陸上・駅伝

特集:第92回日本学生陸上競技対校選手権大会

順大・村竹ラシッドが13秒04の日本タイ記録 肉離れで離脱中に見直した「体と技」

男子110mHで13秒04の日本タイ記録をマークした村竹(すべて撮影・藤井みさ)

第92回日本学生陸上競技対校選手権大会 男子110mハードル決勝

9月16日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場(埼玉)

1位 村竹ラシッド(順天堂大4年)13秒04☆日本タイ記録、日本学生新記録
2位 町亮汰(国際武道大4年)13秒72
3位 西徹朗(早稲田大2年)13秒81
4位 小池綾(法政大2年)13秒88
5位 宮﨑匠(中央大4年)13秒90
6位 阿部竜希(順天堂大2年)13秒91
7位 可児将大(日本大院1年)14秒05
8位 近藤翠月(東海大3年)14秒09

日本インカレ3日目の9月16日、男子110mハードル決勝で順天堂大学の村竹ラシッド(4年、松戸国際)が13秒04(-0.9)をマーク。大学の先輩にあたる泉谷駿介(現・住友電工)が持つ日本記録に並び、日本学生記録(13秒06)を更新。「(13秒)15とかが出ればいいかなと思っていたので、ちょっとびっくりです。やっとここまで来られた」。驚きと安堵(あんど)が交じったレースとなった。

順天堂大学・三浦龍司×村竹ラシッド対談(上)走りでチームを引っ張るラストイヤー
順天堂大学・三浦龍司×村竹ラシッド対談(下)世界との戦いも、チームのための走りも

序盤でハードルにぶつからないことを意識

15日の予選を13秒52、16日午前の準決勝は13秒71でいずれも組トップとなり、危なげなく決勝に進んだ村竹。予選の後は「特に1台目から3台目でハードルに(体を)当てないように。前半から丁寧に入ることを意識して走りました。(コンディションは)いいと思います」と語っており、状態の良さはそのときの表情や走りからも見えていた。

決勝は6レーンに入り、1台目を超えた時点ですでに他の選手より前に出ていた。序盤でハードルに体を当てないのは、予選や準決勝と同じ。「スタートから鋭く出られて、スムーズに行けたと思いますし、中盤からかなりスピードに乗って、最後まで維持してゴールできました。総じて流れは良かったかなと思います」。ゴール直後、右の人さし指で「1」を突き出した。大型スクリーンに13秒04の日本タイ記録が表示されると、会場は驚きに包まれた。村竹は「勝ったなと思ったけど、記録のことはまったく考えていなくて……。04が見えたときは『あっ』と」。

右手で「1」を作りながらフィニッシュ。このときはまだタイムに気付かず

復帰戦でいきなりの自己ベスト更新

昨年、アメリカ・オレゴン州で開催された世界陸上に出場し、前回の日本インカレは13秒36で優勝。学生相手には敵なしと言える状態だった村竹は今年4月、こう言っていた。

「今年、13秒1台は絶対に出したいと思っています。かつ、それをコンスタントに出せるようにならないと、世界陸上やこの先のオリンピックでは戦えない。どの舞台でも、どの環境でも出せるようにはしたいですし、それができるようになったら13秒0台、あわよくば12秒台を狙う。さらにベースをつけて(13秒)0台、12秒台も連発できるようになれば、世界で戦える選手になるんじゃないかと考えてます」。このときすでに、今年8月に開催された世界陸上の参加標準記録(13秒28)を切っていた。しかしその後、思わぬ事態に見舞われた。

4月29日の織田記念で左ハムストリングスの肉離れを起こした。今年の世界陸上には出場できず「いろんな種目で活躍している選手たちの姿をずっと家で見てました。自分も来年、再来年とそこで戦える選手にならないとなって」。離脱中は再発しないように下半身のトレーニングに励んだほか、ハードリングの技術面も見直した。「今までできていた部分でも、『本当にその動きが正しいのか』と。イチから見つめ直すいい機会になりました」

春先は「鋭くスタートをできればいい」と勢いのまま1台目に入っていたという。復帰後はスタートでもパワーを出しつつ「1台目を超えてからもしっかりと刻む」。重心を「いいあんばいで抑えながら高くする」と意識することで、ハードルにぶつかることも減り、インターバルのピッチも安定した。

ハードルに体をぶつけないことを意識し、レースに臨んだ

復帰戦は7月下旬に福井で行われた「アスリートナイトゲームズ2023」。ここで村竹は13秒18(+0.9)の自己ベストをたたき出し、来年に迫ったパリオリンピックの参加標準記録(13秒27)を破った。9月上旬には中国でのダイヤモンドリーグに参加し13秒19。4月に語っていたことを実現させ、ハードラーとしてレベルが一段階上がったことを印象づけた。

泉谷駿介とは「海外経験の差が出てる」

予選のレース後、2学年先輩の泉谷について「自分は追う立場ですし、追いかけられる目標があるのは自分にとっていいこと」と言っていた。決勝でその泉谷が持っている日本記録に並び、心境は変わったかと尋ねると、「いや、あんまり変わってないです。まだ1本、(13秒)04を出しただけなので。泉谷さんはコンスタントに0台を出している。自分も来年、もっとコンスタントに出せるようにならないと、まだまだ本当の意味で並んだとは思えない。0台もしくは12秒台をコンスタントに出せるようになりたいです」

今年の世界陸上で5位入賞を果たした先輩と比べて足りない部分は「経験値」だと言い切る。「泉谷さんはいろんなところに遠征で行かれている。自分は(肉離れの影響もあり)ずっと日本にこもりきりだったんで、海外経験の差がすごい出てると思います」。裏を返せば、村竹は伸びしろ十分。今後さまざまな環境で経験を積めば「見えました」と手応えを感じている12秒台も、現実味を帯びてくる。

パリオリンピックは「出場が当たり前ぐらいに思わないと戦えない」

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