アメフト

甲南大QB竹原隆晟 1部残留懸けて甲子園ボウル前日の大一番、攻撃の総合力で勝負

3年の今季スターターに就任した。小2にスタートしたフットボール経験は長い(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生1部は、12月17日に2部との入れ替え戦があり、1部からは甲南大、2部からは大阪公立大が出場する。1部で苦戦がつづいてきた甲南大と、激戦の2部を戦い抽選で入れ替え戦出場を決めた大公大。お互いの意地をぶつけて削りあう、熱い試合が期待される。

不本意なシーズン、悔しさにじませ

2018年以来4年ぶりに1部で戦った甲南大。リーグ序盤の上位校との対戦をはじめ、中盤戦以降も厳しい戦いがつづいた。神戸大には0-14、リーグ最終戦の京大に0-20で敗れて1勝6敗(リーグ戦棄権の同志社大に不戦勝)で入れ替え戦に回った。選手数が40人あまりと薄いなかで、入れ替え戦勝利に向けたカギを握るのが、3年生QBの竹原隆晟(宝塚東)の活躍だ。

守備をかわして自ら走るのが得意

2学年上の山口真輝(大阪学院)が今春卒業し、QBとしてスターターになったのは今年から。今季は竹原にとって初めての1部での戦いとなった。リーグ最終の京大戦では、随所に気合が入ったQBランを見せてチームに勢いをもたらした。結果として得点にはつながらなかったが、これまでの試合よりもいっそう気迫のこもったプレーを見せた。

「自分のランが出たシーンもありましたが、リードされた終盤でLBとDBが下がってるシチュエーションで、ランが出やすい状況だっただけです。自分の能力で出したわけではないので」。竹原は淡々と話す。ここまでを振り返り「正直甲南は、入れ替え戦に出る『1.5部』くらいに見られてきたと思います。京大に勝って、1部のチームというのを見せたかった」。攻撃を任されるQBとして、悔しさをにじませた。

試合後は完封負けの悔しさから唇を噛んだ

「序盤の関学、立命といったチームとの試合は得点できましたが、スペシャルプレーで一発もっていっただけ。終盤の神戸、京大については、そこそこドライブできたけど得点できなかった。決定力が足りないのが大きな課題です」。部員が少ないなかで、力で押さえ込まれるシーンが目立った。点差が開かなかった終盤戦で完封されたことが、何よりも悔しい。

監督は素質に期待、判断力に向上の余地あり

QBとしての課題は自覚している。パス能力の向上だ。2部では空いてるWRに投げてパスを通せたが、1部だと空いてなくてもスキを見つけて通さないといけない。「(WRの)右肩やったら通せるけど、左肩やと通らないというのがある。わかっていたけどその辺が大きな差で、難しいと感じました」。得意なQBスクランブルに加え、もっとパスの精度を上げていきたいと考えている。

パス能力をさらに高めることが課題だ

今年から甲南大を率いる梅谷大輔監督は、竹原について言う。「これまでは突っ込んで行ってバコーンとタックル食らったり心配でしたが、この試合はしっかり落ち着いてスライディングしたりサイドライン出たり、ボールを失わないように冷静にやってくれた。でもまだまだ出来ますね」

素質についても高く評価している。「(竹原は)京大の泉君(岳斗、3年、都立西)に負けないくらいの力を持ってると思ってます。ただ、入れられたプレーをQBとして判断し、無理に投げてTDを狙うのか、自分が走って1stダウンを取りにいくのか、といった判断力がまだまだですね。今日も、無理に投げないで自分で走ればインターセプトされずFGにつなげられたシーンがあった。そうすれば3-10で折り返してゲームの展開が変えられたかもしれない」と話す。

今季から監督に就任した梅谷監督からは大いに期待されている

トレーニングで当たり負けない体をつくり、シチュエーション判断力を磨けば、殻をひとつ破れる。守備から見て怖い選手になってほしいという。

強豪高校選ばず 攻守兼任が貴重な経験に

父・広記さんも、甲南大でWRとして活躍した。小学2年のとき、広記さんに家から近かった上ヶ原ブルーナイツの練習に連れていってもらい、アメフトを始めた。低学年のときはWR、上級生になってからはQBでプレー。立命館大でエースQBとして活躍する庭山大空(立命館宇治)らと同学年で仲が良かった。中学に上がる際に兵庫ストークスに移り、ポジションはRBになった。チームメートには、関学で活躍するトゥロターショーン礼(3年、関西学院)や関西大のエースQB須田啓太(2年、関大一)らがいた。

そんな彼らと今年は同じフィールドで戦えた。竹原は、小学校から切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲間がスター選手として活躍していることと、自分の現在を比べるうんぬんよりも、何より1部で対戦できることがうれしいと話す。庭山と会場で会ったときに「京大はあそこが空きやすい、こういうプレーが出やすい」というような話を聞いた。対戦したあとに、かつての仲間と話せることがうれしい。

走りながらパスを投じる高いバランスも備えている

クラブチームは中学までなので、卒業後にどの高校に行くかを考えた。「強いチームでやる、そうじゃないチームでやる、といろいろ考えました。宝塚東は強くなかったですが、すぐに試合経験が積めそうだなと思い決めました」

部員は3学年あわせて20人前後。大会には単独出場できるが、攻守を兼任する「リャンメン」が必要となる環境だった。「QBだけでなく、DB、パンター、ホルダー、リターナーと全部出てました」。これまで経験してきた様々なポジションが生きて、さらに守備の経験も積んだ。この経験がアメフトを理解することに役立った。

強豪校との「目線の違い」を痛感

思い出に残っているのは、高校2年の春大会の関西学院戦。試合は7-52で負けた。大敗だが、自分たちがやりたいことが全くできなかったわけではなかったという。しかしその価値観が試合後にひっくり返された。

「試合中はずっとやられてて。それで負けてもこっちは『頑張ったな!』という雰囲気やったんです。でも向こうのハドルは違いました。自分らの攻撃がちょっとドライブできたシーンについて、厳しく叱責(しっせき)されていました。ああ、見ているところが違うんやなと」。悔しかった。竹原には勝った試合のことよりも、このときの記憶が鮮烈に残っている。

京大のプレッシャーをかわして冷静にパスを投げた

大学でアメフトを続けることを考えたとき、父と同じ甲南大でやりたいという気持ちが強かった。兵庫県選抜で知り合った中田圭亮(3年、仁川学院)と仲良くなり、「俺も甲南いきたいねん」と話があった。OBの父に相談したりして、無事に甲南大の推薦資格を得ることができた。そして3年目の今年、チームの中心選手であるエースQBとして独り立ちを果たした。

分析スタッフと攻撃を構築

分析スタッフの岸本とはコミュニケーションがとりやすいという

リーグ戦はエースWRのエースの入谷勘太(4年、追手門学院)に頼ることが多かったが、それだけだと守備が守りやすくなる。竹原は「ランも含めて全員を均等に使ってリズムを作っていきたい」と話す。今年はもともとWRをしていたアナライジングスタッフ(AS)の岸本龍夢(4年、滝川)が攻撃のプレーコールを担当しているので、コミュニケーションがとりやすい。先輩後輩という感じがあまりなく、普段から仲が良い。オフェンス全体のことやプレーのことも話しやすいので、その部分も生かしていきたいという。

甲南大を支える戦術分析チーム フィールドと一丸、サイドラインから熱く戦う

「入れ替え戦はどこがきてもチームの総合力で勝負できるようになる。相手がどこだからこうする、ではなく自分たちを強くする。自分のオフェンスにしっかりフォーカスして頑張っていきたいです」

WRとリターナーを兼任するベストアスリートの入谷を生かすためにバランスある攻撃を仕掛けたい

この時点ではまだ決まっていなかったが、12月17日の入れ替え戦は大阪公立大が相手に決まった。大公大は今年、大阪府立大と大阪市立大が合併してできた新チームで、部員数は甲南大のほぼ2倍だ。体力的にはリーグ戦同様厳しい戦いが予想される。

勝負は竹原を中心とした攻撃陣がどれだけ得点できるかにかかっている。1部残留を目指す甲南大の更なる奮起を見たい。

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