陸上・駅伝

明治大・山本佑樹監督「本当の力をつけよう」 全日本と箱根で味わった天国と地獄

前回の全日本大学駅伝でアンカーの鈴木が青学を抜き、3位でゴールした(撮影・河合真人)

「あれは賭けでもあったんです」。昨年の全日本大学駅伝で明治大学は3位となり、直後の会見で山本佑樹監督は「次の箱根駅伝では総合優勝を目指す」と初めて口にした。しかし迎えた箱根駅伝では往路14位、総合11位とシード権を逃した。

「全日本の勢いをもっと加速させて箱根につなげられたらと思っていたんですけど、結果的に、僕が優勝を口にするのはまだ早かった。箱根はいけるんじゃないかと思っていた中で出遅れてしまい、選手も焦りが出てしまったのかもしれない。優勝を狙うほどの本当の力はまだついていなかった。選手もそれを自覚し、駒澤大学や東洋大学のような本当の力をつけようと思うようになりました」

明治大・鈴木聖人 ラストイヤーは箱根駅伝を勝ちきる「強さ」を主将の走りで見せたい

4年目に花開いた大保が残したもの

昨シーズンは新型コロナウイルスの影響を受けて様々な大会が中止・延期となり、学生たちは目指す大会が見えない中で練習をしなければならない状況に陥った。その一方で、「考え方がシンプルになった」と山本監督は振り返る。前半シーズンは体を作る期間と割り切り、後半シーズンはレースを走れる喜びを胸に挑んだ。それがトラックレースでの記録につながり、その記録に自信を深められたことが、全日本大学駅伝3位の結果に結びついた。

昨シーズンを振り返ると、大保海士(西鉄)の存在は大きかった。1年生だった2017年に全日本大学駅伝を経験しているが、以降は目立った活躍はなく、ラストイヤーだった昨シーズンに全日本大学駅伝6区区間2位、箱根駅伝8区区間賞と輝かしい結果を残している。

前回の全日本大学駅伝で大保(右)は6区を走り、区間2位の走りで一時はトップに立った(撮影・金居達朗)

山本監督から見て、大保が下級生だった時はどこまで真剣に競技に取り組んでいるのか、つかみづらいところがあったという。あまり表に出すタイプではなく、けがに苦しんだ時期も長かった。しかし大保は実業団で競技を続けたいという思いをもって練習を積み重ね、4年目に花開いた。

「それまでの明治は各学年に鎧坂(哲哉、旭化成)や阿部(弘輝、住友電工)のようなエースがいるものの周りを固める選手がおらず、上位に絡めない状況でした。そんな中で大保がああいう渋い走り、コツコツやる姿を見せてくれ、後輩たちは『俺たちもやれるんだ』と刺激を受けていたと思います」

特に大保が入学した17年に山本監督はコーチとして初めて明治大に来たこともあり、特別な思いで大保の4年間の成長を感じていた。

2大エースの鈴木と手嶋が背中を見せる

その大保が卒業し、今シーズンは主将の鈴木聖人(きよと、4年、水城)と副将の手嶋杏丞(きょうすけ、4年、宮崎日大)の2人が中心になってチームを支えている。鈴木は箱根駅伝での悔しさを胸に、今シーズンは「速さだけではなく強さ」を求めて勝ちきるレースを目指してきた。春先にけがをしてしまい、3月の学生ハーフはベストコンディションでは挑めず、1時間05分00秒での34位。「自分の弱さを改めて感じた」と悔しさをにじませた。

その後もレースを重ね、5月の5000m記録会で13分34秒91の自己ベストをマークした後、関東インカレ男子2部10000mで28分09秒24の自己ベストで4位、その3日後の男子2部5000mでは13分56秒21で5位。6月には3000m記録会で7分54秒19の自己ベストを出し、日本選手権5000mに初めて出場した。13分45秒72のセカンドベストではあったが、3000m過ぎで第2集団から振り落とされ、「自分の力を発揮したかったけど勝負できず、ただ出ただけになってしまった」と鈴木は言う。自分に矢印を向け、更なる強さを追い求めている。

手嶋(右)は下級生の時から鈴木に挑み続け、力をつけてきた(撮影・藤井みさ)

手嶋も4月の兵庫リレーカーニバル10000mを皮切りにレースを重ね、5月の5000m記録会で13分31秒51の自己ベストをマークし、関東インカレ男子2部10000mで28分13秒70の自己ベストで7位入賞。6月には3000m記録会で7分49秒76の明治大記録を打ち立て、日本選手権5000mでは13分55秒56で19位だった。

手嶋と鈴木は下級生の頃から競い合ってきた仲ではあるが、「外から見たらいつもバチバチやっているように見えるかもですが、実際はしょうもないことを言い合うような感じなんです」と鈴木は言い、手嶋も取材を受ける鈴木を見ては「柄にもなく真面目にやってますよ」と笑いながら明かしてくれることもあった。そんな2人を山本監督は「強さを求める姿を見せてくれ、体現してくれています。これから日本のトップクラスの選手になってほしい」と期待している。

2年目の児玉「自分がチームのエースに」

8、9月は起伏があるコースも走りながら、タフなレースにも耐えられる体作りに意識を向けて距離を踏んでいる。その中でも鈴木は「メニューを消化することは大事だけど、やり過ぎてもピーキングがずれてしまう恐れがあるので、先のレースを見据えて取り組んでいます」と言う。特に今年は箱根駅伝予選会を経て全日本大学駅伝に挑むことになる。「全日本では5位以内に入って確実にシード権をつかむ。箱根の目標はまだこれからですが、4年生たちは『来年は予選会がない状態で卒業したい』と言っていますし、選手たちの力を見定めて挑めたらと思っています」と山本監督は言う。

今シーズンに入ってから3年生の成長が目覚ましく、特にまだ学生3大駅伝を走っていない小澤大輝(韮山)に対し、山本監督は「この春に色々意識が変わり、故障もしなくなりました。なんとしても駅伝を走りたいという思いが強く、この秋にブレークしそうだなと思っています」と期待を寄せる。また一般入試で入ってきた橋本大輝(4年、須磨学園)も、ラストイヤーにかける思いの強さが走りにも表れているという。

児玉(右)は昨シーズン、1年生ながら全日本大学駅伝でも箱根駅伝でも1区を担い、全日本では区間5位、箱根では区間16位だった(撮影・北川直樹)

ルーキーイヤーから注目されてきた児玉真輝(2年、鎌倉学園)は、春に肺気胸を患い関東インカレに出場できなかったが、今は練習にも復帰している。山本監督は「最近は自分がチームのエースにならないといけないという意識が見え始め、鈴木や手嶋、3年生にも負けないという自覚も芽生えている」と言い、児玉の変化を感じている。

中距離ランナーの佐久間が箱根宣言

また今年の夏から、中距離ランナーの佐久間秀徳(ひでのり、4年、國學院久我山)が箱根駅伝を目指して長距離の練習を始め、手嶋とともに副将に就任した。佐久間は7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会1500mで3分39秒91の明治大記録をマーク。昨年の日本インカレでは1500mで5位だったこともあり、今年は学生チャンピオンを目指す最後のチャンスだと山本監督も思っていたが、佐久間からは「夏の走り込みが中途半端になるので、インカレは後輩に譲って走り込みます」という発言があり、改めて佐久間の思いの強さを知ったという。「特に全日本に関しては彼の良さが出る距離かなと思うし、彼が本当に箱根を目指すならポテンシャルは高いので、どこまでくるかなとワクワクしています」と山本監督は言い、中距離ランナーがチームに与える変化にも期待している。

佐久間は1500mで学生トップの走りを見せてきたが、今年の夏からは長距離と一緒に練習をしている(撮影・藤井みさ)

もちろん、チームの中には様々な思いがある。鈴木は「特に佐久間には無理だとは思っていないんですけど、自分たちが積み重ねてきたものは大きいし、箱根は簡単に走れるものではないと思っています。自分たちは『中距離ランナーにとられるわけにはいかない』と、いい意味で刺激を受けています」と言い、チーム内の競争意識は高まっている。

昨シーズンの悔しさを忘れないためにも、チームは定期的にミーティングを開き、自分たちは何を目指しているのか、そのために何をしなければいけないのか、一人ひとりに問いかけている。「ミーティングを重ねる中で、選手一人ひとりの陸上に対する向き合い方が変化していき、意識も高まっています」。鈴木は自信をもってそう口にする。




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