日体大・藤本珠輝がハーフマラソンで独走V モグス超えの大会新をチームの刺激に
第101回関東学生陸上競技対校選手権大会 男子1部ハーフマラソン
5月22日@国立競技場をスタート・ゴールとする周回コース21.0975km
1位 藤本珠輝(日本体育大4年)1時間02分20秒☆大会新
2位 梅崎蓮(東洋大2年) 1時間02分41秒
3位 山平怜生(中央大2年) 1時間02分48秒
4位 竹村拓真(東海大4年) 1時間02分53秒
5位 木本大地(東洋大4年) 1時間03分03秒
6位 稲毛崇斗(法政大3年) 1時間03分03秒
7位 四釜峻佑(順天堂大4年) 1時間03分04秒
8位 前田義弘(東洋大4年) 1時間03分15秒
「後で知って自分もビックリしました」。日本体育大学の藤本珠輝(4年、西脇工)は男子1部ハーフマラソンを1時間02分20秒の記録で優勝し、2008年にメクボ・モグス(当時・山梨学院大)がマークした大会記録(1時間2分23秒)を更新。日体大のエースがチームメートを鼓舞するように、完勝を果たした。
勝負どころを見極め、一気に前へ
ハーフマラソンは国立競技場発着で明治神宮外苑を19周する公認コースで行われ、アップダウンこそ少ないものの、小刻みに直角に曲がるコーナーが連続している。レースは集団で進んだが、10km前には一度、中央大学の山平怜生(2年、仙台育英)が集団から飛び出した。しかしほどなくして、東洋大学の木本大地(4年、東洋大牛久)を先頭とした集団に吸収された。
藤本はレースが動き始めたことを感じた。主導権を握られるよりは自分がしかけて主導権を握ろうと考え、15kmほどで集団を抜け出し、そのまま独走。後続集団はばらけていき、藤本はどんどん差を広げていく。藤本のペースは最後まで衰えない。国立競技場に戻ってくると観客から拍手で迎えられ、もう一段階ギアを上げながら、最後は右手の人差し指を空に突き上げてゴールした。
大会中止にケガに病気……ハーフに照準を合わせて1日計55km
藤本は自分がレースを引っ張る展開になることを想定していたが、どのポイントでしかけるかは特に決めず、レースの流れを見て判断しようとしていた。「そこでしっかり勝ち切るということが自分の力の証明になると思ったので」と藤本が言うように、今大会は勝ち切ることに意識を置き、5000mや10000mなどのトラックレースではなく、ハーフマラソンに照準を合わせて調整をしてきた。
今年の箱根駅伝で2区を走ってからは、2月の香川丸亀国際ハーフマラソンに出場する予定だったが、コロナの影響で大会は中止となった。その後は故障で練習ができない日々が続き、3月末には突発性部分てんかんを発症。3日間入院し、その後も1週間ほど練習ができなったという。
練習不足の状態で4月17日の学生個人選手権5000mに出場し、13分59秒58で5位だった。久しぶりのレースは楽しかったが、調子が上がっているような手応えを感じられず、1カ月後に迫った関東インカレの種目に悩んだ。スピードで戦うトラックレースよりも、得意とする距離の長いハーフマラソンの方がポイントを獲得できるのではないかと考え、そこからはハーフマラソンに向けて距離を踏んだ。
自分でメニューを組み立て、ときには1日計55kmを走ることもあったという。急ピッチで調整した結果、メクボ・モグスが持っていた大会記録を破り、同種目では13年の本田匠以来となる日体大優勝に、一番驚いていたのは藤本自身だったかもしれない。
もっとがむしゃらに泥臭く
国立競技場でもう一段階ギアを上げたのは、記録を狙ってのことではなく、「応援してくださっているみんなが元気になれるような走りができたら」という思いからだった。今回の優勝は藤本にとって自信になっただろうが、「自分というよりはチームの刺激になればいいな。関東インカレ初日の10000mでも勝ち切れなかったのがあったので、自分が結果を出してチームの刺激になり、今後につながればいいかな」
藤本は池田耀平(現・カネボウ)が卒業した昨年からエースの覚悟を胸に戦ってきたが、チームを支えていたのは当時の4年生たちだった。最上級生となった今、チームの命運を握るのは自分たち4年生だという意識で、藤本もチームの雰囲気作りに苦心している。
日体大は全日本大学駅伝と箱根駅伝はともに予選会からとなるが、特に箱根駅伝では総合8位以内を目指している。「箱根でポイントになるのは2区だと思っているんですが、やはり区間賞を狙わないといけないですよね」と藤本は言う。
今年の箱根駅伝で初めて2区を走り、順天堂大学の三浦龍司(3年、洛南)を引っ張りながら、最後は突き放して襷(たすき)リレーとなった。三浦とは高校の時から同じレースを走る機会はあったが、東京オリンピックを経験した三浦と、箱根駅伝という大舞台で再び一緒に走るのはプレッシャーもあったという。「チーム事情もあるので自ら2区を希望することはありませんが、(玉城良二)監督と相談します」と藤本は言うが、日体大のエースとして再びの2区も視野に入れているだろう。
藤本は今のチームに対し、「正直、いいところも悪いところもはっきり分かれている」と言う。ただ仲がいいだけでなく、相手の悪いところも言い合えるような関係性が築けているところはチームのいいところである一方、最後まで出し切れる強さがまだ足りないと感じている。もっとがむしゃらに泥臭く。藤本はそんな姿をエースとして見せていく。