法政大学の山下輝、神宮で鍛えたドラフト1位左腕はヤクルト新時代のエースへ
例年よりも、2週間程度早く開催されたプロ野球ドラフト会議で、東京ヤクルトスワローズから1位指名を受けた身長188cm、体重100kgの法政大学の左腕・山下輝(ひかる)。大きな体から力強い直球をコーナーに投げ込み、精度の高い変化球を操るその姿はメジャー通算251勝のCC・サバシア(元ヤンキース)を彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。
エリート街道から味わった挫折
山下は木更津総合高校時代に3度甲子園の土を踏み、U18日本代表にも選ばれ、いわゆるエリート街道を歩んできた。その山下が、法大進学後も1年春から神宮を沸かせてくれることを誰もが信じて疑わなかった。しかし2018年春、神宮球場のスコアボードに『山下』の文字が浮かぶことはなかった。このとき自身にとって生命線とも言える左ひじを痛め、12月にはひじの靱帯(じんたい)を再建するトミー・ジョン手術を受けることになった。
そこから始まったリハビリ生活は、「本当に苦しかった」と振り返る。同期の主将、三浦銀二(福岡大大濠、横浜DeNAベイスターズ4位指名)は1年秋にフル回転して45度目の優勝に貢献したが、その輪には加わることはできなかった。5位に沈んだ19年春、優勝争いをした同秋といずれもチームの力になることができなかった。
リハビリに耐え抜き20年春に初登板を果たすと、中継ぎとして2勝を挙げ、46度目の優勝に貢献した。同年秋は勝ち星には恵まれなかったが、投球回を上回る奪三振数を記録し、大器の片鱗を示した1年となった。
そして最終学年の21年、鈴木昭汰(千葉ロッテマリーンズ)、高田孝一(東北楽天ゴールデンイーグルス)の2枚看板の穴を埋める存在として三浦とともに期待された。『先発として4勝』の目標を持って臨んだ春季リーグ。3戦目の登板となった早大2回戦では8回10奪三振自責点0で勝利を挙げるなど、一気に飛躍。5試合に先発し2勝を挙げ、防御率はリーグ3位2.25の成績で、ドラフト1位候補へ浮上したのだ。
コロナ禍も乗り越え
試練の夏を乗り越え、実りの秋季リーグへ、そしてドラフトへ、と駆け上がりたいところだったが、山下にとっても野球部にとってもアクシデントが襲う。新型コロナウイルス感染が広がった。3週間余りの活動休止に対外試合の禁止。まさかの事態に「不安があった」と動揺は隠せなかった。一時は出場さえも危ぶまれたが、他大学の協力もあり、何とか最後のリーグ戦にこぎつくことができた。
初戦となったドラフト会議前日の立教大学戦。ぶっつけ本番だったが、球速150km/hを超える直球に抜群のコントロールと序盤からエンジン全開の投球で相手を寄せ付けない。勝利はならなかったが、奪った三振は自己最多の12を記録。右足を上げるときのタメの時間を長く作り出すことで、投球に力も増した。
プロの舞台でも新フォームで得た力強い直球を武器に、再び黄金時代を築こうとしてるヤクルトの若きピースとして、大学時代から慣れ親しんだ神宮のマウンドで躍動する姿が見られる日が来るのはそう遠くない。