陸上・駅伝

特集:東京オリンピック・パラリンピック

法政大・黒川和樹 関東インカレでもぶっ飛ばして優勝、超前半型の男が五輪を目指す

400mHで優勝し、カメラマンにポーズを決めるサービス精神も(撮影・藤井みさ)

第100回関東学生陸上競技対校選手権 男子1部400mH決勝

5月23日@相模原ギオンスタジアム
1位 黒川和樹(法政大2年)49秒76
2位 山内大夢(早稲田大4年)49秒90
3位 大串弦徳(日本大4年)51秒05

東京オリンピック代表候補がそろった5月9日の「READY STEADY TOKYO」400mHで、黒川和樹(法政大2年、田部)はスタートから抜け出すとそのまま首位を守ってゴール。48秒68をマークし、東京オリンピック参加標準記録を突破。新国立競技場に黒川の歓喜の雄叫びが響いた。その疲労感が抜けないまま、関東インカレに挑んだ。「出ても試合勘を取り戻すくらい」だと言っていたものの、READY STEADY TOKYOで2位だった山内大夢(早稲田大4年、会津)にはやっぱり負けられない。スタートを決め、49秒76で関東インカレ初優勝を飾った。

早稲田大・山内大夢 0秒01差でも黒川和樹に勝ちたい! 僅差での2位に募る悔しさ

後半が強い山内を「萎えさせてやろう」

大会3日目の予選、黒川は50秒98のタイムで1着。余力を残して翌日の決勝に備えた。迎えた最終日、どうも気持ちが盛り上がらない。流しを走ってみても動きが悪い。疲労が抜けていないことを黒川も感じ、「棄権しようかな」という気持ちにもなってしまった。それでももう1本走り、覚悟を決めた。

決勝では黒川が7レーンで山内が6レーンとなり、スタートで黒川は山内の前に見える位置取りになった。山内は後半から強さを発揮してくる選手であり、READY STEADY TOKYOでもラストで一気に黒川に迫ってきた。だったらもう、前半から攻めるしかない。

後半型の山内に対し、前半から攻めると決めていた(撮影・藤井みさ)

特にこの日はバックストレートに強い追い風が吹いていたため、その風の勢いも借りてグングン加速。あとは向かい風のホームストレートでどれだけ動けるか。2番手に上がった山内が迫る中、黒川は首を横に振りながらもがき、最後まで逃げ切った。2位の山内と抱擁を交わし、ヘアバンドを外すとうつむきながら右手でガッツポーズ。そしてゴールで待ち構えていたカメラマンにポーズを決めた。

「前半からぶっ飛ばして(山内を)萎(な)えさせてやろうと」。黒川は開口一番、そう言うと屈託なく笑った。その一方で、「後半よれすぎたので、いくらなんでもよれすぎたので、もう少ししっかり体を動かすことを意識しないと」。風を使って加速した分、最後の向かい風と蓄積された疲労に苦しんだが、自分の強みを生かしての勝利に自信を深めた。

最後は向かい風に苦しみながら、黒川(358番)は0秒14差で勝ち切った(撮影・藤井みさ)

田部高時代、土のトラックで鍛えられ

黒川は山口県下関市出身。長成中学校で陸上を始め、当時は110mHや走り高跳びなどに取り組んでいた。県内の強豪校である田部高校に進み、木田勝久先生に基礎から徹底的に鍛えられ、400mHに専門を変えた。グラウンドにはタータンも敷かれていたが、トラックは土だった。「ボコボコしてて、ちょっと走りづらかったんですよね」と言うが、その環境下で鍛えられたからこそ、スプリント力を高められたと今では感じている。ただ試合ではタータンの上でのレースになるため、日々の練習でその感覚を養うのは難しかった。

高3のインターハイで3位になっているが、そのレースで出口晴翔(現・順天堂大2年、東福岡)の強さをまざまざと見せつけられた。出口は高2の時にインターハイを制し、同年10月に行われたユースオリンピック(ブエノスアイレス)で金メダルを獲得。そして高3のインターハイでは黒川の目の前で2連覇を果たした。「もう、すごいな~って。どんなレースをしても出口に勝てる気がしなかった」と当時を振り返る。

法政大に進学し、練習環境がタータンに変わってから一気に変わった。「毎日タータンなので、1台目の入り方とか実践的な練習ができるようになりました。土でやっていると試合と全然感覚が違ったけど、それが大学になってかみ合うようになってきました」。加えて周りには今回の関東インカレ400mで2位に入った富田大智(2年、中京大中京)や同じく4位の澤田夏輝(4年、麻溝台)など力のある選手がおり、日々の練習から競い合えることも大きかった。

その結果が大学1年目から出始め、初めての日本インカレは49秒19で2位、日本選手権は52秒46で8位。そして2年目の今年、5月3日の静岡国際に出場した後、READY STEADY TOKYOで度肝を抜く走りを見せてくれた。高校時代にどうしても勝てる気がしないと思っていた出口に対しても、今は「負ける気がしないです」と言い切る。

高校時代にベースを鍛え、大学生になった今、開花した(撮影・松永早弥香)

メガネとヘアバンド「しっくりくる」

6月24日からの日本選手権で3位以内に入れば、東京オリンピックに内定する。しかし400mHには現在、すでに参加標準記録を切っている選手が4人いる(黒川、安部孝駿、豊田将樹、山内)。「優勝すればタイムはついてくると思うんですけど、48秒前半を狙います。優勝しか見てないんで。優勝します。3位とか言ってたら7位になっちゃうんで、優勝します!」。自分に言い聞かせるように、黒川は何度も「優勝」を口にした。

地元・下関は菊川のそうめんや河豚(ふぐ)が有名。ゆえに「好きな食べ物」を聞かれると河豚を期待されるのだが、「高いからそんな食べないです。なんでも好きなんだよな~」と答えに困る。黒川のトレードマークとも言えるメガネも実はあまりこだわりはないようで、「中1からです。別にデメリットもないですし、若干重いくらい」。でも雨が降ると見えにくくなるため、「やっぱり変えようかな~」と考え中。それでもヘアバンドもこのメガネも、黒川にとってはしっくりくるスタイルのようだ。

取材中も何度も笑いを誘うしぐさをする黒川だが、レースではとにかく強い。超前半型の男が今、明確に世界を見据えている。

in Additionあわせて読みたい