陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

東京国際大・丹所健 最後の箱根駅伝は地元の2区を希望「大手町で嬉し泣きしたい」

地元・2区への強い思いを語った丹所(すべて撮影・藤井みさ)

東京国際大の日本人エース・丹所健(4年、湘南工科大付)は前回の箱根駅伝で3区の日本人最高記録を更新し、区間賞を獲得した。今年は出身地である横浜市戸塚区のある2区を走りたいと、かねてより口にしている。丹所が最後の箱根駅伝にかける思いを聞いた。

自分を信じるしかない

丹所は3年時の日本インカレ5000mで3位となり、初の表彰台にのぼった。昨年度の駅伝シーズンも、出雲駅伝では3区区間2位でトップに立ち、チーム初出場初優勝への原動力となった。続く全日本大学駅伝では6区で区間新をマークする区間賞で、ここでもトップに立った。箱根駅伝では3区で1時間0分55秒のタイムをマークし、日本人最高記録を更新。名実ともに学生トップレベルのランナーとなった。

しかし今年は、日本インカレこそ5000mで7位と入賞したものの、出雲駅伝では3区で5位と昨年ほどの爆発的な走りは見られず。全日本大学駅伝でも2区を走ったが区間8位と、丹所の実力からすると物足りない結果となった。少し苦しんでいるのではないですか、とたずねると、夏合宿での練習が変化したことを挙げた。昨年は20km走を速いペースで行っていたが、今年は1カ月に3回30km走が取り入れられるなど、これまでよりも距離を意識した練習となった。

「もともと自分はスピードがないので、出雲や全日本という10km未満で勝負しないといけないレースで切り替えられませんでした」と二つの駅伝の結果について、こう振り返った。一方で箱根駅伝は「夏合宿の成果はしっかり生きてくると思うので、しっかり勝負できると思います」と力強い。

全日本大学駅伝ではスピードが上がり切らない感じがあった

ただ、昨年と比べた今の仕上がり具合について問われると、不安を口にした。12月3日の日体大記録会10000mでは、28分30秒を切るぐらいで走りたいと思っていたが、29分00秒64。自己ベスト(28分01秒24)からは1分近く遅いタイムだった。ある一定のペースでは押せるが、速いペースになった時に切り替えられず、なかなか体が動いてこないのだという。「練習はできているので、なんでなんだろうと焦りがあります。今回は正直、初めての感覚なので……。とりあえず信じるしかないです。去年の練習を参考にしながら、今の状態で真似できるところは真似して、体と相談しながらやっていくしかないです」。下を向いている時間はない、自分を信じるしかないと繰り返す。

「出られればいい」から「上で戦いたい」へ

横浜市戸塚区で生まれ、高校3年まで育った丹所にとって、2区はまさに「地元」だ。特に強く記憶に残っているのは、第93回箱根駅伝、丹所が高校1年の時。東海大学の關(せき)颯人(現・SGホールディングス)、神奈川大学の鈴木健吾(現・富士通)、青山学院大学の一色恭志(現・GMOインターネットグループ)らが集団になって、丹所の目の前を駆け抜けていった。「ただただかっこいいなと思って圧倒されました。その印象が強すぎて、(他の年も見ているのに)それしか記憶になくて。自分もいつか走ってみたいなと思いました」

高校時代の丹所は、決して全国区のランナーではなかった。5000mの自己ベストは14分35秒14、インターハイへの出場もなし。箱根へのあこがれはあったが、「出られればいいや」というぐらいの気持ちだった。しかし東京国際大に入学すると、3学年上に伊藤達彦(現・Honda)がいた。伊藤の高校時代のベストは14分33秒10で、丹所とほぼ同じ。だがコツコツと努力を続け、3年時の学生ハーフマラソンでは3位に入り、ユニバーシアードにも出場。同学年トップの東洋大学・相澤晃(現・旭化成)に食らいつくほどのランナーに成長した。自分も努力すれば達彦さんのようになれるかもしれない。身近に手本となる存在がいたことが、丹所の成長を加速させた。

チームの中心選手として大きく成長した丹所(右から4番目)

1年時に早速、箱根駅伝のメンバーに選ばれた丹所は、1区区間13位。2年目も1区で、区間1位との差は縮めたが区間14位だった。悔しさから「もっと上で戦いたい」との思いが、3年での飛躍につながった。

2区のコースを走ったことはないが、地元ということもありコースのことはわかっているつもりだ。速い展開でも焦らずリラックスして走り、最後の3kmに余力を持って臨めるかがカギになると思っている。ちなみに「伊藤やイェゴン・ヴィンセント(4年、チェビルベルク)ら2区を走った選手からアドバイスを受けましたか?」と聞かれると、「あの坂はきつい、気合いで登るしかない」としか言われなかったと笑う。「今まで苦しかったことを思い出しながら登りたいと思います」

大手町で嬉し泣きして「ブラボー!」を

いよいよ3週間後に迫った、丹所にとって最後の箱根駅伝。「最後だと思うと悲しい」とも口にする。「入学してからずっと、最後は2区を走って終わりたいという思いがありました。2区で結果を出したいという思いは誰よりも強いと思います。小中高と、地元の人たちに支えられてきたので、地元の方たちに何かいい形で感じ取ってもらえる走りができればと思います」。そして4年間成長させてくれた大志田秀次監督、スタッフの方、落ち込んでいる時に助けてくれたチームメートにも感謝を伝えたいと話す。

お世話になった人に恩返しを、そして仲間と嬉し泣きを。4年間のすべてをぶつける

チームの目標は往路優勝、総合3位以内だ。「外から見ていると厳しいだろうと言われるんですが、そんなことないと思います」と自信ものぞかせる。山谷昌也(4年、水城)やヴィンセントら、故障していた主力も戻り、本来のチーム力が戻ってきていると感じる。4年生はみんな、上しか見ていない。「最後は全部ぶつけるだけなので、4年生みんなで笑顔で終わりたいと思います。大手町ではみんなで嬉(うれ)し泣きすることしか想像してないです。インタビューで『ブラボー!』って言いたいですね」

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