アメフト

富士通がライスボウル2連覇 「誰だあの31番?」高岡拓稔、妄想を現実にした逆転劇

チームメイトからは試合後「MVP! MVP!」の喝采を浴びた(すべて撮影・北川直樹)

第76回ライスボウル

1月3日@東京ドーム
富士通 29-21 パナソニック

アメリカンフットボールの社会人Xリーグの頂点を決めるライスボウルが1月3日にあり、パナソニックインパルスと富士通フロンティアーズが2年連続で対戦。富士通が29-21と逆転でライスボウル2連覇を果たした。パナソニックが先制、リードし富士通を苦しめたが、中盤以降に富士通がしっかりアジャストして流れを手繰り寄せた。攻撃はRBのトラショーン・ニクソン(ニューメキシコ州立大)が3TDラン、守備ではSFの高岡拓稔(早稲田大)が自陣深くで2インターセプト(INT)を決めてピンチを救った。

第4Qだけで2インターセプト1サック

苦しい前半をしのいで富士通が勝った。一時14点差を追う展開。パナソニックのRBミッチェル・ビクタージャモー(バージニアカレッジワイズ校)にいいように走られたが、王者富士通は慌てなかった。第2クオーター(Q)中盤以降、 守備フロントとLBがしっかりとパナソニックのランに対応。要所のパスもしっかりと防いでパントに追い込み、致命的な失点を防いだ。今季パナソニックに加入したジェイロン・ヘンダーソン(ボイシ州立大)は、これまで安定したパフォーマンスでリーグ最優秀新人賞に選ばれたが、この試合では富士通の守備が彼の良い部分を出させなかった。

「ボールが止まって見えた」という1本目のINT。WR渡邊ジャマールの前で奪いとった

22-21と富士通1点リードで迎えた第4Q2分。富士通陣20ydまで攻め込んだパナソニックが、2ndダウン7ydでタッチダウンパスを狙った。パナソニックはランを連続コールしてボールを進め、余裕を持ってパスを投げられるダウンシチュエーションだった。ここで富士通DLの宇田正男(日大)がQBヘンダーソンにプレッシャーをかけ、パスを投げ急がせた。ボールはエンドゾーン内で待ち受けるWR渡邊ジャマール(バージニア大学ワイズ校)の一歩手前で失速し、カバーに付いていた高岡の胸へ。エンドゾーン手前からINTで33yd返すビッグプレーとなり、富士通のピンチを救った。

ブリッツからのQBサック。振りほどかれそうになりながら必死につかみ、離さなかった

高岡は7分にブリッツからQBサックも決めた。残り時間3分から同点を狙いドライブしてきたパナソニックのボールを、エンドゾーン内で再び奪った。日本一の懸かった第4Qに2INT1サックの大活躍。チームのピンチを救い、2連覇に大きく貢献した。

2本目のINT時は「エンドゾーンの中なのか外なのかを確認してダウンしました」。冷静なプレーぶりが光った

病気・交代要員…「遠回りな道も、自分の礎」

スター級の輝きを見せた高岡だが、これまで富士通の主力として試合に出てきたわけではなかった。この試合はスターターの樋田祥一(法政大)がけがで離脱し、彼の交代要員として出場した。「たぶん、誰も僕がこの舞台で活躍するとは思ってなかったと思います。『誰だあの31番?』って。まあ自分では100回妄想していましたが」。ユーモアを交えて振り返る。

ベストCBのアルリワン・アディヤミ(40)にはINT後に「Pitch me!(俺に渡せ)」と言われたが「うるさい黙れと思って自分で走りました(笑)」

現在、早稲田大学アメフト部で監督を務める父・勝さんの影響で、小学2年から富士通のフラッグフットボールチームでアメフトを始めた。父の背中を追って早稲田のアメフトを志し、早大学院へ進学。全国決勝のクリスマスボウルにも3度出場した。早大に進んでからも下級生から試合に出場し、3年でスターターの座を得た。しかし翌年オフシーズンに肺気胸を患い、治療のため一時チームを離れた。4年になって経験とリーダーシップが評価され守備リーダーを務めたが、秋には同期の渡辺大地(早実)にSFのスタメンを奪われる苦しさも経験した。決してエリート街道をひた走ってきたわけではなく、幾度もの挫折を通ってきた。

これまでを振り返り高岡がいう。「どんな遠回りな道を歩いても、過去の自分は今の自分の礎だと思っています。辛かったりバカにされても、ありがたいことに自分に期待してくれている人もいて、自らもそれに応えるべく前に進んできました。この試合は運良くチャンスをつかめたと思います」

この言葉に高岡のひたむきな人間性が詰まっている。真摯(しんし)にアメフトに向き合ってきた彼の取り組みを、神様はしっかりと見ていたのだろう。

ライスボウルは急きょ出場となったが、ゲーム中はとにかく「練習通り」のプレーを意識した

大学3年以来の「主役」 周囲への感謝忘れず

社会人になってからも、同期が活躍する中、歯がゆい思いをしてきた。ライスボウルも途中出場だったが、大学3年以来にメインで入った試合になった。しかし第1Q途中に入って直後のプレーで、ビクタージャモーにいきなり73ydを走り切られて、交代に。「逆サイドから追いかけたんですが、自分は走るのが遅いなと痛感しました。それと、『1プレーかい!』と思いましたが、チャンスはまた回ってくると思って準備していました」

守備コーディネーターの延原典和コーチから祝福されたが「興奮しすぎて何を言われたか覚えてないです(笑)」

再び樋田がアウトとなってその後は通して出場。試合経験は多くないが、コーチ陣が相手のプレーを的確に読んで指示を出してくれたから、攻め込まれても浮足立たなかった。ベテランの先輩である樋田がどんなシリーズでもずっと声を掛け続けてくれて、心の支えになった。INTやサックをしても舞い上がらず、常に目の前に集中できた。

目標は「日本を代表するDB」

社会人3年目の最終戦。ライスボウルが行われた東京ドームが、高岡の晴れ舞台となった。大事にしていることは、どんなことも常に練習通りやること。「フィルムスタディーなど自分ができるベストの準備はずっとしてきました。地道な積み重ねが結果につながったかなと。まだまだ控えの選手でベストとは程遠いですが、今日だけは報われたかな」

QBサックをDBの井本健一朗(慶應)に祝福されハイタッチ

最後の最後で少し結果を出したが、全く満足はしていない。「とにかく日々のトレーニングを積み重ねて体を大きくして、1年間を通しチームを支えられる選手になりたい」。高岡の目標である「日本を代表するDB」への挑戦は、まだまだ序章だ。

in Additionあわせて読みたい