陸上・駅伝

ラストランまで動画チェック 夢は歯科医、ハードル金井が現役引退

法大の苅部俊二監督から黄金のシューズを贈呈された金井大旺(撮影・堀川貴弘)

 東京五輪陸上男子110メートル障害に出場した金井大旺(たいおう)(26)=ミズノ=が9日、母校法大の陸上競技場(東京都町田市)で開かれた記録会に出場し、現役生活に別れを告げた。金井は東京五輪前から今季を最後に引退することを表明していた。

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 故郷の北海道函館市からやってきた母と妹が見守る中、金井は最後の110メートル障害を13秒55で走り抜けた。

 レース後、「高校(函館ラサール高)で競技をやめるつもりだったが、法大で4年、社会人で4年間このグラウンドで練習し、目標だった東京五輪にも出場できた。苅部監督をはじめ皆さんに感謝しています」とあいさつ。途中で涙ぐみ、言葉につまった。

 3年前の日本選手権を当時の日本記録(13秒36)で初めて制した時から、東京五輪を区切りにすることを宣言していた。父と姉が歯科医師で、金井もその道に進む意向を示していた。

 今季は4月の織田記念で13秒16の日本記録(当時)をマークするなど好調だった。ただ、東京五輪では準決勝で転倒し、目標だった日本選手初の決勝進出を逃した。「まだやれる」「引退はもったいない」という周囲の声もあったが、本人の引退の意思は揺るぎなかった。

 「競技を終える寂しさは確かにあります。ただ、五輪を最終目標と覚悟して、自分の限界を超えるようなトレーニングをしてきた。決勝進出を逃した悔しさはあっても競技生活に悔いはない」。金井はそう言い切った。

 ラストランに向けてもウォーミングアップ中、自分の動画を入念にチェックしていた。

 「踏み切りがうまくいかなくて、そこを修正したかった」と、最後の1本も手を抜かなかった。「理想の走りに近づいては、新しい改善点が生まれる、その繰り返し。100%になることはない」。競技を退くひとつの理由がそこにある。

 まずは医療系の大学進学に向けて勉強に集中する。「これまでは1日のすべてを競技に向けてやってきたが、今度は勉強に費やす。競技も勉強も根本は同じ。次は歯科医師に向けて全力を尽くしたい」。新しい道への決意を静かな口調で話した。

(堀川貴弘)

=朝日新聞デジタル2021年10月09日掲載

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