陸上・駅伝

特集:第100回関東学生陸上競技対校選手権

大東大・吉村玲美、関東インカレ独走Vにも悔しさ 五輪に向けて頑張る姿を見せたい

吉村は3000mSCで圧倒的な強さを見せつけたが、課題が残るレースとなった(撮影・全て藤井みさ)

第100回関東学生陸上競技対校選手権

5月20~23日@相模原ギオンスタジアム
吉村玲美(大東文化大3年)
女子1部1500m 3位 4分26秒99
女子1部3000mSC 1位 10分15秒26

100回記念大会となった今年の関東インカレ、ポスターの真ん中に大きく描かれていたのは吉村玲美(大東文化大3年、白鵬女子)だった。「監督に『もしかしたら真ん中になるかもしれない』と言われた時は『そんなことないですよ!』と言っていたのに本当になってて……。三浦(龍司)くんだと思っていたからちょっとビックリしました」

1500mと3000mSCに出場し、3位と1位。2年前のように2冠は達成できなかったが、ホームグラウンドである神奈川県でのレースで結果を残せた。「地元の方にも、『この子、地元の子なんだ』と思ってもらえたろうし、応援される選手になりたいなと思っているので、(3000mSCで)優勝できてうれしいです」。それでも思いとしては、ただただ悔しい。

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1500mで勝ち切れず、3000mSCで久しぶりの10分台

吉村は4月29日の織田記念と5月9日の「READY STEADY TOKYO」で、ともに3000mSCに出場。織田記念では9分51秒47の大会新記録をマーク。READY STEADY TOKYOでは9分52秒43で3着となり、9分46秒72で2着に入った山中柚乃(愛媛銀行)に自分の記録(9分49秒30)を超えられてしまった。悔しさとともに焦る気持ちはあったが、この2本のレースでは水濠での動きがハマり、手応えを感じられた。その後はスピードを強化するために1500mに集中。1台もハードルを跳ぶことなく、関東インカレを迎えた。

今大会の3000mSCは予選がなく、決勝の1本のみ。初日に1500m予選を走り、2着で決勝へ。2日目の1500m決勝は冷たい雨が降る中で行われ、スタートすると吉村は3番手についた。800mをすぎてから道下美槻(立教大2年、順天)が一気に前に出ると、吉村も前へ。しかしラスト1周でスパートをかけた山崎りさ(日本体育大1年、成田)と樫原沙紀(筑波大2年、呉三津田)に引き離され、3位でゴール。疲労を感じながらも、中1日開けての3000mSCに備えた。

前のレースでいい感覚をつかんだ水濠も、思うようにハマらなかった

最終日は快晴。強い風が吹いてはいたが、記録が出せないような天候ではない。ただ久しぶりのハードルに、流しで飛んだ時から「いつもと違う」と不安を感じていた。スタートしてからすぐに独走。いつもよりもハードルをやや高く跳んでしまい、タイムが思うように上がらない。レースだけを見れば、2位以下を7秒以上も引き離しての完全勝利だが、10分15秒26と久しぶりの10分台に「なんでこんな遅いタイムになっちゃったのかなと、自分でもびっくりです。予選があったらもっとひどかったかもしれない。なんとか1位で戻ってこられたのでよかったんですけど……」と悔しさをにじませた。

タイムが出なかった理由を「練習不足」と吉村は口にした。レースが続き、それに合わせようとしてきたため、練習を積めなかった。スピードを維持する持久力が落ちていることを1500mのレースで痛感。改善できたはずの水濠での動きも、関東インカレではまたうまくハマらなかった。「ハードルの練習をしていなかったので、ここからしっかり練習するんですけど、一番はスピードを維持すること。日本選手権が一番大事な大会なので、そこでしっかりピークが合うようにしていきます」。6月4日からの個人選手権は出場を見送る予定で、練習を積み、6月24日からの日本選手権に備える。

これから日本選手権までは練習を積む期間に当てる

「オリンピックの申し子」と言われ

吉村が陸上を始めたのは高校生になってから。それまでは国体も経験している元バスケ選手の母の影響を受けて、バスケをしていた。影響というよりも、母のおなかにいる時からバスケのコートにいた吉村からすると、バスケをするのはごく自然な流れだったという。湘南地区代表にも選ばれ、高校もバスケで推薦の話をもらっていたが、体育の授業で走った1500mの感覚が忘れられなかった。「お母さん的にはバスケをやってほしかったようですけど、お父さんが中学校で陸上の先生だったから」と、結果的にはバランスがとれた形になった。

白鵬女子高校(神奈川)では1500mや3000mがメインでインターハイでも入賞している。その一方で、元バスケ選手ということから跳躍力を期待され、高2になる前に2000mSCも経験。それでも高校時代は走っても年に2回程度だったという。

2019年に大東文化大学へ入学してすぐの兵庫リレーカーニバルで、3000mSCにエントリー。9分58秒78をマークして優勝したことで、3000mSCに意識を向けるようになった。同年の日本選手権で優勝し、世界選手権(ドーハ)日本代表に選出された。続く世界大会は翌20年の東京オリンピック。「監督から『お前はオリンピックの申し子だ』と言われるようになって、前まではオリンピックなんて自分の中では大きすぎて考えられなかったけど、今は目の前にあるんだなと感じられて、頑張ってみたいなと思うようになりました」

今になって知る学生オリンピアンのプレッシャー

高校時代、松山大学3年生の時にリオデジャネイロオリンピック3000mSCに出場した高見澤安珠さんとの合宿に参加させてもらう機会に恵まれた。その時は「大学生にもオリンピックで活躍する人がいるんだ」と他人事のように感じていたが、今は同じ立場になろうとしている。「これだけプレッシャーや不安があったんだなと初めて知りました」と吉村。コロナ禍で練習環境が限られ、思うように練習ができなかった期間もあった。それでも学生の自分がオリンピックに挑戦することで、誰かを勇気づけられたらと考えている。

「学生でも戦っていけることをいろんな人に認めてもらい、応援してもらえる選手になりたい」と吉村

女子3000mSCはまだ誰も東京オリンピック参加標準記録(9分30秒00)を切れていないが、世界陸連のランキングで45位以内を維持した上で日本選手権で3位以内に入れば、代表に内定する。5月25日現在、吉村は40位(1180ポイント)で山中が42位(1178ポイント)につけている。「日本人トップだけど後ろの選手と数ポイントしか変わらないし、ベストも抜かれています。次の日本選手権で優勝しないと、自分が(東京オリンピックに)いける確率がどんどん下がってしまうので、とにかく日本選手権では優勝することを一番に掲げています」

勝たないといけないというプレッシャーを感じながら、吉村は夢の舞台につながる大一番に全てを捧げる。

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