ラグビー

連載:東京都立大学ラグビー部物語

後がない2試合目、成長と取り返せない失敗 東京都立大学ラグビー部物語17

ラックを組む東京都立大の選手たち。公式戦2試合目は玉川大と一進一退の攻防が続いた(撮影・全て中川文如)

手負いの東京都立大学は、吹っ切れていた。「圧倒しよう!」。勢いに満ちた言葉が、あちこちから飛んで来る。1週間前の試合前なら聞くことはなかった響きだ。その勢いが晩秋の厚い雲を振り払うかのように、薄日が差す。冷たい雨はやんでいた。

防衛大との開幕戦、悔恨と小さな自信

開幕戦黒星、切り替えた

時折、笑顔もこぼれる適度なリラックスムード。入れ込みすぎず、緩くもない。開幕戦の惨敗から、切り替えて、反省と次戦の分析を重ね、挑んだ関東大学リーグ戦3部Aブロック第2戦。10月31日、相手は玉川大学。

「3部優勝、2部昇格」の目標達成には後がない。昨季の3部王者を、圧倒するつもりだった。

モールを押し込む東京都立大。推進力を取り戻した

覚悟はファーストプレーに表れた。ボールを捕った相手に、HO(フッカー)高尾龍太(3年、高津)が進撃のタックルを試みる。他のFWが周りを囲い込み、ターンオーバー(ボールを奪うプレー)に成功する。

試合前の円陣。ヘッドコーチの藤森啓介(36)は、最初のターニングポイントとして「最初のタックル」を強調していた。それが決まった。一気に敵陣ゴール前へ。得意のラインアウト。防衛大学校との初戦、最後の最後にようやく機能したモールの威力は研ぎ澄まされていた。

1週間前の悔しさと自信が凝縮された果敢なプッシュ。止まりかけても、すぐさまバックスが加勢して強固な塊は再び動き出す。高尾がトライ、テンポは加速。バックスが小気味よくパスを回し、要所でFWが楔(くさび)を打ち込む本来の形で攻め立てた。前半24分。やはりラインアウトを起点に今度は左右に細かく揺さぶり、PR(プロップ)浅井慧太(3年、石見智翠館)がトライ。ともにFB(フルバック)松本岳人(4年、所沢北)がゴールを決めてリードする。

【東京都立大14-0玉川大】

チーム2個目のトライを挙げたのはプロップ浅井慧太。スクラムの支柱は機動力も兼ね備えている

PGを返され、二つ目のターニングポイントは前半終了間際に訪れた。ゴールラインを背にしたピンチ。FWが低い姿勢で圧力をかける。たまらず相手は反則に逃げた。

破顔一笑。マイボールラインアウトを確実にキープすれば、前半は終わるはずだった。優位は動かなくなる、はずだった。

前半終了間際、ミスからトライを許し……

そのラインアウトで、痛恨のノックオンを犯した。

相手ボールのスクラム、「ノータイム」の声。それが前半のラストプレーだった。スクラムはこの日も劣勢。ディフェンスの薄いスペースに展開され、トライとゴールを許した。

沈黙。あと数秒を、耐えきれなかった。1トライ1ゴールの7点でひっくり返される射程圏にとらえられ、ハーフタイムを迎えた。

【東京都立大14-8玉川大】

ミスから招いたラストプレー。振り返れば、この時はまだ知る由もなかった幕切れの予兆だった。

試合前の円陣に、時間を巻き戻してみる。藤森は語りかけていた。

「このチームのことを、どれだけ、みんなが思っているか。戦うって、そういうことだよ。この80分間は、過ぎてしまえば、もう戻っては来ないんだから」

低く抑制した声が、選手たちの胸に突き刺さる。

「譲れない時が、人生にはある。今日が、その時だよ。自分のプレーは誰のため? 何のために(出場選手にしか与えられない)ファーストジャージーを着ている? そういう試合、しよう」

選手に勇気を授けて勝負へと送り出すため、考え抜いて紡いだスピーチ。どこか、示唆的だった。

ブレークダウンと呼ばれるボール争奪戦で激しく戦う谷村誠悟主将(中央)ら

続いてメッセージを求められたマネージャーは、志喜屋結利(4年、那覇国際)だった。防衛大に敗れて仲間が涙に暮れていた時も、感情を堪えながら淡々と自らの役割を全うしていた人だった。

「みんなが勝つまで、私は泣きません。このチームには11人の優秀なマネージャーがいます。プレーで助けることはできないけれど、伸び伸び、大船に乗ったつもりで戦ってきてください」

私は泣きません。それも、示唆的だった。

後半開始早々、トライを失った。すると、思いきって攻め合う試合が一転。互いの腹の内を探るような展開に収斂していく。緊迫の1点差。点は取りたいけれど、取られなくない。攻めたいけれど、攻められたくない。結果、打ち手は手堅さに傾いていく。

【東京都立大14-13玉川大】

前半のモール同様、そんな膠着(こうちゃく)状態でも東京都立大は初戦の反省を生かしていた。キッキングゲームと呼ばれる試合運びだ。中盤で無理につなごうとして自滅した1週間前の轍(てつ)は踏まない。迷わずキックを蹴り、まずはボールを敵陣に送り込む。敵陣にいることさえかなえば、失点の心配はない。

リードは4点、ボールキープで白星見えた

そうやって時計の針を進めながら、たどり着いた後半39分だった。敵陣のスクラム、奮い立ったFW8人が結束する。サイドアタックを重ね、玉川大8個目となる反則を誘発した。松本がPGを決めて差を広げた。今度こそ、もう、ボールキープを続けるだけ。40分間を丁寧に締めくくるだけだ。

【東京都立大17-13玉川大】

息をのみ、相手ボールのキックオフを落ち着いて確保する。シナリオ通り。FWが縦を突いて時間を稼ぎながら、勝利へのカウントダウンを記す。シナリオ通り。ただ、キープの意識が強すぎたか。密集を崩され、ボールを手放さなければならない場面で、放せなかった。数えること東京都立大12個目の反則。自陣右中間、22mラインでペナルティーキックを与えた玉川大にスクラムを選択された。

手元の時計の針は、後半42分を指していた。

「勝つまでは泣きません」と叫んだ志喜屋結利(中央)。マネージャーは雨の中、選手を見守った

数十秒後。「みんなが勝つまで、泣きません」と円陣で叫んでいた志喜屋は、ピッチ脇から選手をサポートする役割を終え、みんなが待つベンチに戻るため、何かを振り払うため、一心不乱に走っていた。涙をぬぐいながら。

過ぎてしまえば、決して戻っては来ない80分間。一つのミスが致命傷になる。過ぎてしまえば、もう取り返せない――。

藤森が絞り出した言葉の真の意味は、痛いほど選手たちの心に刻まれることになる。

またしても「ノータイム」の声。正真正銘、ラストプレー。いつのまにか、雨脚は激しさを増していた。いくつもの大きな雨粒が、芝をたたいては跳ねていた。

【続きはこちら】ラストプレーから何を得るか、まだ終わっていない

東京都立大学ラグビー部物語

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