陸上・駅伝

特集:第91回日本学生陸上競技対校選手権大会

東洋大学・中島佑気ジョセフ マイルリレー4走の源流「スーパースターになりたい」

7月に行われた世界陸上のマイルリレーで4位に入った、左から中島、ウォルシュ、佐藤、川端(撮影・藤原伸雄)

今年7月にアメリカ・オレゴン州ユージンで開催された世界陸上で、日本勢は男子4×400mリレーで日本・アジア記録を更新した。予選、決勝ともアンカーを務めたのが、マイルメンバー最年少の東洋大学・中島佑気ジョセフ(3年・城西大城西)だ。今シーズンは大会を重ねるごとにベストタイムを更新し続けるなど、勢いに乗る。ただ結果とは裏腹に、今季は満足のいく走りがほとんどできなかったという中島。その陸上人生は悔しさの連続だった。幼少期に憧れ、競技を続ける上で常に原動力となってきたのが、「人類史上最速のスプリンター」と評されたウサイン・ボルト(ジャマイカ)の存在だった。陸上界のスターを夢見て、今もその姿を追い続ける中島のこれまで、そして9月9日から始まる日本インカレの目標、今後の展望について聞いた。

「アイスがもらえるよ」と誘われ、陸上教室へ

元々はサッカー少年だったという中島は、小学6年のときに陸上を始めた。当時は陸上に対する関心が低く、「行ったらアイスがもらえるよ」と言う友人からの誘いで、初めて陸上教室に赴いた。中学では陸上部に所属し、100mや走り幅跳びに取り組んでいた。ただ当時は、競技にあまり身が入らなかったという。

まじめに向き合い始めたのは中学2年の冬季練習から。「みんなで関東大会や全中(全国中学校体育大会)に行きたい」というチームメートの雰囲気に押されたからだった。冬季練習が明け、3年に進級した時期、ようやく400mに取り組み始めた。すると初めてのレースにもかかわらず、都大会に続く地域別大会で、いきなりの1位。全中に出場することはできなかったが、最後の都大会で3位に入るほどの選手に成長し、陸上の強豪、城西大城西高校から声がかかった。

高校時代はまだ無名の選手だった(写真は本人提供)

入学当初、中島はレベルが高い練習に苦労した。結果も伴わなかったという。当時の400mは周りのレベルが高く、大舞台ではなかなか決勝に残れなかった。高校2年の秋シーズンはけがに見舞われ、当時目標としていた日本ユース選手権での優勝もかなわず。そこからは故障との戦いが続いた。

練習を積めない期間が続きながらも、勝負強さを発揮したのが、高校3年のときだった。南関東大会(以下、南関東)でベストタイムを0.5秒更新し、インターハイへの切符をつかんだ。「インターハイには行っておかないとと思っていて。めちゃくちゃ緊張しましたけど、今後のキャリアを考える上でも南関東は重要でした」

南関東での結果も評価され、東洋大からスカウトを受けた。城西高と雰囲気が似通っていたことに加え、高校の先輩である塚本ジャスティン惇平(4年)や憧れていたウォルシュ・ジュリアン(富士通)が在学していたことが決め手だった。しかし入ってみると、またもレベルの違いを見せつけられた。「スピードが全然段違いで。最初はついていくことができませんでした」

ハイレベルな環境で、初めは大きな大会で個人での代表を手にすることができなかったが、入学した年の関東インカレでリレーメンバーに加わり優勝を経験。徐々に自信をつけた。大学での練習にも順応してきた2年時には、個人での出場を果たした、関東インカレ男子400mで優勝。さらに同年のデンカチャレンジカップ2021自己ベストを1秒更新し、46秒09。順調に成長を続けていった。

今年の関東インカレでは男子400mで連覇を果たした(撮影・松本考史)

兄のように慕うウォルシュからのバトン

今季、中島はさらに飛躍を遂げた。7月の世界陸上でマイルリレーの4走に抜擢(ばってき)。小学生の頃からの憧れだった大舞台、初めての国際試合で、トラックと観客席の近さが生み出す会場の一体感に圧倒されたという。「どちらかというと、日本の試合は張り詰めた雰囲気がありますが、世界陸上はお祭りみたいな。みんな陸上を楽しみに来ているラフな印象がありました」

1走から佐藤風雅(那須環境)、川端魁人(中京大クラブ)、ウォルシュ、中島という顔ぶれで臨んだ日本のマイルメンバーは、予選からいきなり快挙を成し遂げた。スタートから順調にレースを組み立てると、最後の直線でジャマイカを抜き去り、アメリカに続く組2着で決勝進出。2003年のパリ大会以来、19年ぶりだった。チームにとっても驚きの結果かと思いきや、予選突破は想定内だったという。「選手・スタッフ含め、チーム全体に自信があって。最初に走順を聞いた時に、みんな『この4人なら行けそう』と言っていました」

世界の舞台は何もかもが新鮮に感じたという(写真は本人提供)

決勝の日。マイルリレーは大会最終日の最終種目ということもあり、スタート前からスタジアムは熱気に包まれた。スタート直後は苦しい立ち上がりとなったが、3走のウォルシュが順位を二つ上げてバトンを中島につないだ。

中島にとってウォルシュは特別な存在だ。兄のように慕い、お互い犬よりも猫派という共通点を持ち合わせ、性格もどこか似ているところがあるという。「ジュリさん(ウォルシュ)と一緒にマイルを組むということが、大学に入ってからの夢で。『世界陸上に行って一緒に走れたらいいね』って話していたんですよ。それが実現して、しかも3、4走でバトン渡しもできて、めちゃくちゃうれしかったです」

ウォルシュから4番手でバトンを受け取ると、勢いよく前を追走。後続が距離を詰めてくる中、粘りの走りで3位のベルギーを追ったが、わずかに及ばず4位でのフィニッシュとなった。メンバー全員が本気でメダルを狙っていただけに「最初は悔しさしかなかったです。目の前に見えていた表彰台をあと1歩で逃してしまった。それしか頭の中になかったです」

それでもチームはこの種目で予選を上回る快挙を打ち立てた。2分59秒51のタイムは、アジア新記録、そして26年ぶりに更新する日本新記録だった。

世界陸上マイルリレーで、ウォルシュ(左)からバトンを受け取った中島(撮影・藤原伸雄)

世界陸上の前に読み返したボルトの自伝

中島には、陸上を始めた頃から心に留め続けているアスリートの存在がある。ウサイン・ボルトだ。世界陸上の前にも、ボルトの自伝を読み返したという。中でも印象的なのが「どんな時でもプレッシャーに身を置かずに、楽しんで走ることが一番重要である」という言葉。「世界陸上に向かって良いメンタリティを形成する上でも、あの本を大会前に読めたことは良かった」。愛猫の「ボルタン」も名前の由来はボルトで、レース前には写真を見て癒やされたという。

幼い頃に抱いた「ボルトのような存在になりたい」という思いは、今も変わらない。「スーパースターになるっていう根拠のない自信って、小学生によくあるじゃないですか。そういう夢を純粋に信じ続けたことが、ここまで来られた要因なのかなと。夢を夢のままにせずに、本当にそれを達成しようと、少しでも近づこうと、貪欲(どんよく)に成長しようとしてきたというのが、僕の陸上人生なのかなと思います」

あまり懐いてくれないというが、「ボルタン」くんから元気をもらっていた(写真は本人提供)

帰国後も、世界の舞台を経験した中島の勢いは加速している。世界陸上から約2週間後に行われた2022オールスターナイト陸上では、最後の直線でウォルシュを抜き去り、男子400mで優勝。タイムも46秒を切り45秒72を出した。さらにその3週間後には、富士北麓ワールドトライアル2022で45秒51を出し、立て続けにベストを更新した。

パリオリンピックの目標は「金メダル」

そして、いよいよ学生日本一を決める日本インカレが9月9日から開催される。中島は400mとマイルリレーに出場予定だ。目標はタイトルの獲得と44秒台。東洋大のお家芸であるリレーでも、もちろん優勝を狙う。加えて「まだ未完成」というフォームの完成も目指す。改めて今後の目標について聞くと「4年までには学生記録、日本記録の更新。来年の世界陸上では400mの決勝に残り、マイルではメダルを取りたい」と語る。2年後に開催予定のパリオリンピックについては「金メダル」とはっきり口にした。

これまでの競技生活では幾度となく悔しい思いをしてきた。6月の日本選手権も、あと1歩で表彰台を逃し、今季前半は満足のいく結果を出せなかった。ただ童心の頃の夢を追い続ける純粋さが、中島を突き動かしてきた。かつて憧れた世界陸上は、すでに出場経験のある大会となり、今は次のステージへと向かおうとしている。

幼い頃から憧れのスター像を胸に走り続けてきた(撮影・水越里奈)

目指す姿は「スーパースター」。成長著しい20歳は、これからも無限の可能性を信じて、貪欲に夢を追いかけ続ける。

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