アメフト

エレコム神戸・内田大喜 大教大で出会ったアメフト、持ち前の向上心で大きく飛躍

内田は社会人3年目にさらなる飛躍を期す(奥、撮影・篠原大輔)

外国人QBが投じた矢のようなパスの先に、背番号7がいる。そこはアメフトを始めたころからすれば、夢のような舞台だ。社会人Xリーグの最上位カテゴリー、X1 SUPERに所属するエレコム神戸ファイニーズのWR内田大喜(ひろき、24、大阪教育大)は昨秋、リーグ戦5試合で25回パスをキャッチし、三つのTDを決めた。キャッチ回数ではリーグ2位、獲得距離の284ydは同6位。一気にその名を知られる存在となった。

0-20で終わった高校野球

5月7日の関西学院大学戦。エレコム神戸は事前の申し合わせ通り、外国人選手抜きで戦った。雨の中、序盤から内田へパスが飛ぶ。左サイドライン際へのパスに対して体を投げ出すようにして捕ったが、惜しくもアウトオブバウンズ。この日は1キャッチにとどまったが、内田にとってフットボールを始めて7度目の春シーズンが始まった。「秋のシーズンで去年のベースに上乗せするような活躍がしたい。とくにパナソニックとの試合で活躍したいです」。関西では敵なしのライバルの名を挙げた。

エレコムでの2年目に、大きく成長した内田(撮影・篠原大輔)

身長175cm、体重79kg。特別に足が速いわけでもない。WRとしてのルートどりのうまさと確実なキャッチ、そして強い向上心が内田を支える。

大阪府堺市で生まれ育った。府立泉陽高校までは野球に取り組んだ。2年のときはショートでレギュラー、3年になるとキャッチャーでキャプテンを務めた。最後の夏は初戦の2回戦で強豪の大商大高と対戦。0-20で5回コールド負け。チーム全体で3安打の中、4番の内田は2打数2安打と気を吐いた。

常にレベルの高い相手を想定して練習

翌2017年の春、国立の大阪教育大学に進んだ。教育協働学科でスポーツ科学を専攻した。親からは野球を続けることを勧められたが、「アメフトに入ったら自分が輝けるんじゃないか、という勘が働いたんです」と、反対を押し切って入部した。1部にいたこともある大教大ドラゴンズだが、内田のいた4年間は3部と2部で戦った。

3年生になった2019年の秋、大教大は2部で3勝4敗の5位だったが、負けた4試合も10点差以内。1試合平均26.9得点のオフェンスが光ったシーズンだった。とくにQB松尾良知(当時4年、大阪・池田)から内田へのパスがさえた。内田は「松尾さんのおかげもあって、自分がアメフトに向いてると確信したシーズンでした」と振り返る。レシーバーとしての能力を引き出してくれた松尾はアサヒ飲料チャレンジャーズでプレーしたあと、オリンピック出場を目指してフラッグフットボールに取り組んでいる。

強い向上心が内田の歩みを支える(撮影・篠原大輔)

やれる。モチベーションが上がった内田は練習でチームのDBに勝っても満足しなくなった。常にレベルの高い相手を想定して練習に臨んだ。そのうち「日本を代表するレシーバーになりたい」という思いが湧いてきた。日本代表のトライアウトに参加すると、2部の大学から参加したのは内田だけだった。不合格だったが、レベルの高い選手たちと同じ時間を過ごすのは何よりの刺激になった。

就活では企業チームのパナソニックでフットボールを続けたくてトライアウトを受けた。順調に進んでいったが、最後の面接に「よし、もう大丈夫や」と思って臨んだら、落ちてしまった。前述のコメントで「とくにパナソニックとの試合で活躍したい」とあるのは、このためだ。

日本代表への距離が縮まってきた実感がある。「あとちょっと」(撮影・篠原大輔)

「チームにいてほしい人材」

大教大4年生のときは主将としてドラゴンズを引っ張った。秋は新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグ戦ではなくトーナメントとなり、大教大は2部の1回戦で龍谷大学と対戦し、0-27で敗れた。

パナソニックはダメだったがX1 SUPERでプレーしたくて、クラブチームのエレコム神戸に入った。2年目の昨シーズンは「必ず日本を代表するレシーバーになる。そこを目指せばチームを勝たせる存在になれる」と考え、トレーニングにも力を入れた。スピードもパワーも身につけた内田に、QBディビッド・ピンデルからの鋭いパスがどんどん飛んだ。ライスボウルトーナメントの準決勝まで進み、チームとして29年ぶりに東京ドームで試合もできた。

今年1月にあった国際試合「ドリームボウル」のために結成する日本選抜チームの第1次候補選手に選ばれ、最終メンバーを選ぶ合宿に参加したが、体調を崩したこともあって落選した。ただ日本選抜でWRコーチを務めた板井征人さん(東京ガスヘッドコーチ)の内田に対する評価はすこぶる高い。「とてもコーチャブルな選手です。選手としての記憶力、理解力、アジャストする力も非常に高い。それに勝負強さもある。人間的にも人当たりがよくて向上心が高く、チームにいてほしい人材だと感じました」

今年1月の日本選抜候補の合宿で板井コーチ(右)と語り合う内田(撮影・北川直樹)

後輩たちにも続いてほしい

内田にはいつも心に置いていることがある。自分がX1 SUPERという国内最高峰の舞台で活躍することで、フットボールの名門校以外で頑張っている選手たちのやる気に火を付けたい。「たまに大教大の練習に行くと、うまい子はいるんです。たぶん全国どこでも同じで、上のレベルでもやっていける可能性のある選手はチームに何人かいる。問題はその先で、『爆発するかどうか』です。そういう選手にはチーム内の競争で勝つことに満足するんじゃなくて、常に上を意識して練習してほしい。『相手が1部の選手やったら通用するんかな?』『相手がアメリカ人やったらボロボロにやられるで』って考えて本気でやっていったら、爆発的に伸びる子が出てくる。下のリーグからでもSUPERで通用する選手が出てくると思います」

大教大でアメフトを始めるときに反対した親は、いまや一番の応援団だ。「この競技をやれば自分は輝ける」。そう信じて飛び込んだアメフトの世界。ここまで来たのもすごいが、向上心の塊のような内田なら、まだまだ輝けそうだ。

もっともっと輝ける日まで、走り続ける(撮影・北川直樹)

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