陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

青山学院大・原晋監督「仮に同じ気象条件なら」 箱根駅伝で前回の大会記録更新を狙う

前回大会で打ち立てた大会記録の更新を狙う(撮影・井上翔太)

前回の箱根駅伝で10時間43分42秒の大会記録を樹立した青山学院大学。原晋監督は今年度のチームについて「仮に前回と同じ気象条件であるならば、それ(前回大会のタイム)以上の力がついてきている。この12月に入り、非常にいい状態に仕上がってきた」と自信を深めている。12月15日の壮行会では、自らが掲げた「ピース大作戦」になぞらえ「2番にならないように、Vで帰ってきたいと思います」と意気込みを語った。

オンとオフがはっきりしている4年生

今回の特徴は、チームエントリーされた16人中、4年生が9人登録されていることだ。エースの近藤幸太郎(豊川工)やルーキーイヤーで「花の2区」を任されて区間5位の力走を見せた岸本大紀(三条)、9月の日本インカレ10000mで日本人2位に入った中村唯翔(流通経済大柏)といった前回大会から活躍したメンバーだけでなく、箱根駅伝は初エントリーの横田俊吾(学法石川)、目片将大(須磨学園)、西川魁星(市太田)といった多彩な顔ぶれが並ぶ。

入部から誰ひとり脱落せず、4年間を駆け抜けた世代で、原監督は指導する上で自ら大切にしている「自律」の傾向が強いと感じている。「オンとオフがはっきりしています。寮生活では、本当に普通の大学生で、上級生、下級生に関係なく、笑いが絶えない。一方で練習となれば、それぞれが厳しい声を掛け合いながら言い合える4年生じゃないかと感じています」

「Vで帰ってきたいと思います」(撮影・井上翔太)

「自律」は、学生たちが主体となって自分たちに足りないものを見つめ、実行する考え方を指す。原監督は今年度のチームに対して、「べったりと関わる」姿勢から「間を置いて、距離感を空ける」指導スタイルに変更した。2015年の第91回大会から4連覇した後、新チームでの最初のミーティングでは「4連覇したときのメソッドがあるから、その通りにやれば勝てる」という表現で選手たちを指導していたが、5連覇がかかった第95回大会は東海大学に優勝を譲り、2位に。連覇がかかる今回は、当時の状況と重なる部分もある。そこで最初のミーティングでは「大会記録を1分半縮めよう」と伝えた。

練習コースの設定や距離は原監督が決めるものの、ペースの設定は選手たちが決めるようになった。練習を切り上げるタイミングも、基本的には自由。「学生たちが自ら考えて行動する」姿勢こそが、大学スポーツの神髄だと原監督は感じている。

山登り・山下りは選手層の厚みで勝負

今回の箱根駅伝の優勝争いは、駒澤大学が出雲駅伝・全日本大学駅伝に続く「三冠」を達成するのか。それとも青山学院大が前回大会を上回るような総合記録をたたき出し、連覇を果たすのかに注目が集まる。「相手は駒澤大学しかいないと思います。駒澤大学と青山学院大学が、ぐんとハイレベルに抜きんでていると思います」と原監督。その中で最大のライバルに負けないためには、「ブレーキしないこと」を第1に掲げる。

ブレーキしない上で最大のポイントとなるのが、5区の山登りだ。往路12位に沈んだ第97回大会は、練習でもレース当日も完璧な状態だったはずの山登りのスペシャリスト・竹石尚人が、レース中に右ふくらはぎの痙攣(けいれん)を何度も起こし、区間17位。「考えられないようなことが起こる」と原監督は警戒する。

現状、5区は前回も山登りを経験し、区間3位に入った若林宏樹(2年、洛南)、11月25日に行われたMARCH対抗戦の10000mで、自己ベストを2分以上更新する28分33秒62をマークした黒田朝日(1年、玉野光南)、脇田幸太朗(4年、新城東)が候補となる。12月15日の記者会見で、若林と黒田は授業のために欠席した。唯一、出席した脇田は「登りの走りは、夏合宿でこつをつかんだ。小柄(165cm、50kg)で体重も軽いので、そういったところが登りの走りにつながると思っています。もともと下りは得意なので、5区でも6区でも力が出せるんじゃないかと思っています」。下りの6区は若林、脇田、西川らが候補。誰か1人に頼るのではなく、選手層の厚みで登りも下りも挑んでいく。

5区または6区の特殊区間で出走する可能性がある脇田(撮影・井上翔太)

「1分半」をボトムにマネジメント

競技力が上がったことで、箱根駅伝は近年スピード化している。往路は山登りだけでなく、そこにたどり着くまでの1~4区も重要な区間だ。「往路で前に出て、他大学を1分半離せば、もう独走態勢に入っていくのが箱根駅伝の特徴じゃないかなと思います。1分ならまだ(前が)見えるけど、1分半を超えるとなかなか見えないので難しい」と原監督は言う。

前半区間は、特に駒澤大学とどの位置でレースを進められるかが、連覇へのカギとなりそうだ。学生界を代表するランナーの1人で駒澤大のエース田澤廉(4年、青森山田)と近藤の力量について尋ねられると、原監督は「ほぼほぼ変わらない。同格という位置づけです」。1分半を「ボトム」に、それ以上離れると「危険水域」に入ることを頭に入れながら、全10区間をマネジメントすることになる。

11月の全日本大学駅伝7区で力走した近藤(中央、撮影・古沢孝樹)

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