陸上・駅伝

特集:第35回出雲駅伝

出雲駅伝優勝の駒澤大学 鈴木芽吹が主将・エースとして引っ張り「2年連続三冠」へ

ゴール後にチームメートに囲まれ、鈴木も他の全員も充実した笑顔を見せた(撮影・藤井みさ)

第35回 出雲全日本大学選抜駅伝競走

10月9日@島根・出雲大社~出雲ドームの6区間45.1km

優勝  駒澤大学   2時間07分51秒☆大会新
2位 城西大学   2時間10分35秒
3位 國學院大學  2時間11分07秒
4位 青山学院大学 2時間11分28秒
5位 早稲田大学  2時間11分36秒
6位 中央大学   2時間12分17秒
7位 東洋大学   2時間12分35秒
8位 法政大学   2時間13分44秒
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当初2位だった創価大学は、のちに出走ランナーの1人にドーピング違反が発覚し失格
以下の記事は発覚前に公開したものです。   

10月9日に開催された出雲駅伝で、駒澤大学が2年連続5度目の優勝を飾った。昨年の学生3大駅伝三冠に引き続き、「2年連続三冠」を掲げるチームはまず好スタートを切った。キャプテンの鈴木芽吹(4年、佐久長聖)は2年連続優勝のゴールテープを切り、チームメートに胴上げされた。

トップで襷をもらい、さらに差を広げてゴール

前日会見で藤田敦史監督は「チームの目玉となる選手」を問われ、鈴木の名前を挙げた。「去年は田澤(廉、現・トヨタ自動車)という絶対的なエースがいましたけれど、鈴木が田澤にどこまで近づけるか、どこまで精神的なチームの支柱になれるかがポイントだと思います」と期待を込めていた。

レースが始まると1区の篠原倖太朗(3年、富里)が区間賞を獲得してから、一度もトップを譲ることなく襷(たすき)は鈴木のもとへ。襷をもらった時は2位の創価大学との差は39秒だったが、それを1分43秒に広げ、昨年駒澤大が作った大会記録を41秒も縮める2時間7分51秒でゴールした。鈴木自身も29分00秒で区間賞を獲得した。

昨年は左大腿骨(だいたいこつ)の骨折から10カ月ぶりに復帰したレースで、目に光るものがあった鈴木。今回はゴールの直線では笑顔を見せながら走り、仲間の祝福する中に飛び込んだ。

ゴール前の直線で「1」を掲げながら走る鈴木(撮影・高野みや)

今年度は大八木弘明監督が総監督となり第一線から退き、チーム運営が藤田監督に任せられて1年目のシーズン。それまで主将は大八木総監督が指名していたが、今年は選手からの立候補で決める形となり、手を挙げたのが鈴木だった。最後の1年は競技だけでなく人間として成長したいとの思いからだった。学生最後の1年として、「駅伝だけは外せない」という思いを4月の取材時に語っていた。

卒業後も駒澤大を練習拠点にする田澤と練習をともにし、「Sチーム」として篠原、佐藤圭汰(2年、洛南)らとハイレベルなメニューをこなしてきた。7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会では、5000m13分24秒55をマークし自己ベストを更新。Sチームを見ている大八木総監督からも「芽吹はより一段階強くなった」と評価され、迎えた駅伝シーズンでしっかりと実力を見せつけた形になった。

「戦える範囲であれば絶対負けない」とメンバーに声かけ

閉会式での表彰を終えた鈴木に改めて優勝の感想をたずねると「本当に勝ちに出雲に来たので、勝てたっていうことでいい形で終われたかなと思います」。去年との違いを問われると「僕は全然立場が違う形の勝ちとなったので、本当に自分がちゃんと引っ張れてるかわからないですけど、キャプテンをやらせてもらっているチームで勝てたというのは、誇らしいというかうれしいです」と素直な気持ちを口にした。

チームメートに胴上げされて笑顔を見せる(撮影・藤井みさ)

鈴木はキャプテンとして、チームを一つにしていきたいという思いを強く持っている。それゆえ、けがをして離脱していたらチームがまとまらないと考え、「けができない」という思いが取り組みにも現れているという。夏合宿でも3部練習があったら3部目は走らずに補強トレーニングをしたりなど、自分の体の状態をしっかりと見極めながら練習をすることが、結果的に継続した練習を積めることになった。4年生になって授業が減り、陸上に割ける時間が多くなったことで、ケアなどにかける時間も増えた。その積み重ねは鈴木にとっても自信になり、「4年間の中で一番いい状態」でレースに臨むことができた。

チームを引っ張るキャプテンとして、そしてエースとして。出雲に来る直前に寮でミーティングをした時には、鈴木はメンバーに対してこう話したという。「仮に自分に(襷が)来る時に、2番とか3番だったとしても、戦える範囲であれば僕は絶対負けない自信があるから、と。やっぱりできれば1番で持ってきてほしいけど、そうじゃなかったとしても焦らずつないでほしいって。そうすれば絶対勝つから、ということはみんなに声がけさせてもらいました」

トロフィーを授与され、重みをかみしめるようにじっと見つめる(撮影・藤井みさ)

実際は2位と39秒差のトップで襷を受け取り、本当にリラックスして走れたと話す。1km2分45秒から50秒の間で刻んでいこうと思っていたが、「まだちょっと力がないのか調整がうまくいかなかったのかはわかんないですけど、後半キツくなってしまったので。個人の走りとしては反省点がけっこう残ると思います」と厳しい目で自らの走りを振り返った。実際は区間2位の中央大・湯浅仁(4年、宮崎日大)には27秒もの差をつけている。改めて高いレベルを見ていることを感じさせた。

チームとして勝ちたい、そのためにキャプテンになった

2年連続三冠を目標に掲げてスタートしたチームだったが、春の取材のときに鈴木は「もっとチームをひとつにしたい」と話していた。昨年も実力差があり、下のチームでやっている選手が「自分には関係ない」と思ってしまう状況が気になっていた。新チームがスタートしてからも、意識高くできている選手とそうではない選手にはっきり分かれてしまっている状況があった。

鈴木はそういう状況で、意識を持てていない選手に「今のままじゃ絶対に勝てないよ」と厳しい言葉をかけることもあった。もちろん感情的になるのではなく、自分の中で根拠を持った上で言うようにはしている。「去年は極端に言えば、自分がなんとか走れればそれでいいやという感じだったんですけど、やっぱり今年キャプテンになって、自分が走れてもチームとして勝たなきゃ面白くないし、勝たせるためにキャプテンになったので、本当に周りの声かけとかは意識してます」

チーム全員でひとつになり、全日本、箱根と優勝を狙っていく(撮影・藤井みさ)

そうやって発信していくことで、走れている選手たちが徐々に「自分たちがやらなきゃ」と意識を変えて、本当にチームを引っ張ろうと頑張ってくれた。それにつられるように他のメンバーの意識も変わってきたという。「全日本では走る人数も増えますので、他のメンバーに期待して、今日走った出雲メンバーは全部(駅伝を)走るっていう気持ちでやってほしいなと思います」

田澤という大エースが抜けたあとは、自分が。有言実行のキャプテンがチームをひとつにまとめ、誰も到達したことのない「2年連続三冠」への一歩を踏み出した。

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