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特集:2023年 大学球界のドラフト候補たち

明治大学・上田希由翔 歴代10傑に入る打点数、主将はどこまでもチームのために行動

リーグ3連覇中のチームを引っ張る明治大の上田(高校時代以外、すべて撮影・井上翔太)

東京六大学秋季リーグ戦 第4週2回戦

10月1日@明治神宮野球場(東京)
明治大学 3-1 立教大学

明治大学の上田希由翔(きゅうと、4年、愛産大三河)が10月1日の東京六大学リーグ戦で、秋シーズン1本目となる本塁打を放った。今春にリーグ3連覇を果たしたチームの主将。この一打で通算打点を71に伸ばし、阪神タイガースなどで活躍した鳥谷敬さん(当時・早稲田大学)に並ぶ歴代7位タイとなった。10月26日に行われるプロ野球ドラフト会議での指名も注目される。

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前日、左中間に二塁打を放った意識のまま打席へ

節目の自身通算10本目となる一発は、バットとボールがぶつかった瞬間に分かるものだった。第4週、立教大学との2回戦。二回に宮田知弥(2年、横浜)のタイムリー二塁打で1点を先行し、続く三回2死二塁で上田が左打席に入った。一回の第1打席は、先制のチャンスでセカンドゴロに倒れていた。「打ち損じて先制点を取れなかったので、どうにか後ろにつなぐ気持ちで打席に入りました」

2ボール1ストライクからの4球目。相手の先発投手・小畠一心(2年、智弁学園)の内角を狙った速球が真ん中に入ってきた。バットの芯でとらえると、打球はライトスタンドに一直線。リードを3点に広げる効果的な2ランとなった。「一番いい形の点の取り方だったので、味方も乗ってくれればと思いました。今まではファウルにしたり、引っかけたりしていた球。素直にバットが出てきてよかったと思います」とうなずいた。

秋季リーグ戦1本目は「打った瞬間」に本塁打を確信する会心の当たり

身長183cm、体重93kg。勝負強いバッティングや長打力が魅力だが、一発が出るまでの長打は、前日に逆方向へと放った二塁打の1本だけ。ただこの1本が、本来の持ち味を思い出させるきっかけになったという。「それまではずっと引っ張り気味だったので、少し意識を変えました。前日、左中間に打てたので、あの意識のまま打ちました。チームを勢いづかせるという点でも長打は大事だと感じています」

開幕週、2死三塁で試みたセーフティーバント

新型コロナウイルスの影響で、2020年8月に1試合総当たり方式で行われた1年時の春季リーグ戦から試合に出場し、その年の秋には4番打者としても起用された。試合経験は豊富だが、新チーム結成にあたって、春秋を連覇した前のチームを主将として引き継ぐことには当初、重圧があったと振り返る。「春は3連覇がかかっていましたし、先輩たちがつないできたものをしっかり続けないといけない。そこは結構プレッシャーに感じていました」

愛産大三河高校2年のとき、夏の甲子園で2安打を放った(撮影・朝日新聞社)

主将就任に際して田中武宏監督から求められたのは、前のチームで主将を務めた村松開人(現・中日ドラゴンズ)と「同じことをしなくていい」ということだった。上田は「特別なことをせず、チームのためになることを普通にすればいい」と受け取った。

試合中、上田の立ち振る舞いを見ていると、それを着実に行動へ移しているように感じる。守備が終わって攻撃に移る際は、マウンド付近で試合球を受け取り、ピッチャープレートを右手で掃き、ボールを丁寧にもんでプレートの上に置く。ベンチに戻ると、打席を控える選手たちに相手投手の特徴を伝え、味方の攻撃中はベンチの最前列で応援。守備につく際は捕手の小島大河(2年、東海大相模)らに一声かけることを欠かさない。

開幕週の東京大学戦では、2点リードの五回2死三塁からセーフティーバントを試みる場面もあった。「どうしても1点取りたかったんでしょうね。びっくりしましたよ」と田中監督も驚くほどの奇襲だった。この試合に先発した村田賢一(4年、春日部共栄)は「3年生まで(の上田)だったら考えられない」。この言葉からも、チームのことを第一に考えた末の作戦だったことが容易に想像できる。

守備から攻撃に移る際、試合球を丁寧にもんでピッチャープレートに置く

あと二塁打が出ればサイクル、九回の守備で気付いた

立教大戦では五回に中前安打、七回には右中間を破る三塁打を放ち、あと二塁打が出れば歴代9人目となるサイクル安打達成となった。本人に気付いていたか尋ねると、「九回に(守備で)ボール回しをしているとき、客観的に、冷静に考えたときに気付きました」と答えた。さらに、八回の攻撃で「自分まで回ってこい」と思わなかったか重ねて聞くと「1点でも多く入ってくれ、という感じで応援してました」。この受け答えが、何とも上田らしい。

東京六大学の通算最多打点記録は、当時早稲田大学の岡田彰布さん(現・阪神タイガース監督)がマークした81。上田も狙えるのでは、という趣旨の質問には「無理だろうなという話はしています」と苦笑い。大学最後のシーズンも残すところ、慶應義塾大学と法政大学との2カードとなった。記録には届かないにしても、チームの大黒柱がチャンスで一打を出せれば、4連覇が近づいてくることは疑いようがない。

攻撃中は相手バッテリーの特徴をチームメートに伝える

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