陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

創価大学・嶋津雄大 在籍5年目、最後の箱根駅伝 3回目の4区は「どれも違った」

嶋津はこの1年間、自分が残った意味を問い続けてきた(撮影・井上翔太)

第96回箱根駅伝は10区、第98回大会は4区で計2度の区間賞を経験している創価大学の嶋津雄大(4年、若葉総合)が、自身最後の箱根路に臨んだ。任されたのは直近2大会とも任されている慣れ親しんだ4区。右ふくらはぎの痛みと戦いながらの走りを余儀なくされ、1時間2分20秒の区間8位と本来の実力を100%発揮しきれなかったが、レース後は「普通だったら走れない箱根駅伝でもあったので、かける思いも人一倍でした」と晴れやかな表情を見せた。

足首をひねってしまった昨年12月

嶋津は3年のときに半年間休学し、卒業が1年延びたため、5年目の大学生活を送っている。前述の「普通だったら走れない」というのは、このことを指し「集大成になるので、これまでで一番の思いで臨んだ」と強い決意を抱いていた。

だが、昨年12月10日から1週間行われた合宿で、アクシデントが起きた。練習中に足首をひねり、検査したところ「舟状骨が少しはがれかけていたところがあった」。その後、1週間は練習を控えめにして、残りの2週間足らずで体とコンディションを作り上げた。「本当にぎりぎりの戦いでした。『嶋津、箱根どうなる』という状況から始まって、ここ2週間で箱根駅伝に合わせるという状態だったので」。チームメートから言われた「嶋津さんが走ることで安心できるし、嶋津さんしかいない」という言葉も支えに、自身3度目となる4区のスタートを切った。

3区の山森(右)から襷を受け嶋津にとって最後の4区が始まった(代表撮影)

3区の山森龍暁(3年、鯖江)から6位で襷(たすき)を受け、平塚中継所をトップで通過した中央大学との差は2分14秒。後ろからは30秒差で2区と3区の区間記録を持つ東京国際大学の最強留学生、イェゴン・ヴィンセント(4年、チェビルベルク)が追いかけてくる展開となった。嶋津の状態を知る榎木和貴監督から「最低限走ってほしい」と設定されたタイムは、1時間2分だった。

観戦自粛だった過去2度の4区

最初の5km地点でヴィンセントに追いつかれ、前を行かれたが、嶋津はちらっとその姿を見ただけで、自らのペースを刻んだ。酒匂橋付近で残り5kmになったところで、右のふくらはぎに痛みが出てきた。「最後は足がつり始めて、最後まで走りきれるだろうかというところでした」。救ってくれたのは、後ろの集団から抜け出して追いついてきた早稲田大学の佐藤航希(3年、宮崎日大)の存在だった。嶋津は佐藤のことをスタートしてから早々にかわしたものの、残り3km付近で抜き返された。引き離されまいと懸命に足を運んだ。

加えて、沿道で観戦と応援に詰めかけた人たちにも支えられた。前回、前々回で4区を走ったときは、新型コロナウイルスの影響で、沿道での観戦と応援の自粛が求められていた。一方で今回は、マスクの着用や周囲との距離の確保、大学名の入った横断幕の掲示などは控えるように求められたが、観戦すること自体は認められ、緩和された。嶋津も過去の4区と違うことを感じていた。「今年は過去2回の4区と比べても、沿道の応援が一番多かったです。初めての箱根駅伝(コロナ禍前、第96回大会の10区)でもあったような沿道の応援を最後に感じることができた。社会の変化とともに箱根を感じられたことはうれしかったです。3回の4区でしたが、どれも違う4区でした」。区間8位、チーム7位で5区の野沢悠真(1年、利府)に託した。

第96回大会10区で区間新記録(当時)を打ち立てた(撮影・越田省吾)

新たな一歩をつかみ取った1年

榎木監督から「最低限」と設定されたタイムからは20秒遅れる1時間2分20秒だった。「この状況で、向かい風も感じるようなレースコンディションだったので、よくここまで走れたなと思います。でも12月初めのような走りができたら、自分ならもっと前にいけたかな」。手応えと悔しさ、どちらも得た最後の箱根路だった。

嶋津は生まれつき、暗い場所での見え方が悪くなったり、視野が狭くなったりする難病「網膜色素変性症」を抱えている。合宿中に足をひねったのも、気が抜けていたのではなく、下の視野が狭まっている感覚があったことが影響していると自覚する。「こういうけがは今後も増えていくんじゃないかと、怖くなるところはあります。こういうところとも付き合っていかないといけない。そう思わされる箱根をめざす期間だったなと。今後もより気をつけて競技をしていけたらと思います」

この1年間、嶋津は「自分が残った意味」を突き詰めて考えてきた。振り返れば、昨年6月の全日本大学駅伝の関東地区選考会で好走し、本戦への初出場に貢献。昨年4月の学生個人選手権10000mは、箱根駅伝7区区間賞の葛西潤(4年、関西創価)とワンツーフィニッシュを決め、充実したシーズンとなった。「箱根で言うと、自分の求める結果には届かなかったですけど、個人としてもチームとしても新たな一歩をつかみ取ることができた1年でした。ここを最後にすることなく、またさらに自分の競技生活を歩み続けたい」

嶋津とともに今季のチームを引っ張ってきた葛西(撮影・北川直樹)

卒業後は、GMOインターネットグループに進むことが内定し、競技を続ける。「さらにレベルの高い戦いが待っていますけど、そこに向けたいい経験になりました。また心機一転、頑張ります」と嶋津。本来同学年だった選手たちは、すでに実業団でのキャリアをスタートさせている。1年間大学に残ったことが、どう作用するか。嶋津にしか描けない競技人生を楽しみに見たい。

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