陸上・駅伝

特集:New Leaders2023

東洋大・佐藤真優 主将としてチームを引き上げ、優勝争いをできる力をつけるために

年始の箱根駅伝では7区を走ったが、悔しさの残る結果になってしまった(代表撮影)

箱根駅伝総合優勝4回を誇る東洋大学だが、2014年の第90回大会以来優勝からは遠ざかっている。年始の箱根駅伝では一時最下位を走る場面もあったが、盛り返して10位と18年連続でシード権を獲得。3月下旬に陸上部の新主将が佐藤真優(まひろ、4年、東洋大牛久)になると発表された。佐藤に主将としての意気込みと、チームの現状について聞いた。

全員で話し合い、チームを立て直す

東洋大は箱根駅伝で10位となり、22年度の4年生が引退したあと、1月から3月まではチームの立て直し期間と位置づけて学生スタッフを置かずにいた。立て直し期間には全学年を対象としたミーティングを繰り返した。そこで出てきた課題が、競技の向き合い方がばらばらになってしまったり、自主的に動ける選手が少なかったりといったことだった。「競技面でも生活面でもそうなのですが、わがままな部分が出てきてしまっていたと思います。チームマネジメント全般を見直す期間でした」と佐藤は話す。

また、どうしても下級生に仕事の負担が集中してしまっていたため、積極的に下級生から意見を聞けるような場作りにも注力した。その結果、昨年以上に学年の壁を感じさせないコミュニケーションが増えてきたという。「上級生がどういうスタンスを取るかによって、下級生の過ごしやすさ、話しやすさも変わってくると思うので。下級生から話しやすいように、こちらからもっと積極的になって話していくようにもしました」

学年主任を務めていてチームのまとめ役を担っていたが、主将という責任の重さをあらためて感じる(写真提供・東洋大学)

佐藤が酒井俊幸監督から主将に指名されたのは、3月中旬だ。それまでも学年主任としてチームを取りまとめる役目をしていたため、「そのままの流れでいくなら自分かな」という予感はあったという。実際に指名を受けると、「伝統あるチームの主将を任された」という事実をあらためて感じ、責任を持ってしっかりやらなければならない、と気が引き締まった。

「優勝を目指したいなら東洋大に」

千葉県我孫子市出身の佐藤は、小学校から中学の途中まではサッカーをしていた。サッカーのための体力づくりとして学校の部活で陸上部にも入っており、中学ではクラブチームでサッカーをしつつも、学校の陸上部で走り、2年、3年と全中陸上にも出場した。「楽しい」と思える割合が少しずつ陸上に傾き、中学3年からは陸上部一本に絞り、本格的に働き始めた。

千葉県北西部の東葛地域では、多くの中学校が参加する東葛駅伝が毎年開催されており、「みんなで走る」という駅伝の楽しさを感じていた。東洋大で昨年度主将を務めた前田義弘(現・黒崎播磨)とは家も近く、小学校の時から知っていて中学も同じ、駅伝にもともに出場した仲。前田が都大路(全国高校駅伝)出場を目指して創部まもない東洋大牛久高校に進んだのを見て、佐藤も同じ学校を選んだ。いずれ箱根駅伝を走ってみたい、という思いも抱いていた。

走るのが好きで続けていた陸上だったが、高1の秋に故障をしてしまい、大学でも続けるかどうか迷っていたという。2年生の秋冬シーズンからようやく走れるようになり、3年時は安定して5000m14分30秒台で走れるようになってきた。「これだったら箱根にチャレンジできるなと思って、競技を続けることに決めました」。高校では個人では全国大会への出場はなかったが、3年時に学校として都大路に初出場し、各校のエースが集まる1区を走った。

東洋大に進んだのは、施設や食事面が充実していることはもちろんだが、決め手となったのは酒井監督から「優勝を目指したいなら東洋に来たほうがいい」と言葉をもらったことだ。やるからには優勝を目指したい。その思いを持って東洋大への入学を決めた。

これまでの悔しさをラストイヤーに晴らしたい

実際に入学すると、チームには西山和弥(現・トヨタ自動車)や宮下隼人(現・コニカミノルタ)がおり、身近で日本トップレベルの走りを見ることができた。「練習の質の高さはもちろんですが、本番でしっかり力を出せる気持ちの強さもすごいと思いました。先輩方には本当に『東洋らしい走り』を見せていただき、『これが東洋なのか!』とあらためて思いました」。1年のときは西山と同部屋になり、トップレベルの選手の生活面についても目の前のお手本から学ぶことができた。

ここまで、佐藤は全日本大学駅伝は2回走り、1年時は3区区間9位、2年時は1区区間12位。箱根駅伝は2年時に3区区間8位、3年時に7区区間15位という成績だ。自らの走りを振り返ってみて、「駅伝のメンバーには選ばれて走ってはいますが、区間順位がよくないと思います。特に昨年度は足を引っ張ってしまいました」と辛口だ。

長い距離、粘りの走りが持ち味と話す佐藤。本番でもさらに強さを発揮したい。写真は昨年3月の学生ハーフ(279番が佐藤、撮影・藤井みさ)

「1年時の全日本大学駅伝ではエース区間の3区を走ったので、区間順位が悪くても悲観はしていませんでしたが、2年生以降はフィジカル面の強さが不足していて、後半崩れてしまうことが多かったです」。自らの持ち味は粘り強さ、距離に対してつらいところで踏ん張れるところだと思っているが、それが試合になると出しきれずにいる。特に今年の箱根は同学年の選手にけがや体調不良などが相次ぎ、学年で唯一選ばれて走るからには、いい結果を出したいと思っていた。だからこその悔しさがある。

箱根のあとは故障もあり、3月半ばまでポイント練習ができていなかったという佐藤。回復途上だが、状態を少しでも上げ、関東インカレのメンバーに食い込みたいとも考えている。昨年東洋大はハーフマラソン、10000mで3人が入賞。他の長距離種目でも入賞者を出して存在感を見せつけた。「できればそういう状態までチームを持っていきたいですね」。もしメンバーに選んでもらえるのなら、10000mやハーフなど長い距離を走りたいと話す。そして駅伝シーズンでは3大駅伝での区間賞獲得を目指す。

1分1秒を大切に、もっと高みへ

大森龍之介、宮下隼人、前田義弘という3人の主将を見てきて、彼らに共通して言えるのは「チームを引き上げる力があった」ということだ。走り以外の場所でも積極的に取り組み、チームのみんなをモチベートする存在となっていた。「自分もチームを引っ張っていく上で、走りの結果もそうですけど、日々の取り組みが模範になれるといいなと思います」

酒井監督からはキーワードとして「もっと体力を強化しよう、本番力を強化しよう、信じぬく力を強化しよう、ハートを強くしよう」という言葉を与えられた。選手の自主性を求め、佐藤も他の選手と協力しあい、しっかりチーム運営をしていってほしいと言葉をもらったという。そして、駅伝シーズンを戦えるようになるために、夏までにチームをしっかり上げていかないといけない、そこがタイムリミットだと伝えられている。

昨年の関東インカレでは佐藤を含む3人が10000mで入賞。チームの勢いを見せつけた(35番が佐藤、撮影・藤井みさ)

これまでは「主体性」というと内面や生活面にフォーカスすることが多かったが、競技面でも互いを高めあえるチームになることが求められる。「優勝を目指すレベルに、夏までに引き上げたいです。夏合宿でしっかり練習を積めるようにするために、各自の当たり前の部分を高めていかないといけないと思います」と口にする。

佐藤から見て期待している選手をたずねると、小林亮太(3年、豊川)の名前が挙がった。「スピードを持っている選手で、これからしっかり体ができてくればかなり走れるんじゃないかなと思います。練習も強いしガッツもあるので、チームの中心になってくれると期待しています」。他にも、入学したばかりの1年生が各自意識高く積極的に練習に取り組んでくれており、チーム全体にいい影響を与えてくれている。

「本来は優勝争いをすべきチームだと、チームの誰もが思っています。優勝争いをできる、『強い東洋』に戻すことが最大の責任だと思っています」。タイムリミットと言われた夏は、刻一刻と迫っている。「この1分1秒を大切にしていきたいです」

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