サッカー

筑波大・小井土正亮監督が求める「責任を取る覚悟」 本当に強い組織を全員で作る

小井土監督は「責任を取る覚悟がある」人こそがリーダーだと話す(撮影・全て松永早弥香)

筑波大学蹴球部は毎年200人規模の大所帯であり、その組織を学生たちが主体となって運営している。部には全員が参加する組織運営に関わる局活動と、希望者だけが参加するパフォーマンスチームやプロモーションチームなどの班活動があり、この班活動には全体の半数程度が参画している。学生一人ひとりがチームを支える存在であり、必然的に学生が小井土正亮監督(43)と接する機会が増える。その時に小井土監督は必ず「お前の言葉で出してこい」と伝え、責任を持って対応することを学生に求めている。それが小井土監督が求めるリーダーシップだ。

母校で出会った「一生ものの仕事」 筑波大蹴球部・小井土正亮監督(上)

決定に対して自分がどう関わったのか

チーム内で組織を束ねる役割を担うのは、主将と主務だ。しかし彼らだけではなく、一人ひとりが「責任を取る覚悟」を持ってチームと向き合ってほしいと小井土監督は考えている。「最後までやり遂げるのは当たり前のことです。自信のなさからかもしれませんが、責任のなさが言葉の端々に出ているようなら、『責任を取る覚悟はあるか?』という言葉をあえて使っています」

学生主体の組織だと、誰がどういう姿勢で関わっているかまで、指導者が把握できるわけではない。「どうなっているの?」と聞いて曖昧(あいまい)な返答しかない時は、だいたい物事がうまくいっていない時。逆に「いつまでに、何が、どのようになる予定です」という言葉が返ってくる時はスムーズにいっている証拠だ。だからこそ「こういう過程を経てこう決めたとか、お前がどう関わって決めたのか、これは確定事項なのか、まだ検討の余地があるのか、ちゃんとお前の言葉で言えよ。それが曖昧だと責任が曖昧になるんだから」と学生たちに伝えている。

大事なことは苦しい時でも自分が矢面に立ってできるか。「本当に強い組織になりきれていない時は成績が伴っていないもんです。ここぞという勝負どころで甘さが出てしまう。準備の段階でどこか甘さがあるなと思っても、自分たちで修正できないとか。リーダーたる覚悟をもっともっと要求しないといけないと感じています」。だからこそ大学4年間で経験を積み、その後のステージにも生きる力を養ってほしいと小井土監督は期待している。

組織としての強さがチームの成績にも大きく関係する

学生だけの意思決定機関

今年の春、学生たちだけの意思決定機関を新たに設けた。きっかけはコロナ禍で迎えた昨シーズンでの出来事だった。例年と異なる状況に何度も対面し、その度に様々な決定をしなければならなかったが、上級生が決めた決定に不満を感じていた下級生もいたという。部としての意思決定の過程を明確にする必要性を感じ、そのための体制を学生たちが整えてきた。意思決定機関には主将や副将、主務、副務のほか、1年生を除く各学年の代表者が参加する。その話し合いには学年に関わらず皆が積極的に発言。最終的に決まったことについて、小井土監督も基本的にノーとは言わない。

「全員の声を聞いていたら決定できないですから、その意見を代表者が吸い上げる。意見があるならその過程で出してもらい、最終的に決まったことには絶対に文句を言わない。当たり前のことですが、やっと今年、それが明確になったという感じですね。どのような過程で決まったことなのかは学生たちに確認しますが、社会通念や学内ルールなどに触れない限り、私の個人的な考えや思いではねのけることはないです」

例えば、現在6チームで活動しているが、限られた時間の中でグラウンドをどう優先順位をつけて使うのかを話し合った。全員にとって平等ということは難しい中で、互いに折り合いをつけながら、“自分たちで決める”ことが大切だと考えている。例え全員が納得できる結論にはならなかったとしても、“他人ごと“ではなく“自分ごと”という認識に変換できるようになり、一人ひとりが部の決定に責任を持てるようになったと感じている。

ポジティブな意味での責任

責任を持って物事に取り組む。チーム内の局活動と班活動はその意識を育てるきっかけにもなっているが、小井土監督としては傍観者を作らないようにしたいという思いもある。

「200人も部員がいるとどうしても“その他大勢の自分”となりがちです。そうではなく、誰もがチームにいい影響を与えられる人間、主体者として新しい歴史を作る人間という自覚を持ってほしい。局や班活動はみんなの思いを表現する場となっています。一人ひとりの顔が見え、活力があり、継続的に発展していく組織として、これからもより良いあり方を模索し、新しいチャレンジを続けていきたいですね」

学生時代にしかできない経験がある

“責任”という言葉は「この責任は誰が取るんだ」というように、どちらかというとネガティブな意味で受け取られることも多いかもしれない。しかし小井土監督はそうではなく、成果を上げた時などのポジティブな意味での責任を持って、物事に向き合ってほしいと考えている。

「例えばスポンサーをとってきたり、試合の分析をしてくれたりとアクションをしてくれたら私もフィードバックをします。新しい挑戦も責任を持ってやらせると彼らは一生懸命やるんですよ。ダメだった時のへこみ具合は大きいでしょうけど、学生なんですから、多少の失敗は取り返せます」

小井土監督は学生たちの可能性を信じ、責任を託し、挑戦を後押ししている。

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