ラグビー

ミエナイチカラを手に入れるために 東京都立大学ラグビー部物語5

スクラム練習ではなく、「チームビルディング」の一つ押しくらまんじゅう(撮影・全て中川文如)

「チームビルディング」と呼ばれるひとときがある。東京都立大学ラグビー部にとって、かけがえのない時間。ラグビーのスキルアップやフィジカル向上には全く結びつかない。でも、いざ試合になった時、目に見えない力となってチームの背中を大きく後押ししてくれる。

チームを勝たせるマネージャーになりたい 東京都立大学ラグビー部物語4

練習開始前、大切な10分間

練習開始前。10分程度のチームビルディングの積み重ねが、その「ミエナイチカラ」につながる。

マネージャーも交ざる。テーマを決める部員は持ち回りで毎回、代わる。ある日は「2人で一緒に1個のボールを投げてみよう。どのペアが一番遠くまで投げられるかな?」。またある日は「6人1組になって誕生日の順に1列に並んで! 声を出したり、指を使ったりして数字を示すのは反則。ジェスチャーだけで意思疎通してね」。四苦八苦しつつ、笑顔は絶えない。自然とコミュニケーションは濃くなる。

ジェスチャーで「会話」するのは意外と難しい

「みんな、ポジティブな気持ちになって練習に臨めるんです」。一般社団法人「スポーツコーチングJapan」で学んだ組織マネジメントを還元するコーチ、藤森啓介(35)が即時的な効果を説明する。そして、究極のミエナイチカラは、ピンチでこそ頼りになるのだと。

中途半端な二刀流

「大事な試合でパスが乱れたり、窮地に追い込まれたりする時間帯は、当然、ある。それを乗り越えるためには、やっぱりチームワークが欠かせない。フィールドに立てない部員も含めて、心がつながっていないとダメなんです。結局、やるのは人だから」

単なるレクリエーションにはとどまらない、なにげに奥深いチームビルディングを仕切る中心が、4年生の松本岳人だ。幼い頃からサッカーが好きで、足の速さとキックには自信があった。埼玉・所沢北高校でサッカー部になじめずラグビーを始めた理由は「キックを使えるから」。持ち味を生かし、バックスリー(ウィング=WTBとフルバック)のレギュラーになった、はずだった。

二刀流が災いした。

「いろいろなことを企画して計画を立て、周りに指示を出しながら成し遂げることにもやりがいを感じていて」。だから、2年の秋から生徒会長になった。体育祭や文化祭が近づくと、そっちにかかりっきり。必然的に、ラグビー部の練習には出られなくなる。3年の秋、最後の花園(全国高校大会)予選初戦となる朝霞高校戦はリザーブで迎えた。「それでも、この相手には勝てるだろう、勝ち進むうちに先発のチャンスが回ってくるだろうと高をくくっていたんです。甘かった……」

12-12。まさかの引き分け。途中出場の機会すらなく、抽選で2回戦への道は断たれた。同期の主将に、ぼそっと言われた。「お前が、ちゃんと練習に来てくれていたら、バックスリーダーを任せるつもりだったんだけど」。大学に進んだらフットサルを楽しむつもりだったのが、考えが変わった。「このままじゃ、終われないなって」

2019年の公式戦でゴールキックを蹴る松本岳人(東京都立大ラグビー部提供)

1浪して東京都立大学へ。迷わずラグビー部に入った。2年生でWTBの定位置をつかみ、ゴールキッカーを任された。3年生になり、藤森がコーチに。練習メニューもプレースタイルも全てが刷新された。選手として、さらに成長できると確信した矢先、右太もも裏、右ひざを相次いで負傷した。
そんな彼を、チームビルディングが救ってくれた。

コロナ禍で練習自粛となった春、学年ごとに「仲の良さを証明する」動画をつくった。3年生がテーマに選んだのはダンス。オンラインで話し合って決めた振りつけを、リモートで合わせて完成させた。秋、ハロウィーンを迎えると練習前にプレゼント交換。「そんなことしたの、小学生の時以来。入浴剤が当たって、お風呂でリラックスして」。こうしたふれあいが、松本の心に変化をもたらした。

けがしても出られなくても、出来ること

松本にとってラグビーは、自分が試合に出るため、自分が出た試合で勝つため、つまり自分のために頑張るものだった。高校で不完全燃焼感にさいなまれたのも、ラストゲームで1秒もプレーできなかった自分がたまらなくふがいなかったから。それが、変わった。

「結局、大学3年のシーズンは負傷続きで試合に出られなかったんです。でも、チームビルディングを通じて仲間のことを知り、一体感を味わえて、仲間のため、チームのため、自分に何ができるのか考えるようになった。負傷で練習に参加できなくても、できることをやろうって。2年生までの自分なら、多分、そんなことは考えなかった」。代役のゴールキッカーに惜しみなくアドバイスを送った。バックスリー目線で練習を録画し、気づいたことを伝えた。マネージャーの仕事を手伝った。

練習後に談笑する藤森啓介コーチ(左)と松本

もの静かだった選手が声を出すようになり、後輩が先輩に臆せず意見し、鼓舞し、互いにミスを修正し合えるようになったチームは、確実に強くなっていた。その進化も、チームビルディングが深めた意思疎通ゆえなのだと松本は感じた。

「1人で練習、頑張っておけばいいんでしょ」というスタンスだった松本は4年生になり、部に設けられたチームビルディング班の中核を担った。トップリーグ観戦を企画し、数人のグループに分かれて出かけ、ラグビー談義やよもやま話にふけった。そういう機会をもっと増やし、練習場から離れても、もっとチームの絆を太くしたい。それは必ず、自分たちの試合に返ってくる。自らの変化から確信できたことだった。

チームビルディングで盛り上がる部員たち

いま、願っている。東京都立大学ラグビー部を、もっとOBやOGに愛されるチームに、もっと地域に愛されるチームに生まれ変わらせたいと。応援してくれる人が一人でも増えたら、それは必ずミエナイチカラを強く大きくして、目標の関東大学リーグ戦2部昇格に結びつくと思うから。初めて部報をつくり、卒業生200人以上に送った。コロナが収束したら地元の幼稚園でラグビー教室を開こうと準備中だ。

リベンジの二刀流

ところで松本、結局、大学生になっても二刀流は捨てられなかった。所沢北高校の先輩が関わっていたことをきっかけに、学生自治会の執行委員長になった。大学版、生徒会長だ。

「もちろん高校時代の轍(てつ)は踏みたくなかったから、絶対にやらないつもりだったんですよ。でも、先輩がいたのも何かの縁なのかなって。学生の意見を集約して学校側とかけ合って。やりがい、あります」
執行委員長も、ラグビーも、自分のためだけではなく、仲間のために。今度は、うまく両立できている。

***
関東大学リーグ戦3部に所属する東京都立大学ラグビー部。彼らは何をめざし、いかに戦うのか。選手だけ、プレーだけにとどまらない、取り組む姿勢の変化を追います。

【続きはこちら】そのプレー、根拠はある? 東京都立大学ラグビー部物語6

in Additionあわせて読みたい