陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

逆境に挑む東海大・本間敬大主将の思い、佐久長聖の後輩・越陽汰が受け継ぐ

全日本では12位でシード権を落とした。本間(手前)にとって、ここまで悔しい思いが続いている(すべて撮影・佐伯航平)

箱根では捲土重来(けんどちょうらい)を期す東海大学。本間敬大主将(4年、佐久長聖)は「ここまでの悔しさなど、自分の思いも乗せて走る」と誓う。その姿は佐久長聖高の後輩で、これからの東海大を背負うルーキー・越陽汰への置き土産にもなるはずだ。

常に強いチームにいたから感じるもどかしさ

「毎年、優勝候補だったので……」

本間はポツリとこう漏らす。

本間が入学以来、東海大は常に駅伝で好成績をおさめてきた。1年時は箱根で総合初優勝を果たし、2年時は全日本で優勝。3年時は優勝こそなかったが、全日本では2位。本間はこの全日本で大学駅伝デビューを果たし、5区4位とまずまずの走りを見せた。

タレントも揃(そろ)っていた。一昨年のシーズンは館澤亨次(現・DeNAアスレティックスエリート)や鬼塚翔太(現・NTT西日本)ら「黄金世代」が、昨年は塩澤稀夕(きせき、現・富士通)、名取燎太(現・コニカミノルタ)、西田壮志(たけし、現・トヨタ自動車)の「3本柱」がいた。

だが今季は、出雲では9位。全日本は12位に終わり、2012年以来のシード落ちとなった。本間自身も出雲ではアンカー区間の6区で8位、全日本では7区を走って9位と、納得のいく走りができていない。

本間は東京オリンピック男子マラソンで6位入賞の大迫傑らを輩出した佐久長聖高の出身。3年時は全国高校駅伝で4区1位と好走し、9年ぶり2回目の優勝に貢献した。高校時代からずっと、“強いのが当たり前”の中にいた本間にとって、今季のここまでの成績は忸怩(じくじ)たるものがあるだろう。

主将になって約10カ月。チームの先頭に立つ者としての責任も感じている。「全日本ではシード権を失ってしまい、後輩たちには本当に申し訳ないと思っています」

悔しさを糧に、本間は陸上生活最後となる箱根駅伝に臨む

ただ、下を向いている時間はない。全日本が終わってすぐ、本間は選手間ミーティングでこんな話をしたという。「結果が出ていないのであれば、練習以外のところも見直そうと。寮生活や私生活で緩みがあったのではないか、それが成績につながったところがあるのでは、と思ったんです」

このままでは終われない。箱根を最後に競技者生活に別れを告げる本間も、むろんその思いは強い。本間に大きな期待を寄せるのが両角速監督だ。「最後のチャンスですからね。これまでやってきたことを走りで表現してほしい」。両角監督は本間の母校・佐久長聖高を陸上長距離の名門に仕立てた監督としても知られる。本間は高校時代、両角監督の佐久長聖時代の教え子である高見澤勝監督に指導を受けた。

本間は悔しさを糧にする男だ。高校2年時の都大路では4区を任されるも後半失速し、チームは惜しくも2位に。3年時はこれをバネに、自らの走りで栄冠へとけん引した。大学最後の駅伝でも必ずリベンジを果たすつもりだ。

入学後のケガで自分の甘さに気づく

両角監督と高見澤監督のつながりもあり、東海大には毎年のように佐久長聖出身の選手が入部する。両角監督は「全国で優勝するのを目標としている学校なので、総じて意識が高い」と言う。

今年佐久長聖高から、名将・両角監督の指導を受けたいと入学したのが、越陽汰だ。越は高校時代から注目されていた。2年時の都大路では2区を走り、1位タイのタイムを記録している。人間的にもしっかりしており、佐久長聖高では主将だった同期の伊藤大志(早稲田大)とともに、寮長としてチームをまとめた。

期待されて入学した越だったが、けがで出遅れた。ここから本来の力を見せつけたい

期待のルーキーとして迎え入れられた越だったが、半年間はケガでベールを脱ぐことができなかった。高校時代に故障した箇所が悪化したのに加え、6月には仙骨を骨折。走れるようになったのは9月に入ってからだ。結果的に1年の半分を棒に振る形になったが、その原因は自分に対する甘さにあったという。

「大学でも寮生活になったんですが、佐久長聖高時代と比べると自由で、本人に任されているところがあります。その分、自己責任に委ねられているのですが、そこでの妥協が競技面に出て、ケガにもつながってしまったと思っています」

それでも、故障をしたのが、自分の甘さに気が付いたのが、入学してすぐで良かったと、越は切り替えている。「もう万全な状態です。けがをしたことでコンディショニングにもより気を配るようになりました」

もともと力はある。本格的に走れるようになると、さっそく箱根のメンバー候補に加えられた。目力が強いルーキーは箱根への思いをこう伝える。「走りたいです。自分がどこまで力を発揮できるか、楽しみでもあるんです。夏まで走れてなかったので、実戦不足なところはありますが、練習を常に実戦のつもりで走ることで補っています」

越は11月28日に行われた丹沢湖マラソンの20㎞の部で、優勝した先輩の市村朋樹(4年、埼玉栄)に次ぐ2位でフィニッシュ。これまで出雲を2回、全日本は3回出走している市村に28秒差の59分48秒と、箱根の距離にも対応できるとアピールした。

「自分だったらこう走る」。走れないレースも冷静に分析して見ていた

主将の本間同様、越もまた強いチームしか知らない。「育成元年」というチーム事情はあるものの、2大会連続の不本意な結果に悔しさを感じている。自分がケガで貢献できていない歯がゆさもある。出雲、全日本では先輩たちを応援しつつ、自分だったらこう走ると、区間ごとに攻略法を考えていたという。

東海大の箱根での目標は3位以内。現状では高いハードルではあるが、本間は「その中で後輩たちへの置き土産となるような走りをしたい」と誓った。逆境の中で本間がどんな思いを乗せて走ったか。その姿はこれからの東海大を背負う越の、道しるべもになるはずだ。

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