ラグビー

東海大学のジョーンズ リチャード剛、学生最後の試合に勝って歴史を作る

東海大学のジョーンズ リチャード剛。悩んだ末に、主将を引き受けた(撮影・斉藤健仁)

過去15年、関東大学リーグ戦で10度の優勝を誇る「リーグ戦の雄」東海大学ラグビー部。今季は4年生と留学生が揃うFW、スキルの高いバックスでリーグ戦4連覇だけでなく初の大学日本一をうかがう。そんな東海大のスキッパーに指名されたのが、ウェールズ人の父と日本人の母を持つハードタックラーのFL(フランカー)ジョーンズ リチャード剛(ごう、4年、伏見工)だ。

不本意なシーズン後、かかってきた電話

「シーゲイルズ」こと東海大ラグビー部は、昨季もFWのスクラム、モールの強さを武器に開幕から6連勝し関東リーグ戦で3連覇を達成したが、最終戦の日本大戦は新型コロナウイルスの陽性者が出てしまい不戦敗となってしまう。続く全国大学選手権は準々決勝から出場したが帝京大(関東対抗戦4位)に8-14と惜敗しシーズンを終えた。 FWの中軸として先発出場したジョーンズは「コロナがなかったら……とかは、言い訳にしたくない。負けてしまったことがとにかく悔しかった……」と唇を噛(か)んだ。

新シーズンが本格的に始まる前の1月末、1998年から指揮を執っている木村季由監督からジョーンズに1本の電話があった。「キャプテンをやってみないか」という打診だった。

プレーでチームを引っ張る(撮影・斉藤健仁)

「自分に自信がなかった」というジョーンズは即答せず、1年生の時に同部屋だった西川壮一(現・東海大浦安高監督)、2年時のキャプテンだった眞野泰地(東芝)といった先輩や友人に相談し「最終的には逃げる、やらない理由を探すより、やる理由を見つけた方がいい」とアドバイスを受けた。

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「強豪大学でキャプテンをやるのは貴重な機会で自分の成長につながる」。キャプテンになる覚悟を決めて監督に折り返しの電話をかけた。「自分はあまり人前で話すことが得意ではないですが、タックルや体を張るなどプレーで表現し、みんなを引っ張ることができるのでは、と思いました」(ジョーンズ)

ONE WAY

副キャプテンにはWTB(ウィング)林隆広(4年、石見智翠館)が選ばれた。今季のスローガンは4年生みんなで話し合い、「全員が同じ方向・成長する方向を向く。一度決めた判断に対して後戻りしない」という意味を込めて「ONE WAY」と定めた。ジョーンズも「部員数が多い部活ですが、選手一人ひとりが同じ方向を向けば、大きな武器になる」と語気を強める。

ジョーンズ主将を中心に「ONE WAY」を体現するために、取り組んでいることが選手たちだけのミーティングだ。「東海がやろうとしていることを選手全員が理解できるように、試合で生かせるように戦術の落とし込みなどを全員でやっています」。キャプテンが発表するときもあればWTB林、SO(スタンドオフ)武藤ゆらぎ(2年、東海大大阪仰星)などが担当することもあるという。

英語も堪能なジョーンズは、ニュージーランド人のNo.8ノア・トビオ(4年、札幌山の手)、フィジーからの留学生LO(ロック)ワイサケ・ララトゥブアとFL(フランカー)レキマ・ナサラミ(ともに3年)らと英語でもコミュニケーションを取り、意思の疎通を図っている。また一番気持ちを伝えるのに適切な「ありがとう」という言葉が好きで、「当たり前のことですが、何かをしてもらったら、『ありがとう』と伝えています」

英語も堪能でチームをまとめる(撮影・斉藤健仁)

春季大会は明治大に惜敗したものの、早稲田大に快勝するなど力のあるところを見せた。ただ7月に新型コロナウイルスの陽性者が出てしまい3週間ほど活動できない時期があった。夏は菅平合宿を行わず、学内でのトレーニングに励んだ。現在は、部外の人には会わない、体温チェック、手洗い、食事をするときは前を向いて黙食などのルールをより徹底しており、ジョーンズ主将も「選手一人ひとりが我慢しながら意識高く生活を送っています。自分たちがコントロールできる部分にしっかりとコミットしている」と感じている。

京都の中学校でラグビー部に

ジョーンズは、学生時代にラグビー経験があり大学で英語の講師を務めているウェールズ人の父と日本人の母との間に京都で生まれた。小学校3年からはクラブチームでサッカーをしていた。ただ上京中学に入学すると部活としてラグビー部があったため競技を始めた。「父はいつもウェールズを応援しているのですが、父といっしょにラグビーを見ていて、ラグビーの激しさ、強度が格好いいなと思いました!」

最初はCTB(センター)だったが、後に高校、大学でもともにプレーすることになる1つ上の先輩CTB赤木凛(現ユニチカ)の勧めもあり、中学2年時の後半からはFLに転向。ただ中学の最高成績はベスト8と勝てるチームではなかったという。高校は赤木がいた伝統校の伏見工(現京都工学院)に進学した。1年生の時はベンチ外で全国高校大会の花園ラグビー場の芝は踏めず、2、3年時はライバルの京都成章に負けて全国大会に出場することはかなわなかった。

統合・再編で伏見工(赤)の名を背負った最後の冬は京都府予選決勝で敗れた(撮影・有田憲一)

大学も赤木と同じ東海大に進学した。ジョーンズは「凜くんがいたこと、日本一になる可能性がある強いチームだったこと、試合を見ていても留学生と日本人選手の間での雰囲気が良かったことも魅力的に感じた」と話す。1年生の時からハードタックラーとして木村監督に評価されAチームでの試合出場を重ねてきた。

バランスとれたチームで悲願達成へ

今季、4年生中心で能力の高い留学生も揃うFWのモール、スクラムに関して、ジョーンズ主将は「入学してきたときから東海大の武器だと理解していたことなので、今季も変わりはありません」と自信をのぞかせる。

さらにSO武藤、CTB丸山凛太朗(4年、東福岡)とゲーム理解度の高い2人がダブル司令塔となりチームをコントロールする。ジョーンズは「今季はFW、バックスのバランスがすごく取れている。バックス陣もスキルの高い選手が多いので、どんどん使っていきたい。シーズン開幕に向けて、ディフェンスのノミネートなど決めたことに対して細部までこだわっていきたい」と意気込んだ。

個人としては「見えないところでより動けて、地道に80分間、試合を通してタックルをし続けるフランカー」を目指しており、他の選手とともに、全体練習後にフィットネストレーニングに精を出している。大学2年時に体重が100kgを超えてしまい「思い通りのプレーができなくなった」経験もあり、現在は93、94kgに調整している。

オンラインで取材にこたえた

リラックス方法として音楽を聞いたり映画を見たりしている。文化社会学部ヨーロッパアメリカ学科で勉強しており、卒論は「アメリカ社会と戦争映画の関係性」にするつもりだ。憧れは、かつてウェールズ代表でキャプテンを務めていたFLサム・ウォーバートン。大学卒業後は1月から始まる新リーグ「リーグワン」のチームでラグビーを続ける予定だ。今季の目標は、リーグ戦4連覇、そして悲願の大学日本一に掲げている。それだけのメンバーも揃っており、練習や努力を重ねてきた自負もある。

「リーグ戦優勝は通過点として捉えているのではなく自分たちにとって必ず必要なことだと思っています。過去、大学日本一という経験がないからこそ、自分たちの代で優勝し、東海大の歴史を作って、大学4年間の最後の試合で勝って終わりたい」
今季こそ、ジョーンズ主将が優勝トロフィーを国立競技場の空に掲げることができるか。

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