陸上・駅伝

旭油業・市原琴乃 「中3が最後やないで」先生や仲間の言葉で前を向けた

大学4年間は特に、モチベーションを高く保つのが難しかった(写真は全て本人提供)

市原琴乃(22)はこの春に武庫川女子大学を卒業し、仕事/競技を両立するアスリート社員の採用を始めた旭油業に就職。一般社員と同じく朝から働き、仕事が終わったら母校のグラウンドで走り幅跳びの練習をしている。市原の自己ベストは中学3年生の時に記録した5m92。「自分の限界なんやろうなって思ってたんやけど、人生をかけて陸上をやってて、生涯の記録が中3って悲しいやないですか。やっぱり6mを跳びたい。そんで日本選手権とか出たいんですよ」。陸上をやめたいと思った時もあった。それでも今は自分の可能性を信じている。

「京都の走り幅跳び選手と言えば市原」

梅津中学校(京都)3年生の時に5m92を跳んだことで全国ランキング1位となり、その年の全中では5m75の記録で4位に入った。京都両洋高校に進んだ時も、「京都の走り幅跳び選手と言えば市原」と言われるほどに名前が浸透していた。しかし高校3年間でのベストは5m85。武庫川女子大でも走り幅跳びを続けたがなかなか記録が伸びず、1年生の後期に入る時、「陸上をやめる」と言ってしまったこともあった。それでも小学生の時から続けてきた陸上をやめる踏ん切りがつかない。「そのままずるずる、大学行ったら練習に行って、という毎日だった」と振り返る。

そんな中、3年生で迎えた西日本インカレで、自分の跳躍を見ていた中学校の先生がこう声をかけてくれた。「お前の記録は中3が最後やないで。あれはまぐれやない。今日の跳躍を見てそう思った。中学校の先生はみんなそう思っとるよ」。リハビリ明けで挑んだ大会ということもあり、記録は5m51に終わったが、自分を見てきてくれた先生の言葉に救われた。「単純なんですけど、自信がついたというか。今はまだ変化している途中なのかな、もうちょっと頑張ってみようかなって思えました」

もうひとつ、大学になってから変化したことがある。「正直、中学の時なんか、陸上はチーム競技やないって思ってました。大会で総合優勝することもあったけど、結局は自分ひとりでの勝負やろって」。中学校の時は自分の競技中にスタンドを見ても、親や先生の姿しか目に入らなかった。しかし大学に上がってからは、たくさんの仲間が自分を応援してくれていると実感できるようになったという。「こんなにも見てもらえるんや。だったらもうちょっと頑張らなって思えましたね」と市原は笑いながら教えてくれた。

中学生の時は「自分ひとりでの勝負」だと感じていた

「楽しくやろうや」と言われて楽になった

特に昨年の大学ラストイヤーは、新型コロナウイルスの影響で練習もできなくなり、目指していた大会も中止・延期が重なった。「初戦はいつなん?ってしんどくなって、監督にLINEして『もう頑張れません』って言ったり、Instagramのストーリーズに『元気をください』と言ったりすることもあった。周りが『もうちょっと頑張ろうや』と言ってくれる言葉も響かなかった」。モチベーションが下がりきってしまい、個人練習も気が進まない。そんな時に仲よくしてくれた大学のOGから「無理しなくていいんじゃない。とりあえず楽しくやろうや」と言ってもらえたことで、少し気持ちが軽くなったという。

「軽い気持ちでやろう。モチベーションを無理やり上げようとせず、自分のペースでやった。朝起きて、『やるぞ!』って感じたらすぐ行動。迷っているうちに気持ちがなえちゃうんで、パッパと行動する。そんな感じで練習していたら、段々大会も始まり出しました」

7月に京都府選手権で初戦を迎え、仲間と一緒に練習ができる日も増えていく中で、次第にテンションやモチベーションを高く保てるようになった。そして5月から10月に延期された関西インカレが、市原にとって仲間と一緒に挑む最後の大会になった。当時は教育実習中だったため練習が積めず、市原は5m29の記録で終わった。「(跳躍)パート長やったのに、ベスト8にも残れへんのか。大学4年間でこんな感じかって……。みんなに『ごめん!』って謝ったけど、でもみんなは『かっこよかったよ』って言ってくれました」

仲間の存在が市原の力になった

会社の仲間から届けられたたくさんの応援

大学4年間を振り返ると、常にモチベーションを高く保てたわけではない。大学時代のベストは5m75と高校時代の記録にも届かなかった。それでも一緒に戦う仲間や先生の存在が救いになったと感じている。社会人になった今も、その思いは同じだ。

「こういう性格なんで、会社の人たちに応援してもらえています。大会があれば『どうやった?』って聞いてくれるし、こうやったですって言えば『そうか、次頑張れや! コロナ明けたら応援行くで』って。5月に関西実業団選手権があった時、全営業所から副社長が応援メッセージを募ってくれて、A4サイズの2枚分もの応援が届けられました。色々とみんなが気にかけてくれるんですよね」

実は働き出してからの方が、練習での感覚はいいと言う。「(6mまで)あとちょっとなんですよね」。順風満帆な競技生活ではなく、気持ちが折れる時もある。そのたびに先生や仲間に励まされ、前を向いてきた。これからも仲間とともに、自分のペースで突き進む。

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