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ハーパージャン ジュニアと金近廉がU19W杯から得たもの、東海大ルーキーの現在地

U19ワールドカップを終えての思いを、ハーパー(左)と金近にたずねた ©FIBA

関東大学選手権(スプリングトーナメント)で優勝を逃し、いきなり暗雲が立ち込めた。リーグ戦、インカレでの巻き返しへ、東海大学に新たな風を吹かせるのはハーパー ジャン ローレンス ジュニア(福岡第一)と金近廉(関大北陽)のルーキーコンビだ。2人はFIBA U19ワールドカップ(ラトビア)に出場していたため、スプリングトーナメントには出ていない。世界の猛者たちを相手に味わった苦い経験を、これからのチームにどう還元していくのだろうか。

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未だに悔いが残るのは、3点届かなかったセルビア戦

0勝7敗、全16チーム中最下位。FIBA U19ワールドカップで日本は1勝もできなかった。その中には大差で敗れた試合もあったが、3点差、1点差で決着がついた試合もあった。

ハーパーは身体能力を生かしたディフェンスとスピードを武器に、先発ポイントガードとして日本のトランジションバスケを引き出そうとした。身長198cmのオールラウンダー・金近は、佐古賢一ヘッドコーチから「得点を取ってほしい」と期待された。加えて副将にも指名され、コート内外で声を出して周りにいい影響を与えることを意識し続けた。

それでも日本は、目標であった1勝を持ち帰れずに終戦。「セルビア戦」。2人に今大会で一番悔いが残る試合を聞くと、そろってそう答えた。その試合は、予選ラウンドを3連敗で終えた後の決勝トーナメント初戦。終始拮抗した展開となるも、86-89で敗れた一戦だ。

ハーパーはこの試合で自らが犯したファウルトラブルを悔いた。「第1クオーター(Q)の序盤で2回ファウルをしてしまってベンチに下がりました。前半はそのまま出られなくて、後半開始からコートに戻ったんですけどまたすぐにファウルをしてしまいました。その後は試合に出られずに3点差で負けてしまったので……」

金近も、まだ心残りがある様子で試合を振り返る。「予選の3試合でうまくいかなかった部分をコーチ陣がフィードバックをしてくれて、チームとしてもスッキリした状態で臨めました。あの試合は自分たちのバスケットが継続できていたんですけど勝ち切ることができなくて……。最後までコートに立っていた自分が、相手のエースをあと1本でも止めていれば違う展開になったのかなと思ってます」

世界でも戦えた、この手応えを次への糧に

やはり、点差以上に世界との差があったのだろうか? 今大会の日本は平均身長195.2cmというかつてないほどの大型チームで臨んだ。しかし、世界を相手には高さでアドバンテージを得ることはできず。先に挙げたセルビア、日本と予選ラウンドで対戦したセネガルとカナダの平均身長は2mを越えた。戦った7試合で合計8リバウンドを奪うにとどまった金近によれば、「リバウンドをとられてしまった時間帯はどうすることもできなかった」という。

初戦のセネガル戦は71-76での僅差で敗れ、続くカナダ戦は75-100と力の差を見せつけられた ©FIBA

ただ、全く通用しなかったわけではない。「自分たちでも勝てる相手だなと思いました。外角のシュートも決まりましたし、相手も日本のアグレッシブなチームディフェンスに引っかかっていました。個人としてもスピードとディフェンスの部分では、負けてないなと思いました」とハーパーが言えば、「高さの部分では差がありましたけど、フィジカルの部分は全員が強いわけではなかったので、意外と対等にやり合えました」と金近も続ける。加えて金近はこう話した。

「佐古さんも全敗してしまったことに対しては全く怒っていなくて、この経験を次にどう生かすかが大事だとおっしゃっていました。チーム全体としても得たものの方が大きい大会だったと思います」

コロナ禍で世の中の事情が変わってしまった中、こうして世界レベルを肌で感じられたことは大いに価値がある。次はこの経験を所属チームに還元する番だ。

加入間もない東海大で金近がすでにAチーム入り

2人がこの春から入学したのは名門・東海大。しかしハーパーと金近、元田大陽(2年、北陸学院)が日本代表で抜けている期間に行われたスプリングトーナメントでは、決勝で日本大学に敗れ惜しくも涙をのんだ。「バックアップメンバーのプレータイムをもう少し長くして、彼ら(先発組)を休ませられるようにしたい」。陸川章ヘッドコーチは巻き返しへの1つのポイントとして、そう述べた。

ワールドカップから戻ったルーキーコンビは、その課題を補う新たな存在になり得るポテンシャルを秘めている。それは間違いない。けれど、加入から代表活動でチームを離れるまでのアピール争いは、金近の方がリードしているそうだ。

聞けば、すでにAチームのセカンドユニットとして練習試合をこなした金近に対して、ハーパーは「Aの試合にはまだ1秒も出たことがない」という。「めちゃくちゃうらやましいっすね。正直、高校の時は学年で自分が一番うまかったので他の同級生が先に試合に出るってことはなかったんです。でも、こうして高いレベルに上がってくると自分よりも上の選手がいるので、もっと成長しなきゃいけないなって思います」。素直な気持ちを打ち明けるハーパーの話を聞きながら、金近はニヤリと笑った。

ハーパーは「ガードは人数が多いんですよ」と少々ボヤきが入りつつも、大学生活で身につけなければならないものをしっかりと自覚している。「僕に足りないのはプレーメイクです。今までは身体能力でどうにかなっていたんですけど、大学に入るとそうはいかない。徐々にレベルアップできたらと思ってます」

全敗ではあったが得たものは大きく、ここからの成長が大事だと金近も感じている ©FIBA

一方の金近も、フィジカルやドリブルスキル、バスケットIQなど進化を試みる項目は多々ある。1年目の目標としては、「高校時代とは違ってプレータイムも限られると思うので、出た時は常に全力でプレーして、自分の良さである外のシュートやインサイドで体を張ることもしていきたいと思います」と意欲を見せた。

期待のルーキーコンビから、東海大の柱へ

中学の時に対戦したジュニアオールスターで初めて出会い、高校ではともに世代を代表する選手にまで成長した金近とハーパー。一緒にプレーした時間は決して多くはないが、互いの成長について、金近、ハーパーともにこう語る。

「ジュニアは昔から身体能力を生かしたディフェンスがすごかったです。中学からバスケを始めたのでハンドリングとかはあまり上手ではなかったですけど、去年のウインターカップ、特に明成(仙台大学附属明成高校)戦では、周りのシュートが入っていない中、1人で得点してつないでいたので、群を抜いている感じがしました。本当に見違えるほど変わったなと思います」

「高1の時に思ったのは、すごく消極的だなと思いました。練習後だったり遊んだりしている時はいっぱいダンクするんですけど、試合ではあまりやらなかったので。でも2年、3年に上がっていくにつれて試合でも自分のポテンシャルを発揮して、チームを全国まで連れていく選手になったというのは成長した部分だなと感じました」

U19ワールドカップの経験を大学に持ち帰り、自身の成長とともにチームへの還元が期待されている(左から金近、ハーパー) ©FIBA

2人には、これからも日本代表に呼ばれ続けるという目標もある。そのためにはまず、大学バスケ界で頭角を現すことが大前提となるだろう。これから再スタートを切るルーキーコンビは、東海大を担う存在になれるか。

「東海でも早く一緒に出たいっす」という金近の言葉に、ハーパーは「頑張りますぅ」と少し体を小さくして反応した。



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