陸上・駅伝

特集:第90回日本学生陸上競技対校選手権大会

東洋大・前田義弘 夏を経て手応えの28分台、原点に戻って「鉄紺の逆襲」を

ラスト1周、懸命に前を追う前田(すべて撮影・藤井みさ)

第90回日本学生陸上競技対校選手権大会 男子10000m決勝

9月17日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場

1位 ジェームズ・ブヌカ(駿河台大4年) 27:58.60
2位 フィリップ・ムルワ(創価大3年) 28:00.36
3位 ワンジク・チャールズ・カマウ(武蔵野学院大2年) 28:29.48
4位 ボニフェス・ムルア(山梨学院大3年) 28:44.50
5位 上田颯汰(関西学院大3年)28:52.63
6位 嶋津雄大(創価大4年)28:53.52
7位 ルカ・ムセンビ(東京国際大3年) 28:54.14
8位 吉岡智輝(順天堂大4年)28:55.48
9位 中山雄太(日本薬科大3年)28:56.25
10位 前田義弘(東洋大3年)28:57.80

日本インカレ初日の男子10000m、今年東洋大の副将を務める前田義弘(3年、東洋大牛久)は自身初の28分台で10位に入った。充実した夏合宿を過ごせたという前田に、現状の課題と駅伝シーズンに向けての意気込みを聞いた。

最後まで粘り切った前田

レースはまず、ワンジク・チャールズ・カマウ(武蔵野学院大2年)とジェームズ・ブヌカ(駿河台大4年)が先頭となった留学生集団に立命館大の山田真生(3年、中京学院中京)がつき、7人での先頭集団をつくった。第2集団は関西学院大の上田颯汰(関西学院大3年、関大一)が引っ張り10人ほどの大きさとなり、前田は集団の後方についてレースを進めた。

最後まで離れることなく粘り、「夏合宿の成果が出たと思う」と手応えを口にした

周回を重ねるごとに人数が絞られていき、5000m手前でペースを落とした山田を吸収。前田は第2集団からこぼれることなく走り続け、残り3周で日本人トップ争いは上田、創価大の島津雄大(4年、若葉総合)、順天堂大の吉岡智輝(4年、白石)、日本薬科大の中山雄太(3年、花咲徳栄)、前田の5人に絞られた。残り1周で前田は集団から少し遅れたが、ラストスパートで懸命に追いすがり、日本人5位となる10位でフィニッシュ。28分57秒80はそれまでの自己ベストを10秒以上更新するタイムだった。

反省点もあるが、夏の手応えも

前田は入賞、日本人トップを目指して今回のレースを走った。28分台で自己ベストをマークしたが、28分40秒切りも視野に入れていた。「まだそこまでできてないと確認しました」とレース後、冷静に自分の立ち位置を見ていた。

本番になると力を出しきれないのが課題だと感じていた前田。今年の夏合宿では、けがをしにくいという自らの特徴を生かし、25kmのジョグのペースを速めて取り組むなど、個人として走り込みをテーマに取り組んだ。3年間で最も距離を踏むことができ、走力を高められたという自信があった。

同級生の柏(左)は11位。チーム内は着実に底上げされてきている

酒井俊幸監督からはスタート前に「平常心で行けよ」と声をかけられたといい、焦ることなく粘りの走りをキープし続けた。今までの10000mのレースでは、残り3000mからズルズルと落ちてしまうことが多かったが、今回はラスト勝負に負けたとはいえ、最後まで集団についていけた。「力不足だとしても、成長できていると感じました。ラストは駅伝でも差をつけられてしまうので、最後の詰めをもっとやっていかないと。トラックの記録ももちろんですけど、駅伝に向けてやっていきたいです」。自己ベスト更新には「監督からはダメだって言われると思いますけど(笑)、反省点は多いけど、一つずつステップを上がっていってるのかなという感じがします」と充実感ある表情で話した。

副将としてチームを盛り上げる

前田は1年時の全日本大学駅伝で大学駅伝デビューを果たし、そこから開催されたすべての駅伝を走ってきた。区間10位以内には必ず入り、「はずさない男」として東洋大が駅伝を戦う上では欠かせない戦力になっているといえる。「ロードが得意という気持ちは自分でも持っています。大きくはずさないというのは自分のいいところではあるけど、区間7、8位ぐらいで安定しているので、今後は3番以内、区間賞も取れるようにしていきたいです」

今年副将に指名された前田。いままではなかなか下級生と上級生がコミュニケーションを取りづらい状態にあったといい、風通しのいいチームを目指してチーム運営に心を配ってきた。「馴れ合いになるんじゃなくて、やるときはやる、オフの時は全員でコミュニケーションを取る、というのを理想像として描いています」。今までは上級生主体で、そこにくっついて盛り上げる立場だったが、今年はすでに自らが4年生になったときのことも考えて動いている。

副将として、「風通しのいいチーム」を理想像として取り組んでいる

主将の宮下隼人(4年、富士河口湖)は年始の箱根駅伝で右足の脛(すね)を疲労骨折し、そのけがからなかなか復帰できず前半シーズンは苦しい時間を過ごした。その他の4年生も人数が少ない上、故障や就職活動などで抜けることが多かった。宮下が走れないときは、雰囲気作りを宮下が担い、前田を始めとする児玉悠輔(東北)、及川瑠音(一関学院)たち3年生が協力して練習内での声掛けなどを率先して行い、4年生の穴を補おうと取り組んだ。今の3年生は人数が多い分、影響力も大きいということを前田も認識している。「いい方にも行くけど、悪い方にも簡単に行ってしまうと思うので、自分たちの行動がチームの雰囲気に影響するんだよ、という話は常に学年ミーティングなどでもするようにしています」

原点に立ち返って「鉄紺の逆襲」

東洋大の前半シーズンは前述の通り、主将の宮下のけがなども影響し、関東インカレの長距離種目で0点(入賞なし)に終わってしまった。今年のスローガンは「鉄紺の証明」。2020年の箱根駅伝で、11年連続の総合3位以内が途切れて、年始にまた3位に復活できた。それがたまたまでないことを「証明する」という意味合いがあるが、「やはりどこか舞い上がってた部分があったんじゃないか」と前田は言う。「もう1回原点に立ち返って、『鉄紺の逆襲』というか、『怯まず前へ』、『その1秒を削り出せ』という原点に立ち返って、みんなで練習からやっていこうという雰囲気でいます」

上級生はもちろん、下級生も危機感を持って夏合宿に取り組んでいたと前田。駅伝シーズン、東洋大の強さが本当だと「証明」するために、前田は自覚を持って前に進んでいる。

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