駒澤大・円健介が「もうひとつの出雲駅伝」で日本人トップ ラストイヤーにかける思い
10月10日の出雲駅伝で駒澤大学は9年ぶり4度目の優勝を果たした。そして駅伝後に行われた出雲市陸協記録会では、駒澤大で副主将を務める円(つぶら)健介(4年、倉敷)が日本人トップでゴール。チームの勢いをそのまま象徴する形となった。
留学生に食らいつき日本人トップ
出雲駅伝と同日の夕方に開催される出雲市陸協記録会には、例年各チームのメンバーに登録され、出走しなかった補員のメンバーが出場してタイムを競う。メンバーに選ばれなかった悔しさをぶつけたり、好記録を残してチームへのアピールを行ったりする姿に、いつしか箱根駅伝にまつわるストーリーを放送する番組「もうひとつの箱根駅伝」になぞらえ、「もうひとつの出雲駅伝」と呼ばれるようになった。
この日は5000mのレースが2組。2組目には持ちタイムが速い有力校の選手が並んだ。朝から吹いていた風はさらに強くなり、時おり強烈な突風が吹きつける中でレースはスタートした。
スタートするとすぐ創価大のリーキー・カミナ(1年、チョメ)が先頭に立ち、1000m2分50秒のペースで引っ張った。カミナの後ろには駒澤大から出場した3人、山川拓馬(1年、上伊那農業)、円、伊藤蒼唯(1年、出雲工)がぴったりとついた。周回を重ねるごとに先頭集団から選手がこぼれ落ち、残り7周となったところで集団からカミナと円が抜け出した。円はそのままカミナとの2人旅を続け、残り1周でカミナのスパートにはおいていかれたものの、日本人トップとなる2位でフィニッシュ。タイムは14分04秒61。円の次には14分10秒20で山川が入った。大八木弘明監督からは「監督賞だ!」と声をかけられた。
「日本人トップはやっぱり狙ってたのでうれしいですね。中盤は余裕があったんですけどラストできつくなって離されて、最後のスプリントで対応できなかったのがまだまだ弱いと思います」。走り終わって円は率直に感想を口にした。1人になったらきつくなると考え、カミナが引くということも聞いていたので風よけにしてうまく走れたと話す。
誰よりも走り込んだ夏合宿
円はまだ3大駅伝への出場はないが、新チームになってからは副主将としてチームを引っ張ってきた。夏合宿では主将の山野力(4年、宇部鴻城)とエースの田澤廉(4年、青森山田)が前半に出遅れたが、その分チームの先頭に立ち後輩の手本となってやってきた。13日間あった全体合宿ではポイント練習を全てこなし、さらにロングジョグでの走り込み。その距離は1日平均48kmにものぼった。
大八木監督もその姿を評価。例年、出雲には8人の選手を帯同するが、「9番目の選手」として円を連れてきた。「夏合宿は自分のためにもやりましたが、後輩たちが自分の姿を見てくれればいいなと思っていました。それを評価されてうれしいです」。今回のレース後には藤田敦史コーチからも「夏に走り込んだからその成果が出ているんじゃないか」と声をかけられた。
山野、田澤とお互い高めあって
大八木監督は円について、「真面目でしっかりトレーニングをやる」と評価している。暑さが苦手ということもあり、夏にはなかなか結果が出なかったが、「最後の年ということで本気になって、合宿も暑いときでもしっかりやったから力がついていると思いますよ」。大八木監督の見立てでは、5000mを13分40秒ぐらいで走れる力はあるという。トラックを走らせたいという気持ちもあるが、駅伝シーズンのためまずはそちらが優先となる。練習は駅伝メンバーと一緒にやっており、今後の調子次第では全日本大学駅伝、箱根駅伝とメンバーにからむ可能性は大いにある。
今回の出雲駅伝では3区の田澤のつきそいをしていたという円。「今日チームが優勝してゴールに立ち会えたので、メンバーを外れた悔しさもあったけどチームが優勝してくれたうれしさの方が大きかったです」。みんなが走ってくれたので、自分も頑張ろうという気持ちでこのレースに臨んだと話す。
戦力が充実し、スーパールーキーの佐藤圭汰(1年、洛南)など下級生の勢いもあるチームだが、やはり全体を引っ張っているのは4年生だ。その中でも円、山野、田澤は特に仲がいい。「3人で現地に入ってきて、お互い高めあっていけてるなという雰囲気はあります。2人も頑張ってくれたので、それに続くことが少しはできたと思います」。大八木監督も「いいやつです、あいつは。最後走りたいと思う」と円の4年目にかける思いをしっかりと感じている。
残りは全日本大学駅伝と箱根駅伝。勢いに乗るチームのメンバー争いを勝ち抜き、ラストイヤーに駅伝を走る円の姿を見ることができるだろうか。