ラグビー

連載:ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

ラの字も出さない新歓って? 先輩の回り道に応えたい 東京都立大学ラグビー部物語2

バーベキュー大会の準備に励む部員たち。なんと新入生150人が集まることになる(提供・東京都立大学ラグビー部)

人気の部活なら、名門の部活なら、1ミリも心配したことなんてないだろう。どうすれば新入部員に集まってもらえるのか、果たして新歓は成功するのかどうか……なんて。

ただ、いまどき、そんな左うちわの部活、ほんのひと握り。

新歓。2023年の東京都立大学ラグビー部にとって、それは公式戦と同様に、いや、考え方次第でそれ以上に重要なミッションだった。

コロナ禍が招いた部員不足は深刻だった。オンライン新歓には限界がある。いまの4年生が1年生だった2020年の新入部員は選手2人、3年生が入部した2021年は3人。

このままじゃ、そう遠くないうちに試合を組めなくなる。先輩たちが築いてくれた部の歴史が、途絶えてしまう。

苦境打開へ。工夫と葛藤の新歓が始まったのは、昨年の春だった。

【前回記事はこちら】常識外れの船出、初心者過半数チームが3K超え見る夢 東京都立大学ラグビー部物語1

「来年はヤバい!」先輩たちの決断

1年前の時点で、このままじゃ今年のチームが立ちゆかなくなるってことは目に見えていた。当時の4年生は選手10人、都立大にすれば大所帯だ。それが、ごっそり抜けてしまうのだ。

組織マネジメントに精通するプロコーチ藤森啓介(37)のもと、勝敗を超えた部活の価値を探し求め、何よりチームビルディングを重視してきたチーム。自分のことより、誰かのために。自分のことより、チームのために。そんな意識は浸透している。自分たちが卒業した後のことを、当時の4年生は心配してくれた。

このままじゃ、来年、ヤバくない?

2022年の4年生だったキャプテン青木紳悟(左上)、マネージャーの大沢こころ(右上)、小野綾芽(左下)、垰下(たおした)綺莉(右下)。後輩思いの代だった(撮影・中川文如)

競技経験者にターゲットを絞るのが新歓の王道。でも、このままじゃ、2023年はヤバい。そもそも少子化にコロナ禍が追い打ちをかけて、ラグビー人口は減っている。初心者まで幅広く声をかけて、一人でも多くかき集めなきゃ、先行きは暗い。

3年ぶりにリアルが解禁された2022年の新歓。当時の4年生たちは、体育会系な男子にひたすら声をかけ続けるクラシックなアプローチをガラッと変えた。

ラグビーの「ラ」の字も出さず…

チームビルディングで培ったコミュ力が生きる。相手の立場になって、新入生の立場になって、考えてみる。いきなりラグビーの話なんてしても、敬遠されるだけ。大学という新しい環境に飛び込んで、最初に降りかかってくる心配事は何か。

友達、できるかな? 勉強、大丈夫かな? 多分、そういう不安なんじゃないか。そういう不安を解消できる新歓なら、みんな、きっと集まってくれるんじゃないか。ちょっと大げさに表現するなら、ラグビーの「ラ」の字も出さない新歓だ。それこそ、若葉マークの新入生のため、そして崖っぷちの僕らのため、必要なんじゃないか。

そんな風に、想像した。

新入生のLINEグループつくったから、入ろうよ。授業の履修相談、乗ってあげるよ。そんな風にアプローチを変えた。練習体験も、いきなりガチでやっても逃げられるだけ。レクリエーション中心のユルく楽しいメニューで誰でも受け入れた。「勝つために、もっと厳しくやらなきゃ!」。そう主張した主力選手も、最後は部の存続のため、グッとこらえて回り道に納得してくれた。

葛藤を乗り越えて、「強化より人集めに全振りした」(当時のマネージャーたち)という新歓。初心者ゲットを果たして歴史をつないだ。秋の関東大学リーグ戦では、過去最高の3部3位まで上り詰めた。

「漢字5文字のイベントなんて」

バトンを託された今年の学生たちも、そんな「全振り新歓」に全振りした。

新4年生中心に話し合った結果、イニシアチブは2年生が握った。当たり前だけど、3、4年生よりも長く新入生と過ごすことになる2年生だから。自覚を促す意味もあった。結成された「新歓班」7人のうち、4人は2年生。その中から「新歓リーダー」に指名されたのは、岡元隆太(2年、小山台)だった。

「1年前を振り返った時、『友達できるよ』『履修、悩んでない?』って先輩たちが話しかけてくれて、ホント、気持ちが軽くなったんです。だから、同じように声をかけてあげようって」

新歓専用のツイッターアカウントも立ち上げて、とにかくLINEの友達を増やした。OB会のカンパを原資に開催したバーベキュー大会、なんと150人近くが来てくれた。経験者はほとんどいない、男女比は半々。それでもよかった。まずは来てくれることが大事だった。

貴重な練習時間を割いたキックコンテスト。新入生を楽しませ、飽きさせないための工夫だ(提供・東京都立大学ラグビー部)

しゃぶしゃぶ食べ放題に焼き肉。新歓班の攻勢は続く。さらなる勧誘を裏テーマにした「履修相談会」は開催直前、お菓子片手の「トーク&イート」に名前を変えた。「漢字5文字のイベントなんて、誰も来てくれないよ」。新歓班の一人、高橋一平(2年、海老名)のアイデアだ。

練習体験も、練習体験じゃなくて「スポーツ大会」に。キックコンテストも、マネージャーも参加のタッチフット大会も敢行した。やはり新歓班の小宮佑楽羅(2年、英数学館)はマネージャーの立場から、「マネージャーになればちょっと違った友達の輪が広がるよ」って女子たちに伝えた。

汗と涙(?)と努力の結晶は、こうだ。1年生16人、うち選手11人で、そのうち初心者が8人。2年生は選手2人、3年生は選手1人。合わせて19人もの新入部員が門をたたいてくれた。掲げた「10人以上獲得」のミッション、見事に超えた。

初心者と経験者の間に「壁」はない。それがこのチームの良さだ(提供・東京都立大学ラグビー部)

リアルの尊さ知る僕ら

中心になって汗をかいた岡元自身はラグビー経験者だ。都立大で同期の初心者たちと1年間を過ごし、驚いたことがある。

「ルールとか戦術とか、初心者の仲間は積極的に先輩たちや僕らに質問してくるんですよ。のみ込みも成長も早い。突き上げられるし、刺激をもらいました。もっと、僕もやらなきゃって。経験者、初心者って区別する意味、ほとんどないなって」

そんな経験を新入生にも語り続け、「初心者」って心の壁を溶かして、ミッションクリアを導いた。苦境にめげず、ポジティブに語り続けることのできた自分にもまた、驚いた。

「チームビルディングの過程で、多くの先輩たちと話す機会がありました。『ナイスプレー!』『ありがとう!』って前向きな言葉をかけ合えば気持ちも乗っていくんだって、そこから学んだんです。新入生にも、そうやって接するように心がけました」

そして、もう一つ。

いまの学生たちは3年間、コロナの逆風にさらされ続けた。学校に通えなくて部活もできなくて、授業が再開しても先生やクラスメートは画面越し。そんな日常が当たり前の世代だ。

だから、「リアルに触れ合える時間を大切にしたい」(岡元)って思う。語りかけることができる時に、語り尽くしたいって思う。また、いつ、未知のパンデミックに襲われるかなんて、誰にも予測できないんだから。

そうやって、みんなでリアルを惜しむように語り合えた新歓だったからこそ、部の歴史というバトンをつなげたんだって思っている。

密になりたいのに、密になれない青春を過ごしてきた。

残された青春、限りなく、密でありたい。

グッとこらえてくれた、先輩たちの分まで。

新歓班の中心を担った2年生の小宮佑楽羅(左上)、岡元隆太(右上)、高橋一平(左下)、間庭聖貴(右下)。これからのチームを支えていく世代(撮影・中川文如)

東京都立大学ラグビー部は、どこにでもあるような、ごく普通の体育会の部活です。コロナ禍の影響で2023年はなんと選手の半数以上が初心者。そんな部員たちが、理詰めで熱いコーチと一緒になって、チームビルディングでみんなの心を一つに束ね、勝敗を超えた部活の価値を追う歩みを、2年ぶりに再び連載でお届けします。次回は、いよいよ今季初の公式戦を迎えます。6月23日に公開予定です。

ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

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