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日大・飯尾文哉「自分しかできない仕事」、異例の控えMVPは秋もチームを引っ張る

スプリングトーナメントは2度の延期を経て7月11日に決勝を迎え、日大は15年ぶり11回目の優勝をつかみ、飯尾はMVPに選ばれた(撮影・全て青木美帆)

毎春、関東大学バスケの開幕を飾ってきた関東大学選手権(スプリングトーナメント)は今年で70年の節目を迎えた。その長い歴史の中でも、控え選手がMVPに輝いたのは史上初かもしれない。獲得した飯尾文哉(日大3年、洛南)自身も、「控えがMVPをとるなんて誰も考えていなかったことだと思います」と話す。

本人にとっては予想外の受賞だったせよ、日本大学が15年ぶり11回目の優勝を達成するために、飯尾が果たした役割は誰の目にも明らかだろう。ピンチの場面でコートに送り出されると、力強いゴールアタックやリバウンドからのプッシュで試合の流れを一変させる、頼もしきプレーヤー。特に、決勝の東海大戦では強烈なエネルギーを発揮し、32分の出場で14得点(うち3ポイント2本)3アシストと素晴らしい活躍を見せた。

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城間HCの思いに積極的なプレーで応える

飯尾が今年のチームでシックスマンを務めることが決まったのは、4月のこと。昨年までの試合経験が少ない現メンバーは、流れが悪くなった時の修正力に課題があると感じた城間修平ヘッドコーチ(HC)は、1年生の頃から試合経験を積み、今年は満を持して先発起用する予定だった飯尾にその役を託した。「非常に難しい役割だからこそ、力のある飯尾に任せたかった」と城間HC。飯尾もそのような指揮官の思惑を受け止め、「自分しかできない仕事。自信を持ってやっています」と話す。

シックスマンという役割自体は、例年と変わりはない。しかし、今年は意識が大きく違うと飯尾は言う。「去年までは先輩に頼ってしまって、ボールをすぐに預けていました。でも今年は流れを変えるという仕事を任されているので、自分で積極的に点を取りに行くっていう意識が強いです」。コートに入ったらまずはディフェンスで体と頭を慣らし、リバウンドや相手のミスを速攻につなげるプレーでリズムをつかむのが、飯尾流だ。

試合経験者が少ない今年のチームの中で、1年生の時から試合に出てきた飯尾(右)に城間HCはシックスマンとしての役割を求めた

身長187cmの長身ガード。名門・洛南高校(京都)ではエースを務め、U18日本代表としてもプレーした。日大入学後は、城間HCの「プロに行くならやれた方がいい」という計らいでシューティングガードからポイントガードに転向し、アウトサイドシュートやアシストなど新たな技術を着々と身につけてきた。それまでは松脇圭志(現・三遠ネオフェニックス)や杉本天昇(現・群馬クレインサンダーズ)といったスターの陰に隠れがちだったが、ようやくそのポテンシャルが日の目を浴びた格好だ。

飯尾が自身のバスケキャリアにおいて、選抜チーム以外での優勝を勝ち取ったのは今回が初めて。「親には『やっとやな』という感じで祝ってもらいました。タイトルを取ったことで、これからは追われる立場にはなると思うんですけど、今後も大きなタイトルをとっていけるように頑張りたいです」と感想を述べた。

徹底的にディフェンスを鍛え、“ばやし”主将がもり立てる

昨年のインカレでまさかの2回戦敗退に終わったことを受け、城間HCと4年生は例年以上にディフェンスにフォーカスしようという方針を打ち立てた。

城間HCが「シーズンインから『ディフェンスしかしていない』というくらいやりこんで、意識付けをしてきました」と説明する日々の練習を、飯尾は「きつかったですね」と振り返る。「ウォーミングアップが終わったらすぐにディフェンス練習。しかも、ボールを持たない、基礎中の基礎のメニューがほとんどなんです。コーンを置いてスライドステップで移動したり、ディナイの姿勢の練習だったり……。オフェンスの練習は最後に行う5対5だけでした」

バスケットボールは、やはりボールを持ってナンボの競技。ディフェンスの、しかももっとも地味な練習メニューにひたすら取り組むモチベーションを保ち続けるのは、そう簡単なことではない。飯尾は「『もっとオフェンスをやらせて!』って思うことも正直ありました」と笑って明かしたが、おそらく全員が少なからず似たような思いを持っていただろう。落ち込みそうになった部員たちをもり立て、引っ張ったのが、飯尾が愛情を込めて“ばやし”と呼ぶ、キャプテンの若林行宗(4年、日大豊山)だったという。

主将の若林(右)の存在は飯尾にとっても大きなものだ

「練習の士気が下がりそうになると、ばやしがすぐにみんなを集めてハドルを組んでくれたおかげで、崩れることは一度もありませんでした。上下関係が全くないと言っていいくらい仲がいいのも、ばやしのおかげ。去年まではチームを引っ張っていくというよりは裏で支えるような感じだったんですけど、キャプテンになってすごく変わったと思います」

米須とコンゴローの加入でオフェンス力を強化

また、エースに頼りすぎていた昨年までの教訓から「全員バスケ」を掲げたことで、チームに粘りが生まれ、ゴールデンルーキーの米須玲音(東山)とコンゴロー・デイビット(報徳学園)の加入で、スピーディーなオールコートオフェンスでも手堅いハーフコートオフェンスでも得点がとれるようになった。

「米須は文句なしの活躍でしたね。クソ生意気ですけど頼りになりました(笑)。デイビットは本当に体を張って頑張ってくれました。あいつ、文句の1つも言わずにいろんなことをこなしてくれるんです。コミュニケーションもよく取ってくれるので、自分的にはすごくやりやすいです」

日大が秋のリーグ戦を制したのは2009年が最後だ

10月2日、秋のリーグ戦が開幕した。運や勢いも加味されるトーナメントとは異なり、チームの真の実力が試される大会だ。飯尾はベンチメンバーの成長が勝敗のカギを握るとにらみ、自身はこの大会に向けて磨いた“新たな武器”を披露したいと話していた。それが一体どんなものなのかは、ぜひ皆さん自身の目で確かめてほしい。

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