まだ答えは出ていない。悩みながら一歩ずつ進み続ける本郷が思いを語ってくれた。
震災10年の節目、思い出のリンクで先生役
3月、東日本大震災10年を前に宮城県仙台市の「アイスリンク仙台」で開かれたスケート教室に本郷の姿があった。2011年に生まれた小学生約70人を対象にスポーツを通じて元気になってもらおうと企画された。仙台市出身の本郷は先生役として参加し、手本を見せながらスケートの楽しさを伝えた。
このスケート教室は昨年も企画されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で中止に。休養中だった本郷はそれに向けて競技復帰の準備をしていただけに特別な思いがあった。震災10年という節目の今年、開催が実現した。「スケートを始めてから滑っていたリンクで、震災の年に生まれた子どもたちに自分がスケートを教えられるのがうれしくて。光栄なことだし、スケートを続けてきたからできたことです」と感慨深げだ。
家族が被災、スケートをしていいのか悩んだ
本郷にとってアイスリンク仙台は原点のリンクだ。「5歳からスケートを始めて、長久保裕先生や阿部奈々美先生に習いました。小学3年生の時にリンクが閉鎖し、4年生の時に名古屋に拠点を移しましたが、正月など仙台に帰った時に練習させてもらいました。思い出がたくさんあります」と振り返る。
本郷だけでなく、06年トリノオリンピック金メダルの荒川静香さんや2大会連続金メダルの羽生結弦ら多くのトップ選手が育った。ショッピングセンターの閉店に伴い一時閉鎖。新たな運営者によって再開されるも11年の東日本大震災で建物損壊の被害に見舞われ、再び一時閉鎖した。
大震災のとき、本郷は中学2年で拠点の名古屋にいた。仙台にいる祖父母や親戚は被災。本郷はインスタントのみそ汁など食料品を送った。「仙台にいる家族はみんな生きるために精いっぱい。仙台のスケーターも大変だったと思うし、すごく悲しい気持ちで胸が痛かった。復興するのに必死になって頑張っているときに、名古屋で私だけがスケートばっかりやっていて本当にいいのかなと悩みました。でも家族や親戚が応援してくれてスケートを続けることができて、今もこうして続けてられています」。
被災の中、応援し続けてくれた祖母の則子さんは、今回のスケート教室が始まる前にそっと訪れ、孫の様子を見守った。
セカンドキャリアの選択肢が増えた
スケート教室は本郷にとって新鮮な経験だった。「スケートをやっている子どもたちにアドバイスをしたことはありますが、初心者の子どもたちに教室という形で教えるのは初めてで緊張しました」と明かす。
目を輝かせながら滑る子どもたちの姿を見て気持ちに少し変化が生まれた。「休養して戻ってくると、前より社交的に、少し明るくなったかなと感じていて、自分が教室で教えられたことにびっくりでした。先生は大変だけど、楽しいこともあるなって。今まで先生になることは考えていませんでしたが、(セカンドキャリアの)選択肢が増えたという感じです」
全日本「目標に向けて頑張れた」
最大の目標だった全日本選手権を終え、改めてシーズンを振り返った。「復帰前は大事な試合に合わせて調子を上げられるようにしていましたが、復帰のシーズンはその余裕もなく、初戦からその時できること全部出す形でやってきました。何もできないところからのスタートだったので、試合が近づくにつれて不安になったりとか、これもできなかったらどうしようとか、休養前のよかったときの自分と比べてしまうときがあって難しかったけれど、それも含めて自分をコントロールして少しずつレベルを上げて試合に臨めました」
中部選手権、西日本選手権は無観客で開催。その分、全日本選手権では観客の前で滑る喜びをかみしめた。「『戻ってきたんだな』という気持ちが大きくて。公式練習から楽しんで滑っていました」。大会で女子最年長だったことにも触れ、「時が流れるのが早いなと。初めてお会いするジュニア選手もいて、1年でこんなに変わるんだと思いました」としみじみ。「目標を達成できたこと、目標に向かって頑張れたことは自分にとってすごく大きかった」と成長を実感した。
ファンの応援、気持ちの面で支えに
本郷はファンから支援金を募り、競技活動を続けている。「コメントを見て、自分のことを応援してくれる方がこんなにもいるのを感じて、すごく励みになりました。気持ちの面でも支えられ、シーズンを戦えたと思うし、スケートが好きだという気持ちでやってこられました」と感謝の気持ちでいっぱいだ。
今シーズンはコロナ禍のため、カナダ・バンクーバーにいる関徳武コーチからリモートで指導を受けていた。支援金は今後カナダに行くことやスケートにかかる費用に充てたいと考えている。
「これから自分がどうするかいろいろ考えている最中です。アイスショーも滑れる機会があれば挑戦したいです。やりたいこと、やれることが一緒かはわからないけれど、そういうのも含めて判断しないといけません。今回のスケート教室のように、いましかできないことを探していろいろ経験したいです。この先、どういう道に進んでも自分らしくやりたいというのがあるので、また応援してくださったらうれしいなと思います」
全日本選手権やスケート教室を通して自分の可能性を模索する本郷。自分がしたいこと、できること、大切にしたいことを確かめながら一歩ずつ、自分のペースで前に進んでいく。