野球

特集:第71回全日本大学野球選手権

静岡大学・永井結登 主将で臨んだ全日本選手権、試合後に涙を流した「一問」

3回目の出場も、初戦突破はかなわなかった(試合の写真はすべて撮影・井上翔太)

第71回全日本大学野球選手権大会、1回戦

6月6日@東京ドーム
東日本国際大学 10-3 静岡大学(八回コールド)

国立大学でプレーする選手の中では、本当に数少ない「全国の舞台を知る」選手だ。静岡大学で主将を務める永井結登(4年、彦根東)は、6日に開幕した第71回全日本大学野球選手権大会の開幕試合を終えた後、取材の場で、むせび泣いた。こちらが「全国の舞台における高校と大学の違い」を尋ねたときのことだった。「舞台が違うというよりも、こういう舞台に主将として立たせてもらったというのは本当にうれしいです」。ときに言葉を詰まらせながら、ときに右手で両目頭を押さえながら、絞り出した。

中心選手のチームメートは東京六大学へ

高校時代は「9番打者」が、永井の定位置だった。

2018年の第90回選抜高校野球大会で、初めて甲子園球場の土を踏んだ。計2試合に先発出場し、7打数3安打。上位打線につなぐ役割を十分に果たしている。

当時のエースは、現在慶應義塾大学でリーグ戦の主に第1戦を任される増居翔太だった。2番手には早稲田大学のリリーフ左腕・原功征が控え、今春の東京六大学リーグで首位打者争いを演じた慶大の朝日晴人もチームメートだった。

中心選手たちは大学球界の中でも注目度が高いリーグに進んだ中、永井自身は大学入試センター試験の結果と、スポーツを学びたい自分の思いを組み合わせ、静岡大に進んだ。

彦根東時代、選抜高校野球大会にレギュラーとして出場した(撮影・内田光)

そもそも野球部の存在を知らなかった

大学で野球を続けるつもりはなかった。というか、そもそも静岡大に野球部が存在することを知らなかった。体験入部で久しぶりに白球に触れ、「やっぱり野球をやろうかな」と思い直したという。

チームにとって永井の入部は、大きな出来事だった。自身も静岡大OBの高山慎弘監督は「入部したときから、(上級生になったら)キャプテンにするつもりでした。1年生の終わりぐらいから、そういう話をしていました。全国の舞台を経験したり、勝ち慣れた経験をしたりしている選手がどうしても少ないので、そういう経験をした人間に、チームを引っ張ってもらいたかった」と振り返る。

彦根東のTシャツで練習することもある(撮影・朝日新聞社)

恵まれない野球環境は「言い訳にしない」

静岡大野球部の環境は、恵まれているとは言えない。グラウンドがある静岡キャンパスから、約80キロ離れた浜松キャンパスで学ぶ選手もいる。高山監督は週末しかグラウンドに顔を出すことができない。寮がないため、アパート暮らしの部員も多く、約2時間の全体練習を終えた後は、アルバイト先に向かう選手もいる。

コロナ禍で春先はオープン戦を組むことができず、教育実習のためにレギュラー陣が欠場したこともあった。それでも永井は「言い訳にしない」。春の静岡県リーグはチームとして1本塁打ながら、打線がつながった。静岡、岐阜、三重の王者が集い、総当たりを行う「東海地区大学野球春季選手権大会」も2連勝。東海地区大学野球連盟の代表として、8年ぶり3回目の全国大会出場を決めた。

「打線の切れ目になって申し訳ないです」と試合後、涙を流した

「公立出身でも、成功体験が作れる」

東日本国際大学との初戦は、「自分たちの野球をするまでに時間がかかってしまった」。一回に2本のソロ本塁打を浴びたが、これは「想定内」。6点差を追う四回から、打線にもエンジンがかかり始めた。

八回、平日はグラウンドに行けない浜松キャンパスに通う竹田龍平(4年、川和)が左中間にソロ本塁打を放った。高山監督は「週末以外、練習をしていない中で、ホームランが打てるのも事実。やる気、モチベーション次第ということを証明してくれた」と評価。竹田は「公立高校出身でも、全国の舞台で野球ができる。大学まで続けたら、成功体験が作れるということをチーム全体として伝えていきたい」と静岡大が全国大会で勝利をめざす意義を語ってくれた。

ソロ本塁打を放ち、喜びながら三塁を回る竹田龍平

八回コールド負けを喫したものの、チームを8年ぶりに全日本大学野球選手権に導いた永井主将の功績は、計り知れないだろう。竹田は言う。「ベンチワークやベンチ外の部員がとても精力的になってくれることが、このチームの良さ。全国でも誇れるものがあると思ってます。永井を中心に作ってくれたチームの土壌を、もっともっと浸透させたい。技術、戦術、気持ちの部分で、まだまだ直せるところがあると思ったので、ここで満足せずに、さらに上をめざしたい」

ベスト4をめざすと公言していたのだから、秋に向けてさらに成長しなければならない。それには無死一、二塁から三振を喫したようなこの日のふがいない姿は、主将として見せられない。永井の涙は、そこにも理由があった。

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