ラグビー

連載:私の元気メシ

聖蹟桜ヶ丘「焼肉 カジャ」は帝京大ラグビー部の元気の源、OB店員から後輩たちへ

「焼肉 カジャ」が今の場所に来たのは昨年だが、帝京大ラグビー部との縁は開業時からだ(提供写真以外、撮影・すべて松永早弥香)

焼き肉店をしていた祖母の後を追うように母が焼き肉店を開業し、帝京大学ラグビー部員だった息子が同期の友人を誘い、2人も母とともにお店を運営している。そんなお店「焼肉 カジャ」は、今も帝京大学ラグビー部と深くつながっている。

「日本一」になるため、選手から学生コーチへ

カジャは10年ほど前に多摩モノレール大塚・帝京大学駅のそばで開業し、一度、京王線聖蹟桜ヶ丘駅から1kmほど離れた場所に移転。昨年4月に現在の聖蹟桜ヶ丘駅から徒歩3分の場所で営業を再開した。

ランチ営業の他、お弁当も展開している
店内はシックなデザイン

オーナーの塩田歌子さんの息子、塩田謙さん(28)は高校からラグビーを始め、2013年に帝京大へ進学。当時のラグビー部は全国大学選手権を4連覇しており、レベルの高さをすぐに肌で感じた。全国大学選手権の連覇記録を更新し続けることはもちろん、日本選手権(大学チームの参加は2016年度まで)で勝利することがチームの、塩田さんの目標だった。

だが、当時の塩田さんはAチームではなく、チームが日本一になるために自分ができることを考え、4年生の時に選手から学生コーチに転身した。「キャプテンの亀井(亮依、現・NECグリーンロケッツ東葛)を中心にして、先輩たちが築き上げた伝統を引き継ごう、という思いでみんなが戦って、全国大学選手権を8連覇できた時は本当にうれしかったです」。続く学生が参加する最後の日本選手権では1回戦でサントリーと戦い、善戦するも敗れ、引退を迎えた。選手としてだけではなく学生コーチとしても様々な学びがあり、「すごく勉強になった4年間でした」と振り返る。

(左から)塩田さんと子安さんはともに帝京大ラグビー部員だった(写真は本人提供)

オーナーの母と店長の同期と一緒に

母でオーナーの歌子さんは、塩田さんが帝京大に進む前からラグビー部と親交があり、ときにはお弁当を作って学生たちを支えた。塩田さんの同期の子安諒さん(28)も歌子さんに支えられた1人で、帝京大卒業後はカジャの店長として歌子さんとともにお店を切り盛りしている。

塩田さんは帝京大卒業後、一般企業に就職したが、休みの日にはお店に出て手伝いをしていた。「母と僕が諒を誘って、僕もゆくゆくは……とは思っていました。だからある程度区切りが良さそうだな、と思って退職してここにきたのが去年の8月です」。そこからは3人でお店を運営。母と一緒に働くことに特に気恥ずかしさはなく、休みの日には3人でご飯を食べに行くこともあるそうだ。

現在は塩田さん(左)は店員として子安さんは店長としてともに助け合っている

帝京大ラグビー部員にとって「関東のお母さん」

お店は月曜日が定休日で、11時30分~14時と17時~23時に営業。ランチにはステーキ定食(980円、すべて税込み)やカルビ定食(1100円)などの定食がそろう。夜は日替わりメニューを加えた肉が約30種類、一品料理も種類が豊富で、タンカレー(880円)や石焼きビビンバ(980円)など魅惑的なご飯メニューも並ぶ。肉への味付けはもちろん、タレやキムチなどもすべて歌子さんの手作りだ。

ハラミ(1080円)への味付けも歌子さんのオリジナル

学生たちに人気なのがハラミ(1080円)とタン塩(1380円)。加えて帝京大ラグビー部の松山千大主将(4年、大阪桐蔭)は卵スープ(500円)がお気に入りだという。ただ、帝京大ラグビー部の学生たちが来る時は仕組みが変わる。塩田さんは「ここだと予算に合わせて僕らにお任せなんで。学生なんでちょっと割引というか、ほぼ食べ放題。うちは食べ放題をやってないんですけど、特別です」と言う。相手はラガーマンだ。ものすごい量を食べるのだが、その様子を歌子さんも笑顔で見守め、「しっかり食べて勝ってほしいですから」とにっこり。

タン塩(1380円)は帝京大ラグビー部員もよく頼むメニュー

歌子さんたちの思いは学生にも届いている。松山にカジャのことをたずねると、「歌子さんやスタッフの皆さん全員で、いつも自分たちのことを応援してくださり、とても感謝しています。ラグビーや私生活でうまくいかない時はお店にうかがい、おいしいご飯を食べて元気を出しています」と答えてくれた。歌子さんは学生たちの相談に乗り、ときには叱ることもある。「部員にとって関東のお母さんのような存在です」と松山は言い、日頃の感謝の気持ちを優勝という結果で恩返ししたいと考えている。

相馬監督1年目も強い帝京大を

歌子さんは甥(おい)の吉田光治郎(帝京大卒)がまだ幼かった時にラグビーをしていた姿を見て、次第にラグビーにのめり込んでいったという。今では帝京大ラグビー部の応援や、帝京大卒の選手たちが活躍するリーグワンの応援に行くこともある。特に東京サントリーサンゴリアスや横浜キヤノン イーグルスは練習拠点がお店から近いこともあり、オフの時には選手たちがカジャに顔を見せてくれる。現役の帝京大ラグビー部の学生だけでなく、帝京大を巣立った選手たちが今もこうしてカジャに来てくれることが本当にうれしい。

塩田さんと子安さんも後輩たちを今も気にかけており、今年1月に国立競技場で行われた全国大学選手権大会決勝は現地で応援した。昨シーズンはコロナ禍で試合が無観客になることもあったが、苦難を乗り越えた後輩たちが決勝の舞台に立ち、4大会ぶり10度目の優勝をつかんだ瞬間、誇らしい気持ちでいっぱいになった。「今年は監督が(岩出雅之さんから)相馬朋和さんになった1年目ですから、どんな戦い方をするか注目されているでしょうし、頑張ってほしいなと思っています」と、塩田さんは後輩たちに期待している。

帝京大ラグビー部員は学年会でもカジャを使っていた(写真は2020年1月当時の4年生の学年会、写真提供・帝京大学ラグビー部)

塩田さんが学生だった時、帝京大ラグビー部はカジャで学年会をし、卒部する時もここに集った。帝京大八王子キャンパスからは車で10分ほどと近い。今はコロナ禍で学生たちは気軽に来られなくなったが、塩田さんたちはまたたくさんの学生たちが集える日を心待ちにしている。

私の元気メシ

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