アメフト

明治大学・デコウト大貴 ニュージーランドでラグビーを経験し、切り開いたWRの道

試合時間残り1分18秒、決勝のTDパスをレシーブ(すべて撮影・北川直樹)

10月8日、アメリカンフットボールの関東学生TOP8第4節で、1勝1敗同士の明治大学と立教大学が対決した。両校は6月19日のオープン戦でも対戦。ランニングゲームで立教守備を切り裂いた明治が圧勝したが、この日は立教の好守で明治はランが稼げず、ロースコアゲームに。第4クオーター(Q)終盤までもつれた末、14-7で明治が競り勝った。

勝負どころでつかんだTDパス

決勝のTDパスをジャンプしてつかみ取った。競り合いと球際の強さが武器だ

明治のランが進まない。接戦を落とした開幕の日大戦で120yd、続く慶應戦で208yd獲得した看板のランが、わずか79ydに抑え込まれた。7-7の同点で迎えた第4Q残り1分半。2ndダウン4yd、WRデコウト大貴(4年、Nelson College)がアウトを走り、QB吉田拓郎(4年、日大鶴ヶ丘)のパスで1stダウンを獲得。WRがアウトオブバウンズに出て時計を止めやすいアウトパターンを次々に決め、攻め込む。試合時間残り時間1分18秒、敵陣33yd地点で3rdダウン5yd。勝ち越すためになんとしてもTDを取りたいシーン。右側のナンバー2WRにセットしたデコウトは、立教大守備のカバーの切れ目にリリースして浅く内側に走り込み、パスをキャッチしてエンドゾーンへ倒れ込んだ。守備カバーとのミスマッチを突いた会心のレシーブで、これが決勝のTDになった。「(立教の)LBが広がるのが遅かったので狙ってました」。デコウトが振り返る。

ボールをキャッチし、エンドゾーンへ体をねじ込んだ

終わってみれば、ランを含めた攻撃で獲得した326ydのうち247ydを稼いだパスで、タッチダウンはわずか2本。勝ち負けを度外視して言うならば、明治は20-21で負けた日大戦よりも苦しんだと言える。

「春からの課題だった、『ランを止められたときにパスユニットでどう取り切るか』。勝てたのはいいが、日本一を目指してる以上、全然ダメですね」。決勝レシーブを決めたデコウトから調子が良いコメントは一切出ず、渋い表情で反省を口にする。178cm90kg弱の大型WRは、春の立教戦でも同じようなレシーブを見せた。インサイドのミドルパスに強く、守備からすると重くてやっかいなWRに違いない。

5回キャッチ71yd1TD。飛んできたボールは全部とった

中学時代はラグビーの東京都選抜

競り合いの中での球際に強い。デコウトのルーツは、学生時にラグビーをしていた父親の影響で青山学院初等部3年のときに始めたラグビーだ。初等部のラグビーチームは、小学校のチームとして日本一古く、「スポーツやる子はラグビー」という流れもあったのだという。みなとラグビースクールや世田谷ラグビースクールにも通って、ラグビー漬けの生活を送り、中学のときは東京都の選抜チームにも選ばれた。

当時の選抜チームには、現在サントリーで活躍する山本凱や、明大で活躍した大石康太らがいて、高校では花園に出る仲間も多かった。青学高でラグビーを続けても外国で勝負できるレベルにはなれないと感じたデコウトは、学校をやめてニュージーランドの高校にラグビー留学する道を選んだ。

黄金ルーキー、勝ちどきあげろ 慶應・山本
明治大学の大石康太・副キャプテン、4年目で初めてまとった紫紺のジャ-ジー

NZ最後の大会でけが…アメフト転向

ニュージーランドの文化でもあるラグビーは、当然レベルが高い。日本からやってきたデコウトは「(わざわざ来てるってことは)お前、うまいらしいから2軍からスタートしなよ」と言われたが、見ず知らずの日本人では信用が得られず、ボールが回ってこない。はじめは仲間にも入れてもらえなかった。しかし、コーチは気に入ってくれていて、試合に出してもらったチャンスを生かし、活躍してMVPを取った。そこからチームメートの信頼を勝ち得て1年目を過ごした。2年目からは1軍のベンチに上がりプレーした。

大学は、日本に帰国して明大ラグビー部に入ることを目指していた。一時帰国し、ほぼ明治への進学が決まった段階で、最後の大会に出るためニュージーランドに戻った。だがこの試合でけがをして、ラグビーが続けられなくなった。手術をして続けるか、別のスポーツにするか。考えた末、ラグビーに似ていて中学の東京都選抜の仲間がやっていたアメフトに転向する道を選んだ。当初のラグビー推薦ではなく、帰国子女入試で明治を受験して合格した。

「自分が一番パスをとる気持ちで」

大学1年のときは、当時4年だったWRの明松(かがり)大雅(現・ノジマ相模原)と九里(くのり)遼太(現・IBM)らに徹底して基礎を教わった。同じナンバー2WRの明松には、毎日のように練習後に付き合ってもらい、守備の動きやルートの走り方を学んだ。高校未経験ながらエースで活躍していた九里には、今も練習動画を見てもらいアドバイスをもらっている。先輩らの指導のかいもあって、下級生から出場機会をつかんだ。昨年はけがでシーズンを棒に振ったが、今年はチームメートの声もあって副将についた。幹部としてチームを引っ張る立場にいる。

アメフト 明大のWR九里遼太、気分はリバウンド
6月19日にあった春の対戦では、53ydのTDレシーブを決めた

高橋輝ヘッドコーチは、デコウトのWRとしての能力を買いながらも、あえて厳しい評価を口にする。「試合経験がある中でシチュエーション判断がまだ甘い。ここ2試合でも『1stダウンを取る』、『外に出て時計を止める』といった部分で同じ失敗をした。副将という意味でも、まだまだです」

QB吉田をはじめWRの池田健輔(4年、明大中野)、羽深素(同、攻玉社)、片山郁哉(同、東明館)、山口翔(3年、箕面自由)ら、下級生から試合に出てきた経験豊富なメンバーで構成されるパスユニットの出来は良いと言い、だからこそデコウトの更なる成長を求め、発破を掛ける。

厳しい戦いだった。勝利にも笑顔はなく、反省が口をついた

デコウト自身に慢心はない。「今日はパスのドロップはありませんでしたが、自分の出来は半分くらいですね。今年は絶対的なエースWRがいないので、自分が一番パスをとる気持ちでやっていきます」。まずは1次リーグ首位を懸けた10月16日の法政戦で、更なる成長と存在感を見せられるか。その先に日本一を目指す舞台が見えてくる。

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