フェンシング

特集:いざ、東京オリンピック・パラリンピック

中央大・上野優佳、度重なるけがでも折れない心 目指すは3度の五輪で6つの金メダル

19歳の上野が自身初のオリンピックに挑む(撮影・全て前田大貴)

現在19歳と東京オリンピック・フェンシング日本代表の中で最年少の上野優佳(中央大2年、星槎国際)。世界ランキングは4月時点で7位に入り、女子フルーレ日本代表の中ではトップの順位だ。内定が決まった瞬間はうれしさがこみ上げてきたが、「後悔することのないように準備し、メダル獲得に向けて戦いに臨みたい」と言い、東京オリンピックでは個人・団体ともに金メダルを狙っている。その強い思いを支えるのが、これまで積み上げてきた実績、そして度重なるけがを乗り越えてきた経験だ。

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2018年に世界大会の3部門を制覇

上野がフェンシングを始めたのは小学校の入学前。両親が元フェンシング選手で、2歳年上の兄もフェンシングをする“フェンシング一家”の中で競技人生をスタートさせた。彼女の強みは、男子のような思い切りのいいアタックと、前後に激しく動くスピード感のあるフットワークにある。「昔から男子のようなフェンシングと言われてきました。2歳年上の兄を目標に、負けたくないという思いで練習を重ねてきたので、兄同様、スピード感のあるフェンシングを身につけることができました」

上野(右)にとって最大の武器がアタックだ

持ち前のアタック力で、2018年の世界選手権ではジュニア・カデの2部門で優勝。特に世界ジュニアの決勝では、イタリアの強豪、マルティナ・ファバレット相手に2-10(15本先取した方が勝利)から試合をひっくり返し、逆転優勝を果たした。

「ファバレットとは過去に何度も試合で当たっていたので、攻めに強い選手だということは分かっていました。でもいざ試合が始まると、自分がアタックに入ったつもりでも無意識に引き気味になってしまって、相手の勢いに負けた場面が結構あったんです。それでかなりポイント差を広げられてしまったんですけど、逆にポイントで大差がついたからこそ切り替えることができ、しっかりと自分のアタックを打つことができたのが、逆転につながった要因だと思います」

同年10月にはユースオリンピックでも優勝し、前人未到の世界選手権3連覇を成し遂げた。その功績は前日本フェンシング協会会長の太田雄貴さんに「あっぱれ!」と言わしめるほどだった。順風満帆な競技人生を送っていた上野。だが、そんな彼女の武器であるアタック力がもたらしたのは、栄光だけではなかった。

けがに苦しめられてきた競技人生

「アタック力がある分、太ももに負担がかかるので、けがにつながりやすいんです」と上野は言う。19年には右足の太ももの肉離れを起こし、その年の世界大会で悪化。完治までに1カ月半ほどかかった。更に右の内転筋や左の中臀(でん)筋など、立て続けにけがに悩まされた。けがをするたびにリハビリに取り組み、上半身の自重トレーニングに専念するしかなかった。その間は剣を交える練習ができず、苦しい期間が続いた。そんな時に支えてくれたのが、17年からタッグを組み始めたフランス出身のフランク・ボアダンコーチだ。

「フランクはいてくれているだけで頼もしい存在です。調子がいい時も悪い時もその都度的確なアドバイスをしてくれるというか……。自分がほしいアドバイスをしっかりしてくれるので、本当に助けられています。おそらく私自身、(2028年)ロサンゼルスオリンピックまで(フェンシングを)続けると思うんですが、そこまで一緒にいてほしいなと思えるコーチです」

全幅の信頼をおくフランクコーチ(左)から「自分らしいプレーをするように」とアドバイスを受けた

フェンシング日本代表の間でも温厚な人柄と言われるフランクコーチだが、指導する時の表情は真剣そのもの。上野に対し、「調子がよくない時でもしっかり自分を出せるよう頑張れ」と力強いアドバイスを送る。そのアドバイスにしっかりと目を合わせて聞いている上野の様子からも、2人の信頼関係の強さを感じた。

フェンシングにおけるコーチの役割は、選手が気づかない客観的な視点に気づくこと。特に試合中に形勢が不利な時に、相手の剣の振り方の癖を観察し、逆転のきっかけになりうる情報を探し出して選手にアドバイスすることにある。その時にコーチの言うことを疑うことなく実行するには、文字通り選手からの信頼がなければならない。上野とフランクコーチの間には、いい時も悪い時も互いのことを信頼しあっている理想的な関係を築きあげられており、この信頼が上野の強さを支えていることに疑いの余地はないだろう。

東京五輪の1年延期もポジティブに捉え

けがの治療に専念した後、続けて上野を襲ったのが20年、新型コロナウイルス蔓延による世界大会の中止だ。コロナ禍で自宅待機を命じられ、東京オリンピックも1年間延期になってしまったが、その時は意外とポジティブに受け止められたのだという。

「その時はけがをしていたので、あのまま予定通りにオリンピックが行われたら、私自身、ベストなパフォーマンスを出せるのか疑問がありました。でも1年期間が延びてくれたおかげでけがを治すことに専念でき、今年は私が持つ最大限のパフォーマンスを出せるコンディションに仕上げられました」

剣の練習ができないと腕の感覚が鈍るため、フェンサーにとって死活問題となる

アスリートにとってけがは天敵だが、上野にしてみればけがほど身近なものはない。そのけがとうまく付き合い、より強くなった自分で東京オリンピックを迎えられると、上野は自信をのぞかせる。

目標はイタリアのレジェンド

現在、中央大学2年生の上野だが、実は大学生の試合には一度も出たことがない。昨年はコロナの影響を受けて学生大会が全て中止になり、今年5月に予定されていた関東学生リーグも中止になった。大学生としての試合デビューよりも先に、オリンピックデビューを果たすことになる見通しだ。そんな彼女が目指すのは、これまでのオリンピックにおいてフルーレ競技で個人・団体あわせて6つの金メダルを獲得しているイタリアのレジェンド、バレンチナ・ベッツァーリだ。

「ベッツァーリは私と同じで身長もあまり高くないのに、剣がぜんぜん当たり負けしていないんです。少し私のスタイルに似ているところがあると思っていて……。更にあそこまでオリンピックで結果を出しているのはすごいと思いました。技術はもちろん、メンタル面も強くないと絶対に無理だと思うので、尊敬していますし、目指すべき目標だと思っています」

東京の次はパリ、そしてロサンゼルスと、上野は3大会のオリンピックを見据えている

7月23日、彼女の初めてとなるオリンピックが開幕する予定だ。全幅の信頼をおくフランクコーチとともに、第2のベッツァーリになるべく戦いを挑む。

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