白鷗大・網野友雄監督、大敗の決勝からリベンジVまでの2年間で変わったこと
「逆境を乗り越えた経験」。その言葉で白鷗大学男子バスケットボール部の網野友雄監督(41)が口にしたのは2019年の関東大学選手権(スプリングトーナメント)決勝だった。17年春、白鷗大はスプリングトーナメント決勝で筑波大学と対戦し、57-115と大敗した。その悔しさを胸に挑んだ2年後の決勝で、白鷗大は筑波大に66-58でリベンジを果たし、初優勝をつかんだ。網野監督は「選手たちは4年生になるとガラッとメンタル的なところが変わるので、それが大学バスケの面白いところだと思う」と当時を振り返る。
「これは決勝のスコアではない」
白鷗大男子バスケ部は「やんちゃ集団」と言われることがある。「実際、僕もそう思いながら白鷗大に来ましたよ」と網野監督は明かす。ただ体育館を初めて訪れた日、行儀良く並んだサンダルを目の前にして、「こんな一面もある子たちなんだな」と感じたという。「ちょっと派手で怖い印象があるかもしれないですけど、中にいるとそんなことはなくて、本当に純粋で、一生懸命やる学生たちだと思います」と網野監督は言う。
網野監督は17年に白鷗大の助教(現・講師)と男子バスケ部の部長兼監督に就任。その年はヘッドコーチ(HC)だった落合嘉郎さん(現・ 仙台89ERSのAC)が現場を指揮していたが、網野監督もベンチで筑波大との大一番を見ていた。「馬場(雄大)くんが大学バスケ最後の試合でしたから、そのすごみを感じたことを今でも覚えています」。白鷗大が決勝に立ったのはこれが初。経験のなさが如実に出てしまったと網野監督も感じた。これからチームを率いる者として「決勝まで進めたのはすごいことだけど、これは決勝のスコアではない」とあえて学生たちに伝えた。
考えるチームになり、4年生の覚悟が芽生えた
18年から網野監督も現場に立ち、まずは選手たちに自信を持たせることから始めた。その上で、指導方針を少しずつ変えた。「落合HCは1から10までしっかり指導していましたが、僕は多くを教えず、選手たちが考えた上で最適な答えを出すことを求めていました」
もちろん反発もあった。特にその反発が大きかったのが、当時3年生でチームの主力だった中川綸(現・KYOTO BB)と前田怜緒(現・信州ブレイブウォリアーズ)だった。「落合HCがリクルートした選手でしたし、信頼も厚かった。そんな中で僕が指導方針やバスケットスタイルを変えたので、違和感が強かったと思うんです。『どうしてこういうことをやらないといけないですか?』『どうしてバスケットを変えないといけないんですか?』と言ってくることもありましたね」。網野監督はたわいもない会話もしながら信頼関係を築くことを意識して、学生一人ひとりと向き合った。
そして19年春、再び決勝の舞台に立った。奇(く)しくも相手は筑波大で、4連覇がかかっていた。主将となった中川は2年前の4年生に連絡し、「絶対自分たちがやり返す」と言ったという。試合開始早々、白鷗大は2-10と突き放され、網野監督はタイムアウトをとり、選手たちに「いつも通りにいこう」と声をかけた。そして第1クオーター(Q)のうちに16-18まで追い上げ、第2Qで逆転。白鷗大はそのままリードを保ち、66-58でリベンジを果たした。
最優秀選手賞に選ばれた前田は決勝後、「今シーズンは自分たちが主体でやることになって、色々変わりました。学生コーチが分析して戦略を立ててくれて、その頑張りに選手が応える。選手だけじゃなくてスタッフのみんなが力になってくれました」と話していた。網野監督も「僕の力とかではなくて、学生自身が悔しさを忘れず挑み続け、そんな彼らが4年生になったことで気持ちが更に引き締まったんだと思います。彼ら自身の成長はすごく大きかったですね」と学生たちの変化を口にした。この優勝で学生たちも「自分たちがやってきたことは間違ってなかった」という気持ちを持てるようになり、改めてチームがまとまるきっかけになったと網野監督は振り返る。
高校から大学、大きく変わる時だから
監督就任から5年目。イメージしたものはまだ7割程度しか実現できていないという。
「高校までは監督・コーチの言うことが絶対で、それをやればいいという指導を受けてきた選手も多いです。大学になって急に自分で考えろと言われても、どうしていいのか分からないというのが普通なんだと思います。でも考えることが今後のキャリアを考えると大事なので、私も求めています。今はそれが少しずつ浸透しているところです。自分も経験値が上がってきていますし、教えるところと投げるところの判断を誤らずにやっていかないといけないと思っています」
ただ、プレーに関しては一貫して「トランジションバスケット」を学生たちに伝えてきた。それは網野監督自身が「楽しさ」を追求した上での戦い方だ。「バスケットの楽しさは点数をあげることだと思っています。それが一番の見せ場じゃないですか。それを一番体現しやすいのはトランジションなので、僕はできるだけ、試合に出た選手には1点でも点数をとってほしいと思っています」。コート上で躍動する白鷗大の選手の姿は、一層、「やんちゃ集団」のイメージを強く印象づけてくれる。