アメフト

東京大学のWR馬渡健裕、「本気で頑張って」どんなパスでもつかみ取る

東京大学のWR馬渡健裕。豪快な走りでたびたびビッグプレーをみせる(撮影・全て北川直樹)

アメリカンフットボールの関東大学1部TOP8は順位決定戦に入る。東京大学はAブロック3敗で、28日の7位決定戦に回った。相手は昨シーズン甲子園ボウルに出場した日本大学。ともに今季初勝利を懸けた試合の東大のキーマンは、WR(ワイドレシーバー)馬渡健裕(たけひろ、4年、堀川)だ。

連敗の中で光るビッグプレー

馬渡は身長174cm、体重78kgと特別大きくはないが、プレーに気力が漲(みなぎ)っている。WRは人数が多い上に今年は試合が少ないこともあって、印象に残りにくいが、馬渡はしっかりと記憶に刻まれた。まず2節の早稲田戦(10月24日)で、77ydレシーブの独走タッチダウン(TD)を決めた。試合は敗れたが、豪快な走りは一際、存在感を放った。

早大戦では77ydのTDレシーブ。勝負強さが光る

そして3節の桜美林戦(11月14日)、14番がまた魅せた。桜美林が蹴ったパントをキャッチすると、迷いなく加速してエンドゾーンまで61ydを一気に駆け抜けた。タイムアップになってしまったものの、試合終盤に連続でパスをキャッチし、ゴール前まで攻め込んだ。リーグの個人記録でレシーブは5位、パントリターンは2位と、抜群の勝負強さで東大を引っ張っている。

京都出身の馬渡は、立命館大学職員の父・明さん(57)の影響で幼少から関西学生アメフトの試合を見て育った。もちろん、立命大アメフト部パンサーズのファンだった。父はパンサーズの関係者ではないが、同僚に古橋由一郎・立命大監督や米倉輝・エレコム神戸ヘッドコーチ(HC)、橋詰功さん(前日大監督)らがいた。

立命大が「アニマルリッツ」の異名をとり無敵を誇った2000年初頭の試合をよく見ていたため、「レベルが高すぎて自分にできるとは全く考えていませんでしたが、NFLよりも関西学生こそが自分にとってのアメフトです」と話す。そして「僕は(3人の)どなたとも直接話したことはないですが、そういう機会があれば嬉(うれ)しいですね」と笑う。

桜美林大戦では61ydのパントリターンTDを決めた

馬渡が日常生活全てで意識していることがある。それは、「本気で頑張る」ことだ。中学生の頃に隣のクラスが標語に掲げていて、「真に受けて、当たり前だけどカッコいいと思った」。それからは部活でも受験でもこれを実践してきた。同級生の多くが京都大学を志望する中で、「本気で頑張って1番を目指したくて」東大を目標に掲げ、現役で合格した。

もともと東大でもアメフトをするつもりはなく、勧誘されたから体験会にだけ顔を出すつもりだった。しかし、実際に参加するとウォリアーズが本気で日本一を目指している集団であることが伝わってきて、自分の考えにぴったりだと感じた。入学の前年に、日本代表でHCを務めたこともある森清之さんがHCに就任しており、組織の変革期だったことも入部を後押しした。

野球、バレーが捕球につながる

小・中学校では野球でキャッチャーを、高校ではバレーボールに取り組んだ。通っていた堀川高は野球部の人数が少なかったためバレー部に転向し、様々な競技をすることで視野が広がった。「キャッチャーフライやバレーのサーブレシーブは、パントのキャッチに似ています」。それぞれの競技でアメフトに活(い)かせることや、チームプレーの良い部分を抜き出してフル活用していると話す。

経験したことの転用に加え、研究にも熱心だ。日本代表の主将で、ヨーロッパリーグから戻った近江克仁(立命館-IBM)のファンで、映像を見てパスルートの一歩目の付き方や足の角度など、足運びを参考にしている。

アカレンジャーにあこがれて始まった「主将道」 アメフト日本代表主将・近江克仁1

「米国人選手は身体能力が違いすぎるけど、近江さんの動き方や体の使い方は本当に参考になるので、ビデオをストップしたりして繰り返し見ています」

40yd走は4秒9と、馬渡は特別スピードがあるわけではない。ただし、思い切りよく走ることや無駄な動きをなくすこと、自分のプレースピードを最大限で発揮することで、走力を補ってパフォーマンスを上げることができると考えている。

一歩でも前へ、東大オフェンスに勢いを与える

「14」の誇りを背負い

近江が立命館大時代に付けていた背番号14は、ずっとかっこいいと思っていた。ちょうど大学3年に上がる頃、東大の2学年上のQBで14を付けていた伊藤宏一郎(ディアーズ)から番号を受け継いでほしいと言ってもらった。1年間コーチを務めていた伊藤には指導を多く受けて世話になった。東大のエース番号として知らしめたいという思い、躍動したいという気持ちが強く、試合前には「14で暴れてくれ」と連絡をもらったこともある。あこがれと責任の両方が、14番に恥じないプレーをしようという発奮材料になっているという。

立教を退学して東大へ エースQB伊藤宏一郎が迎えたラストイヤー

馬渡は、WRとして絶対にキャッチだけは誰にも負けたくないと話す。足が速くなく、テクニックが特別あるわけでもない。ただし、パスだけは絶対に取ると決めている。

「QBの経験が少なくても、自分に投げられたパスは成功させます。困ったら自分に投げろと言っています。そのためには、自分がしょうもないミスをやっていてはダメだと思ってやってきました」

自身のラッキーカラー黄色いグローブがお気に入りだ

東大は練習が夜なので、朝のミーティング後にグラウンドに出て早い時間の試合対策もしてきた。様々な工夫をしてきた中で、いくつか良いプレーができたことは自信につながっている。
オフェンスのリーダーとして自分が一番頑張る。チームの副将として、仲間に声を掛けて引っ張る。その役割を期待されて幹部になったから、仲間や下級生を伸ばすことにも精一杯心を砕いている。

高校の海外研修でNASA(米航空宇宙局)を見学し、漠然と航空・宇宙科学系の仕事がしたいと思った。東大では工学部に進み、現在は医療系の新薬開発や、DNAの研究をしている。卒業後は大学院への進学を見据えているため、コーチを勧められることはあってもアメフトを続ける予定は今のところ全くの白紙だ。だからこそ、いまは目の前のすべきことに全力を注いでいる。

「今年のチームは4年生が中心なので、4年が頑張る。今年は春の試合も勝っていないので、なんとしても1勝を取りに行きます」。残された日大戦の勝利を、本気で掴(つか)みにいく。

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