アメフト

東京ガスRB森分優人 飛び込み営業には苦戦の1年目、魂のランには手応え

第1Q 7分57秒、先制TDのランを決めた(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの社会人・Xリーグ、X1スーパー(1部上位カテゴリ)ディビジョンBに所属する東京ガスクリエイターズは、B5位で22年シーズンを終えた。米国人の新人QBとして今季加入したリース・フォイ(Amherst College)がけがで戦線離脱するアクシデントもあったが、若手選手がチームを支えて粘り強く戦った。リーグ全体で見ても活躍著しかったのが、RB森分優人(神戸大学)だ。RBとしてほとんどのプレーに入り、魂のこもった走りで仲間を鼓舞、観客を沸かせた。

今シーズンの東京ガスは、リーグ初戦こそ富士通フロンティアーズ相手に49点奪われたが、その後は各試合20点以内に失点を抑えて奮闘。アサヒ飲料とエレコム神戸には2点差で惜敗するなど、持てる戦力を最大限に生かして食らいついた。22年シーズンの最終成績は2勝4敗だった(ディビジョン内で1勝4敗、入れ替え戦出場を決める順位決定戦で1勝)。

攻撃で存在感、でも自己採点は「40点」

中でも活躍ぶりがひときわ光った選手がルーキーの森分だ。最終戦となったオール三菱ラインズ戦(ディビジョンA・B順位決定戦)では、第1クオーターに先制タッチダウン(TD)を決めた。QBからボールを受けると迷いなくスクリメージラインを超え、タックルをかわしながらエンドゾーンに転がり込んだ。180cmとRBとしては身長が高く、全身を使ったダイナミックな動きとスムーズな走りが魅力。この試合で東京ガスが奪ったTDはこの1つで、14回走って69yd獲得、13-7で勝った。接戦で厳しい戦いとなったが、森分は攻撃の中核としてチームを支え存在感を見せた。

Xリーグスーパーでラッシング記録5位。充実のルーキーイヤーも「40点」と厳しい自己評価

「今シーズンは40点くらいですね」。森分は厳しい自己評価を口にした。「RBはボールを持ったら絶対に1対1で負けちゃいけないと思ってるんで。オービック戦なんかはそこで負けちゃって持っていけなかった。アサヒ飲料戦は170ydくらい走れましたが、チームを勝たせられなかった。結果を出せなかったという意味では全然満足できないです」

序盤戦でQBのリース・フォイがけがをして攻撃プランの変更を余儀なくされた。その影響もあり、森分のランが多くコールされ、ひたすらに走った。メンバーやコーチが信頼してくれて主力で起用されたことについては、シンプルにうれしかったと振り返る。

神戸大で1年からエース 試合でも「最初から全開」

応援に駆けつけた父・博紀さんと。「軍人みたいな人です」と笑いながら、アメフトに出会わせてくれて感謝していると話した

小学校3年のとき、父・博紀さん(防衛大、サンスターファイニーズで活躍)の影響で始めたアメフトは、2年の大学受験浪人生活を経て、今年で15年目。これまでなんの違和感もなく生活の中心にあった。「『社会人で続けるかどうか』以前に、やめるってことを考えたことがないですね」と、Xリーグでプレーを続けることに、一切迷いはなかった。

遅れてやってきた走り屋 神戸大RB森分優人

神戸大では1年からエースRBとして走り続け、主将も務めた。関西リーグでは名が知られていて、大学4年の春にいくつかのチームから誘いがかかった。X1スーパーに所属していること、就職で考えていたインフラ関連事業を展開していることに加え、クリエイターズの板井征人ヘッドコーチ(HC)に口説かれたことに心が動いた。

「ほかのチームにもいくつか誘っていただいたんですが、現役の選手が話をしてくれる中で、板井HCが直接話をしに来てくれた。強い熱意を感じました。トップの立場の人がわざわざ動いてくれて、僕のことを欲しいと思ってくれてるんだなって」

そして、「板井さんは京大が日本一になった世代の人なんで、最初はヤバい人なんかなと思ってたんですが。思ったよりクールな人でした」と笑いながら続ける。練習中も声を荒らげたりすることはほとんどないのが意外だったという。

2浪で入った神戸大では1年から活躍。4年では主将として走りでチームをけん引した

板井HCは森分についてこう話す。「普通のRBは徐々にエンジンがかり、ここぞという時にならないと力が出ないとかという選手も多い。しかし森分は試合の最初からスイッチが入り、全開でいける」。そしてこう続ける。「ボールを持ったら何かやってくれるんじゃないかっていう、観客にとってもチームにとってもワクワクさせてくれる選手。ああいうプレーができる選手を増やしていきたい」。ルーキーながらチームを引っ張る存在として、森分の活躍とリーダーシップに大いに期待を寄せている。

ルーキーでも忖度せず「チームを変えていく」

学生のころは週6回練習があったので、対戦する相手ごとにプレーをインストールして備えることができた。しかし社会人は週2回の練習なので、精度がどうしても低くなってしまう。「どうしたらいいのかなって。今年はずっとそれを考えてました」。平日の夜にも練習が1日あるが、決まったメンバー十数人が集まる程度で、複合練習などは満足に行えていないのが現実だ。

クリエイターズについてはこう話す。「正直、よくないチームだな、というのが第一印象です。練習に遅刻してくるのが当たり前で、それに対してチャチャを入れるみたいなのが文化としてあるんで。そういうところから変えていかへんかったら、X1スーパーでも下の方をずっとウロウロしてるままだなって思います。来年からは自分が変えていきたい」。自分の考えをよどみなく言葉にし、新人であっても周囲に忖度(そんたく)しない。強い意志とリーダーの資質がよく表れている。

社会人の壁超えて、夢は日本代表

新社会人として、現在は子会社の東京ガスNext one(ネクストワン)に教育出向している。仕事内容は、一般家庭や飲食店への新規営業など。「飛び込みの営業もやってるんですが、そもそも話を聞いてもらえないこととか、顔見た瞬間に『帰って、帰って』なんて言われてしまうこともあります。そういうときはメンタルが結構エグられますね」。1年目は、仕事面で大いにもまれた。

「RBはボールを持ったら1対1に負けちゃいけない」と気持ちあふれるアツい走りが魅力

アメフトの方も、初戦の富士通戦では全然走れず。「ああ、社会人ってこんなに走れへんのや。ヤバいな」と思った。しかし、第2戦のアサヒ飲料戦ではランやキャッチ、リターンで約200ydを稼ぎ出した。「試合は負けちゃったんですが、結構自分の好きなように走らせてもらったんで、意外と通用する部分もあるかなと。もっと成長できたら、ぜんぜん上は狙っていけるなって印象でした」。このシーズンで確かな手応えもつかむことができたと話す。

アメフトをしている上で、ずっと持っている夢がある。それはRBとして日本のトッププレーヤーになること。「僕はこれまでちゃんとした日本代表に選ばれたことがないので、それに選ばれたいなと思ってずっとやってきました。これからもその目標を追って、実現したいなと思います」。学生時代からのトレードマークであるヘッドバンドでまとめた長髪をなびかせながら、森分はすがすがしい笑顔で話した。

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