野球

戦国東都を最速で勝ち抜き、神宮を目指す! 帝京平成大学・河野和洋監督(下)

東都大学野球4部から再出発する帝京平成大学の河野和洋監督と選手たち(撮影・小川誠志)

東都大学野球連盟に63年ぶりに新加盟した帝京平成大学硬式野球部は、今春は最も下の4部からのスタートになる。河野和洋監督(47)は専修大学時代、1部も2部も入れ替え戦も経験している。「戦国東都」の厳しさは十分知っているが、それでも最短での1部昇格を目指す。

「松井を5敬遠した河野です」の新たな挑戦 帝京平成大学・河野和洋監督(上)

千葉2部優勝したが入れ替え戦辞退

河野監督が部員たちに2022年から東都リーグへ加盟することを伝えたのは、昨秋の千葉県リーグ2部開幕直前のことだった。選手たちはみな驚き、最初は戸惑いがあったという。4年生にとっては大学最後のシーズンになる。2部優勝、1部昇格を目指して臨む直前だった。その目標がなくなり、リーグ戦へのモチベーションを失ってしまう心配もあった。それでも選手たちは河野監督と話をする中で納得し、千葉県大学リーグで戦う最後のシーズン、見事、2部優勝を勝ち取る。

昨秋は千葉県2部で優勝したが入れ替え戦は辞退し「4年生には申し訳ないことをした」(撮影・小川誠志)

「去年の4年生には本当に申し訳ないことをしたと思っています。3年生以下はこれから東都にチャレンジできるけれど、去年の4年生はそれができなかったわけですから。2部リーグで優勝したのに、次のシーズンから我々は東都へ移るので、入れ替え戦も辞退することになりました。それでも彼らは立派に戦い抜いてくれた。2部優勝というのは、うちの大学にとって千葉県リーグでこれまでの最高成績。彼らにも応援に来てもらいたいですから、そのためにも早く神宮球場で戦えるよう頑張りたいですね」

恩師・馬淵監督から大きな影響

明徳義塾高時代の恩師・馬淵史郎監督(66)は、同じ東都の拓殖大学出身だ。

「『東都に移るんやったら、拓大とライバルになるなぁ。明徳からはもうお前のとこに選手は行かせられん』って言われました。もちろん冗談ですけど(笑)。今年も明徳から1年生、入ってくれますから(笑)。チームを勝たせることに関しては、馬淵監督は日本トップレベルでしょう。高校時代、『男として生まれた以上、負けたらダメなんや』と、よく言われました」

21年のプロ野球ドラフト会議で巨人から6位指名された明徳義塾高の代木大和投手(左)と馬淵監督(撮影・冨田悦央)

高校野球はほとんどの大会がトーナメント方式で行われる。勝てば、その試合に出られなかった選手も、次の試合で出場するチャンスがある。選手たちは誰もが試合に出たくて一所懸命練習をしている。勝ち進めば勝ち進むほど、試合出場のチャンスは増える。だから馬淵監督は徹底的に「勝利」にこだわるのだ。河野監督も、馬淵イズムから強い影響を受けている。

現在、拓殖大の指揮を執っているのは、その馬淵史郎監督の長男である馬淵烈(つよし)監督だ。東都で戦う以上、いつか必ず対戦しなければならない相手だ。馬淵烈監督は、河野監督が帝京平成大監督に就任したのと同じタイミングで拓殖大の監督に就任した。昨秋はチームを2部リーグ優勝に導いている。

「烈は私が高校3年生のときに3歳でした。東都で対戦するのが楽しみですね。うちは4部ですから、まだまだ先の話ですけどね」

ともに初采配の2020年春を前に馬淵烈監督(左)の拓大と練習試合をした(撮影・杉山圭子)

母校の専大は1部リーグ最多、32度の優勝を誇る名門だが、2017年春、入れ替え戦に敗れ2部降格を喫してからは1部に上がれず苦しんでいる。帝京平成大が勝ち上がっていけば、立ちはだかる壁になるだろう。「早く母校と対戦できるよう頑張らないといけないですね。楽しみです。専大の齋藤正直監督からは、いろいろ勉強させてもらっています。専大からすれば『早く上がってこいよ』ってところでしょう」と河野監督は母校との対戦も楽しみにしている。

教え子をNPBへ送り出すのも目標の1つ

この2、3月は東都3部の大正大学、順天堂大学、一橋大学、学習院大学、同2部の拓殖大、専修大学、東京農大学、同1部の日本大学、今後戦うことになるであろう東都勢と積極的にオープン戦を組んだ。一橋大に11-2、順天堂大に13-3で圧勝、日大とは3-3で引き分けるなど、選手たちも自信をつけ、また個々の課題も見えてきているという。エースで主将の更田篤稔(4年、横浜)は回転数が高く伸びのある速球が武器の本格派右腕だ。堅守、強打の遊撃手・大石高志(3年、市船橋)が野手陣を引っ張る。

エースで主将としてチームを引っ張る更田篤稔(帝京平成大硬式野球部提供)

「更田の真っすぐは初速と球速が変わらなくて、ホップするような軌道で、打者はみな差し込まれます。大石は守備もうまいしバッティングではパンチ力があり、上の世界でやれる能力があると思います。大石を含めた、内野陣は自慢の布陣ですよ。東都でどれだけ通用するか楽しみです」と河野監督は開幕へ向け自信を深める。帝京平成大からNPB(日本野球機構)に進んだ選手はまだいない。河野監督自身も現役時代、NPB入りを熱望していたが、その夢はかなわなかった。教え子を最高峰の世界へ送り出すことも大きな目標の1つだ。

諦めない精神と突き進む勇気を持って

今春は4校による4部リーグからのスタートになる。4部で優勝し、3部最下位校との入れ替え戦で2勝すれば秋は3部で戦うことにができる。秋、3部で優勝すれば、2部最下位校との入れ替え戦へ……。神宮球場でリーグ戦を戦えるのは1部リーグのみ。最短で勝ち上がったとして、1部で戦えるのは2023年の秋からだ。『戦国東都』と呼ばれ、日本で最もレベルの高いリーグの1つと言われる東都で1部に上がることは、決して簡単なことではない。河野監督は学生時代、1部も2部も、そして入れ替え戦をも経験している。

専修大学時代は入れ替え戦など東都の厳しさも味わった(撮影・原島由美子)

「私も東都のOBですから、東都の厳しさは分かっています。でも、勝負事は厳しいから面白い。やるからには最短で1部を目指します。胃の痛くなるようなあの緊張感を、選手たちにも経験させたいですね。諦めない精神と突き進む勇気を持って、精進していきたいです」と河野監督は力強い口調で言った。

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