アメフト

桜美林大・宮澤稜 国内屈指の速さ誇るWR、全米オールスター経験し芽生えた自覚

試合開始3分で2TDを獲得。圧倒的な決定力がある(すべて撮影・北川直樹)

関東学生TOP8一次リーグ最終節、桜美林大と東京大が対戦した。初戦で中央大相手にアップセットを演じた東大。一昨年のリーグ2位、昨年の3位とTOP8上位勢との対戦が続いたが、チーム体制の変更や、エースQB水越直の留学などの影響で、これまで苦戦を強いられている桜美林。これから上下に分かれる二次リーグへ向けて、勢いをつけたい両校が戦った。(※上位リーグ進出については、早稲田-中央の勝敗の影響も受ける)

開始3分で2TD、2勝目に貢献

ボールを受けると宮澤の本気モードに火がつく

試合は序盤に東大のミスが続き、その隙を桜美林が着実に得点につなげた。WR宮澤稜(4年、埼玉栄)の活躍が光った。第1クオーター(Q)最初のシリーズで、守備が東大を3outに仕留め、蹴られたパントを宮澤が55yd返してリターンタッチダウン(TD)、続くシリーズは、ピッチを受けて11yd走りTDを決めた。いずれもボールを受けると一気に加速、エンドゾーンまで駆け抜けた。開始3分弱で2本のTDを取る速攻で見せ場を作った。

その後は東大の堅守を打破できず、第4Qに近田力(2年、佼成学園)がTEの鍛冶灯識(としき、2年、埼玉栄)にパスを通したTDのみで、計21得点にとどまったが、リーグ戦2勝目を飾った。

2勝目も、ゲーム後は厳しい表情だった

「オフェンスもディフェンスも、アジャストをいろいろして戦えたのでよかったです。あと、改めて『勝つことは大事だな』と感じました。学びがある試合でした」。序盤にTDを連取した宮澤が振り返る。うまくかみ合わず、苦戦が続いた中でつかんだ勝利。もちろん満足とはいかないが、価値のある勝利だった。

TOP8屈指のビッグプレーメーカー

宮澤は、今シーズンのTOP8内で最も決定力のある脚を持つWRの一人だ。今シーズン、桜美林のリターナーに宮澤が入ると、対戦チームのベンチからは「ミヤザワ」の声があちこちから耳に入ってくる。間違いなく全チームからマークされている、屈指のビッグプレーメーカーだ。

9月24日の早稲田戦、第1Q7分に72ydのTDレシーブを決めた。相手ベンチからはよく名前が聞こえてくる

宮澤の存在感は、数字にも表れている。レシーブ記録は5節の段階で8位だが、13回のキャッチで232yd、平均17.8yd獲得は、ほかのWRと比べても優れており、獲得した3TDは最多だ。キックオフリターン記録は13回のリターンで獲得距離最長、パントリターンはリーグで唯一TDを決めている。対戦相手に警戒される中で、存在感は傑出していた。40yd走は手動のストップウォッチ計測でベストが4.34秒。日本国内のWRとしては、社会人を含めてもトップクラスのスピードを持っている。

推薦入学もチャンスもスピードゲット

埼玉栄高校では3年の夏までサッカー部だったが、監督と折り合いがつかず、引退を前に途中退部。「隣で練習をしていたアメフト部がカッコいいな」と思って、拾ってもらう形でアメフト部に電撃入部した。足の速さを買われてWRになり、秋大会に出場。アメフトを始めて半年経たずに桜美林大への推薦入学が決まった。

アメフトはほぼ未経験の宮澤だったが、圧倒的な走力と運動能力で2年目からチャンスをつかむ。秋に関東決勝として対戦した日大戦では、68ydのTDレシーブも決め、トップチームと対戦しても結果を出せるジョーカーとして、存在感を示した。自陣からでも一発で得点に持っていく勝負強さを、これまで何度も見せてきた。本職のWR、キックとパントのリターナーに加え、東大戦ではRBにも入り、まさに獅子奮迅といった風だった。

WRにセットすると、どこにいても一発持っていく脅威が守備を悩ませる

寺田隆将ヘッドコーチに宮澤について聞くと、「宮澤ですか?」といたずらっぽく笑いながらこう話してくれた。

「キャラクターは『陽』ですね。入ってきた時から能力は光ってました。走り方はぐしゃぐしゃですけど、速いので、あれが理にかなってるらしいです。今日はもっとコキ使ってやろうと思っていたんですが(笑)。バテてましたけど、上級生になって自覚も出てきて変わりました。能力が高いので、(1対1で)勝ってくれるっていう信頼はあります」。教え子を可愛がりながら、更なる奮起と活躍に期待している。

自分から発信、チーム引っ張る

1月にフロリダ州オーランドで開催された全米大学オールスター戦、フラボウルにも参加した。ゲームでキャッチの記録はつかなかったが、チーム練習で得た学びは大きかったという。

「体つきが日本と違うというのはありましたが、言語の壁っていうのは一切感じなかったですね。学んだのは、自分から発信していくことの大事さです。日本だと困ってても周りが気にかけてくれて助けてくれますが、アメリカでプレーする場合はそれでは置いていかれるだけ。自分、自分というアピール、向上心が高まりました」

2020年の日大戦。2年生ながら68ydTDなど3回78ydを獲得した

フラボウルを経験して、選手としての自覚も大きく変わった。2年生からレギュラーとして試合に出ている宮澤だが、去年までは自分のプレーについてしか考えていなかった。4年になった今は、WRのユニットリーダーを務めている。チームで勝つには、下級生を教えて成長させていかなければいけないから、QBを含めパスユニットの完成度を上げるために、コミュニケーションを取りながら日々取り組んでいる。

「正直、今日の点差だと、下位リーグに回ってももっと厳しい結果が待っていると感じています。いままで詰めきれなかった部分を、ユニット、チーム全体で突き詰めないといけない」と危機感を口にする。課題をこの2週間でどれだけ潰せるだろうか。

今シーズンはWRのパートリーダーとしてユニットを引っ張る

二次リーグの初戦は日大に決まった。「ボールを持ったら一発持っていけるという自信はあります」。野心を口にする宮澤の爆走が、桜美林に勢いを呼び込む。

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