佐藤楓馬「皇學館大のエース」としての覚悟を胸に、期待に応えられる選手になる
第53回全日本大学駅伝対校選手権大会 東海地区選考会
6月13日@愛知・ウェーブスタジアム刈谷
1位 皇學館大学 4時間10分33秒71
2位 岐阜協立大学 4時間13分13秒12
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10000mタイムレース
1位 横田佳介(中京大4年)29分48秒47
2位 佐藤楓馬(皇學館大2年) 30分09秒14
3位 森川陽之(名古屋大4年) 30分40秒48
皇學館大学にとって5大会連続5回目の全日本大学駅伝出場をかけた東海地区選考会で、佐藤楓馬(皇學館大2年、佐久長聖)は各校のエースがそろった最終3組目に上級生2人とともに出走した。結果は30分09秒14で全体の2位。チームは総合1位で伊勢路をつかみ、ひとまずはホッとしたが、個人としては悔しさが残るレースとなった。
想定よりも速いペースで余裕がなくなり
5月7日に行われた東海インカレ10000mで佐藤は最後に勝ちきり、30分01秒40のタイムで優勝。4月から調子が上がらず不安があった中での勝利に自信を深め、全日本大学駅伝東海地区選考会では「最終組でトップの走りをする」と心に決めていた。
この日は昼間に大雨が降った影響で、湿度が83.0%と高い中でレースが始まった。大きな集団の先頭に立ったのは森川陽之(名古屋大4年、近大東広島)。佐藤としては、まずは皇學館大の3人でレースを牽引(けんいん)し、横田佳介(中京大4年、拓大一)が前に出てきたら勝負する、というレースを思い描いていた。しかし想定よりも速いペースで森川が集団を引っ張り、1km2分52~59秒のペースを刻んでいく。集団の人数は次第に絞られ、5000mをすぎたころには、先頭集団は森川、横田、佐藤の3人になった。
6000mをすぎて横田がペースを上げると、佐藤も歯を食いしばりながらついていく。2人で周を重ねていたが、ラスト1000mあたりで横田と差が開き、最後は単独走でフィニッシュ。トップの横田とは約20秒差だった。「残り10周あたりで横田さんがペースアップした時に苦しくなって、自分もロングスパートをかけようとしていたけど余裕がありませんでした。やはり横田さんの方が一枚上手でした」と悔しさをかみしめた。チームとしては最終組の10着以内に3人が入り、2位の岐阜協立大学との差を広げての1位。5大会連続5回目の伊勢路をつかんだことで、胸をなで下ろした。
伊勢路で中谷雄飛先輩の強さを見せつけられた
佐藤は佐久長聖高校(長野)出身。しかし高校時代は故障も多く、全国高校駅伝(都大路)など華やかな舞台に立てなかった。「強くなって、佐久長聖の仲間とも互角に戦えるような選手になりたい」という思いで皇學館大への進学を志し、高3の1~3月の間、課題に感じていた体づくりにひとりで取り組んだ。ランニングだけでなくウォーキングや自転車、水泳なども取り入れながら運動量を確保。「少しずつ土台をつくる時期だと考えていました。自分の弱いところを見つめ直すなど、自分を客観的に見るのはすごく大事だなって思っています」
その成果もあり、大学に上がってからは継続的に練習ができるようになり、練習でも学生トップクラスだった川瀬翔矢(現Honda)に食らいつく走りを見せた。初めて挑む全日本大学駅伝を前にして、10000mで29分16秒29の自己ベストをマークし、伊勢路へと弾みをつけた。
実はこれが佐藤にとって初めての全国大会だった。2区で川瀬が過去最多となる17人抜きを達成し、早稲田大学と1秒差で競り勝っての4位で襷(たすき)を託された。同じ3区で待ち構えていた早稲田大の選手は、佐久長聖の先輩でもある中谷雄飛(4年)。「襷をかけ、結び直してから前を見ると、もう中谷さんが10mも20mも前を走っていました。中谷さんは高校時代から手が届かなかった存在でしたし、『やっぱり違うんだな』とその後ろ姿を見ただけで思ってしまいました」。また、後ろから追い上げてきた駒澤大学の鈴木芽吹(2年)は佐久長聖の同期。併走できたのはほんの少しだけだった。
最終的に15位で襷リレーし、区間18位。初めての全国の舞台で、たくさんの注目を浴びて走るレースは「今までに感じたことがないほどのプレッシャー」を感じた。ただその中で気がついたこともあったという。
「やはり関東のトップレベルの選手と戦うことは、他の大会では味わえないような緊張感があるんだなって思いました。そこで引いてしまったのは自分の弱さもあるんだろうけど、そういう経験ができただけでも、高校時代に比べたら成長できたなって。高校時代の先輩や同期は、都大路で毎年優勝という目標を掲げて走っていたけど、彼らは自分が想像していたよりもすごいところで戦っていたんだなと思い知らされました。追いつきたいという気持ちと、リスペクトする気持ちがあります」
一日一日の積み重ねが大事
1年目の冬季練習では「記録を出す以前に、まずは土台をつくっていこう」と、日比勝俊監督に相談しながら自分に合ったメニューを選択。ゆっくり短く、ゆっくり長く、速くて短く、速くて長くと、ペースと量で強弱をつけたジョグをこなし、月1000kmペースで距離を踏んだ。「関東の強豪校ではジョグも1km4分を切るペースで走るところもあると思うんですけど、自分の場合はそれをやってしまうと故障のリスクや疲労の慢性化という危険性もあったので、今はまだ準備する時だと思って取り組んでいました」
皇學館大に入学した時に決意した、「強くなって、佐久長聖の仲間とも互角に戦えるような選手になりたい」という思いは変わらない。そのための準備をコツコツと積んでいき、4年生になった時に勝負できるように力をつけていく。佐藤は学生3大駅伝など大きな大会に対し、慎重に目標を定めるようにしている。「夏合宿に限らず日々の練習から、一日一日の積み重ねを大事にして、自分が全日本大学駅伝でどういう走りをしたいか・できるかを考えていきたいです」。現在地と目指す場所との距離を見定めながら、着実に力をつけてきた佐藤らしい考え方だ。
エースとして東海地区を盛り上げる走りを
前エースだった川瀬はそれほど口数が多い方ではなかった。ただ今年3月に川瀬が卒業する前、「これからお前が皇學館を引っ張る立場になると思うから、頑張れよ」と声をかけてくれたという。今回の東海地区選考会前も、選考会に向けて発信した自分のInstagramに対してただ一言、「頑張れよ」と川瀬は反応してくれた。「身が引き締まる思いもありましたし、あまりプレッシャーをかけすぎないように気を遣ってくださっているのが伝わりました」と佐藤はうれしそうに明かしてくれた。
今では自分がエースと呼ばれる立場になった。当初は周りからの期待が重荷に感じてしまうこともあったが、今は違う。「エースと言われている立場を生かして、皇學館大学や東海地区の陸上を盛り上げていきたいです。まだまだ力不足な部分はあるし、これからも思うようにいかないことが出てくると思うけど、自分の弱さも認めて、周りからの期待に応えられる選手になりたいです」
皇學館大は今年、「出雲駅伝10位、全日本大学駅伝12位」と昨年よりも高い目標を掲げた。東海地区選考会で2組目トップとなった下村悠斗(3年、皇學館)は今レースが大学初の公式戦だったように、チームの中には今年になって力を発揮している選手も多い。佐藤も大学4年間で大きな成長曲線を描いていきながら、勝負の時を待つ。