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特集:うちの大学、ここに注目 2023

慶應義塾大・森本修平 シーズン目標「追究」を胸に、早慶レガッタ「対校エイト」制覇

歓喜に包まれた対校エイトクルー(すべて撮影・慶應スポーツ新聞会)

第92回早慶レガッタ

4月16日@東京・隅田川
第二エイト 慶應義塾大学(2年連続)
対校エイト 慶應義塾大学(2年ぶり)

4月16日、東京・隅田川で「第92回早慶レガッタ」が開催され、メインの対校エイト(3750m)では慶應義塾大学が早稲田大学に4艇身差をつけ、2年ぶりに勝利した。クルーキャップ(クルーのリーダー)を務めた主将の森本修平(4年、慶應)がレース後に語ったのは、ともに戦った仲間への感謝の気持ちだった。

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「こぎにくいゾーンで勝負を決める」プラン

野球、ラグビーと並んで三大早慶戦に数えられ、世界三大レガッタの一つでもある早慶レガッタ。午前中は初夏の陽気を感じさせる強い日差しが隅田川を照りつけたが、午後に急変し、強い雨が降り始めた。午後2時50分発艇予定だった花形種目の対校エイトは、予定より約30分遅いスタートに。一時はクルーも1度岸に上がり、中止という2文字が頭をよぎる中でも、森本は「クルー全員が気持ちを切らさずにレースに向かえて、気持ちを切り替えて臨むことができた」と、集中力を切らすことなくレースに備えた。

慶應義塾大は墨田区(東)側のスタート。インコースをこぐため、早大より後ろからの発艇だった。スタート後、両国橋付近では約1秒差の接戦を繰り広げていたが、差を付けたのは「勝負の区間」と位置付けていた蔵前橋から吾妻橋にかけて。「こぎにくいゾーンが多いのですが、こぎやすいゾーンまで待つのではなく、そのこぎにくいゾーンで勝負を決めることを意識していました」。森本が記者会見で明かしたプラン通りのレースを展開することができた。

荒波の隅田川をこぎきった

総武線鉄橋付近で2艇身差のリードを奪うと、駒形橋を過ぎたあたりから早稲田大に4艇身差を付け、應援(おうえん)指導部や観客が待つ桜橋へ。そのままリードを保ってゴールし、隅田川に歓喜の「若き血」が鳴り響いた。昨年はわずか50cmだけ届かずに敗れたが、今年は見事に雪辱を果たした。

カヌー部門の選手も驚くほどの追い込み

昨年の惜敗は、何が足りなかったのか。リベンジのために今年のチームが立てたシーズンの目標は「追究」だ。「部員一人ひとりが細部までこだわり、『追究』することで、他大学との差を埋め、そして差を付けていく」。「及」ではなく「究」という字を選んだのは、常に考えながら取り組む姿勢を大切にするためだという。

森本は昨年、対校エイトに出場できなかった。「もちろん第二エイトで勝つこともうれしいのですが、対校エイトで勝つかどうかが早慶戦に勝ったか負けたかの直接的な勝敗に関わってくる」。メインレースに出場できず、悔しい思いをした森本は今季の主将に就任し、慕っていた先輩たちのリベンジを誓うと、今年の春休み、自身も対校エイトのクルーに選出された。

左拳を突き上げる主将の森本

3年生6人と下級生中心のクルーで、一からのスタートだった。野村瑛斗(4年、カナダ・Claremont Secondary School)、中村想人(4年、慶應)と昨年も対校エイトを経験したメンバーもいたが、クルーキャップを務めたのは対校エイト初出場の森本だった。「とにかく自分がこぐ姿と練習に臨む姿勢で、みんなを引っ張っていこう」と意気込む森本に、同期2人や後輩たちも感化されただろう。2カ月ほどかけて徐々に強いクルーを作り上げた。同じ戸田の合宿所で生活しているカヌー部門の選手も驚くほどの厳しい追い込み練習にも、「妥協せずに最後までやり切るということを意識し、勝利に向かって本当に強い意志を持って」励むことができたという。

仲間に感謝「ついてきてくれてありがとう」

迎えた当日、第二エイトが勝利した流れの中で始まろうとしていた対校エイトだったが、雷雨の影響で一時中断に。しかし、クルーたちには「気持ちを切らすな」と伝え、さらに第二エイトやサポートメンバーが準備を手伝ってくれたこともあり、いい精神状態を保っていた。そして憧れの先輩たちを超え、歴史に名を刻んだ。

「仲間を信じて良かった」。森本は優勝直後、こう語った。ボート競技は「究極のチームスポーツ」と呼ばれ、1人でもこぐリズムが乱れてしまえば最悪の場合、川に沈む。特にこの日は、直前までの雨の影響でコンディションは最悪だった。本番の2週間前には、体調不良者が出るトラブルもあった。それでも通常のレースの倍の距離をこぎ切って、荒波の隅田川を制することができたのは、つらい練習をともに乗り越えてきた仲間がいたからだ。

ゴールの瞬間、喜びを分かち合った

その仲間に掛けたい言葉は「本当についてきてくれてありがとう、レース中も最後まで気持ちを切らさず、強い意志で一緒にこいでくれてありがとう」。森本と部員たちは、すでに先を見据えている。5月には海の森水上競技場で行われる全日本選手権があり、9月には優勝を目指す全日本大学選手権(インカレ)が控えている。日本一に向かって「もう一度気持ちを切り替えて」と力強く話す森本。その姿からは自信と頼もしさが感じられた。

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