陸上・駅伝

特集:第54回全日本大学駅伝

神奈川大学・宮本陽叶 4大会ぶりの伊勢路引き寄せ、期待は「第2の鈴木健吾」

宮本(右端)は残り1000m付近からスパートを仕掛けた(撮影・藤井みさ)

第54回全日本大学駅伝対校選手権大会 関東地区選考会

6月19日@相模原ギオンスタジアム(神奈川)
1位 神奈川大学  3時間57分35秒80
2位 東洋大学   3時間57分54秒30
3位 創価大学   3時間58分09秒99
4位 東海大学   3時間58分10秒86
5位 大東文化大学 3時間58分36秒05
6位 中央学院大学 3時間58分48秒82
7位 日本大学     3時間59分04秒40
----------ここまで本戦出場------------
8位 城西大学   3時間59分44秒33
9位 帝京大学   4時間00分05秒07
10位 国士舘大学  4時間00分32秒79

神奈川大学に4大会ぶりとなる伊勢路への切符を呼び込んだのは、「10000mは初レース」という1年生の快走だった。6月19日に行われた全日本大学駅伝関東地区選考会。1組目で走った宮本陽叶(はると、1年、洛南)が、29分45秒40の2着でフィニッシュした。2組目以降を走った先輩たちに「鼓舞された」と思わせたレース運びで、出場した全20チーム中のトップで本戦出場を決めた。

腹痛や不眠に陥ったレース3日前

「レースの3日前から、おなかが痛かったり、寝られなかったりで、だいぶ緊張して調子は悪かったんですけど、先輩たちや監督が『やれることをやって。あとは先輩たちが何とかしてくれるから』と言ってくれて。自信を持ってレースに臨むことができました」。宮本は大事な1組目を任された心境を、こう振り返った。

レースは、4000m過ぎで東海大学の吉田響(2年、東海大翔洋)が集団を飛び出し、独走した。10000mは「ロードもトラックも初めて」という宮本にとって、これは心が揺さぶられる要素とはならなかった。「9000mぐらいまでは、ずっと前の(集団)の人についていって、最後の1kmで今の自分の状態で出せるスプリントで勝負をしよう。たぶんラスト400mの勝負になったら、周りに勝てないので」。スタート前に組み立てたプランを冷静に遂行。ゴールすると、すぐに時計を確認した。

「練習では30分を切れるぐらいの練習をしてきました。思いのほか、自分の中でもよく走れたかなと思います。悪くはないと思います。目標は、今年中に28分台を出すことです」。出てくる言葉を聞く限りでは、初の10000mとは思えなかった。

10000mの目標は、今年中に28分台を出すことだ(撮影・井上翔太)

佐藤圭汰からたすきを受け取った高校時代

宮本は洛南高校(京都)時代、全国高校駅伝で4区を走った。駒澤大学の注目ルーキー、佐藤圭汰から襷(たすき)を受け取ると、一時は先頭に立った。チームは留学生がいない日本選手だけの高校記録を更新し、2位。宮本は区間賞に輝いた。

大後栄治監督によると、宮本は神大のOBで2時間4分56秒のマラソン日本記録を持つ鈴木健吾(富士通)に憧れ、入部した。監督は「普段の練習の達成率を見て、本当に信頼できる選手」として、1組目に宮本を配置。期待通りの走りにホッとするだけでなく、「まだまだ無理をさせたくない。体をしっかり作りながら、26~28歳ぐらいでマラソンを任せられるような計画です。第2の鈴木健吾になってほしい」と将来についても語った。

鈴木健吾は神奈川大学のメンバーとして2017年の全日本大学駅伝を制した(撮影・朝日新聞社)

3組目を終えた時点でトップに

本戦出場に向けて流れを作った宮本の走りに、刺激を受けたのが先輩たちだった。

3組目を任された小林篤貴(3年、四日市工)は、ウォーミングアップを終え、軽くジョギングしていた最中に、宮本の2着を知った。「これはちょっと頑張らないと。鼓舞された感じですね」。前年の選考会では、自身も1組目を走ったが、15位に終わり、「いい流れを作れなかった」という反省点が残った。チームも選考会を通過できなかった。

ただ今年は29分44秒53で、3組目の2着に入った。同組の宇津野篤(3年、佐久長聖)も、一時は1000mあたり3分を超えるスローペースの中、29分47秒29で5着となり、神大はこの組を終えた時点でトップに。本大会出場ラインの7位日本大学に1分以上の差をつけ、伊勢路への切符をほぼ確実なものにした。

宮本に刺激を受けた3組目の小林(右端)も力走を見せた(撮影・藤井みさ)

1年生でも、練習から引っ張る

神大の持ちタイムは、出場した全20チーム中、16番目だった。大後監督は「本当に力のないチーム」と謙遜する。そんな神大がトップ通過を果たせた要因は、宮本の快走であることは疑いようがない。小林によると、宮本は練習で「1回も離れたことがない」と言う。また4組目で他チームの留学生選手たちと走った巻田理空(3年、松山商)は「1年生なのに、練習でも前を引っ張ることがあって、目立ってます」

4組目の山﨑(16番)と巻田(36)も安定した走りで続き、留学生不在ながらトップ通過を果たした(撮影・藤井みさ)

昨年はトップチームに1年生が食い込めなかったが、今年は宮本以外にも数人いるという。「1年生全体として強いので、刺激を受けてます」と巻田。夏を超え、11月6日の本戦までにどんなチームに仕上げてくるか。そして宮本は大学陸上界を引っ張り、日本を代表するランナーに成長するか。今のうちから注目したい。

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