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特集:第75回全日本大学バスケ選手権

日本経済大・中村翔和 チーム史上初のインカレ4強、成長につながった主将への立候補

チームを史上初のベスト4へ導いた日本経済大の主将・中村翔和(すべて撮影・小沼克年)

日本経済大学のインカレでの戦いぶり

12月3日(グループステージ初戦)76-71 名古屋学院大学
12月5日(同2戦目)96-57 桐蔭横浜大学
12月6日(トーナメント1回戦)62-49 関西学院大学
12月7日(同2回戦)64-50 武庫川女子大学
12月8日(同準々決勝)64-53 愛知学泉大学
12月9日(同準決勝)53-65 東京医療保健大学
12月10日(3位決定戦)64-91 拓殖大学

12月3日の初戦から1週間で7試合。今回のインカレで日本経済大学はどのチームよりも走った。キャプテンの中村翔和(とわ、4年、佐世保東翔)は3位決定戦を終えた後、目を赤くしながら言った。「初めての経験だったのでさすがに疲れました(笑)」。でも、その汗と涙と引き換えに、チームはチーム史上初のベスト4入りを果たした。

【特集】第75回全日本大学バスケ選手権

大きなビハインドも「最後まで楽しんで、笑顔で終わろう」

グループリーグから準決勝まで勝ち上がってきた九州1位の日本経済大は、最後の2連戦で関東1部と対戦。準決勝ではインカレ6連覇の実績を持つ東京医療保健大学に最後まで食らいついたが、53-65で敗れ3位決定戦へと回った。

最後の相手は関東3位の拓殖大学。しかしこの日は、試合時間が残り2分を切った時点で20点のビハインドを背負った。「最後は勝ってメダルを持って帰る」。現実的に考えれば、その目標は達成できそうにない。残り1分16秒、案浦知仁監督はコート上に4年生を立たせた。

中村、藤井花歩(4年、聖カタリナ学園)、山口郁実(4年、常葉大附常葉)、岩下千優(4年、熊本商業)、ジョル・セイナブライ(4年、岐阜女子)の5人が手を握り、円陣を組む。「最後まで楽しんで、笑顔で終わろう」。中村の声で意思疎通を図り、戦い抜いた。

「やっぱり4位と3位って大きな差なので、しっかり勝ってメダルを持ち帰りたかったです。4位という結果で終わってしまったことは悔しいですけど、 最後まで楽しんでやれたのでよかったなと思います」

最後は4年生でコートに立ち、円陣を組んだ

高校時代の恩師に誘われ、九州の強豪へ

中学まで全国大会に縁がなく、最高成績は県ベスト4。そんな中村が8年連続でインカレにも出場する九州の強豪・日本経済大に進んだのは、高校の恩師からの誘いだった。「日経大は九州で優勝や連覇もしている強いチームですけど、自分もそんな強いチームでプレーしてみたいなと思いました」

今年も身長198cmの高さを誇るファール・アミナタ(1年、東海大福岡)を筆頭に、柿元舞音、田中夢理(ともに1年、福岡大若葉)といった即戦力ルーキーらが加入した。中村の入学当初、周りには自分より力のある選手たちばかりだったため、昨年までは十分なプレータイムを確保できずにいた。

しかし、最上級生となった今年はキャプテンの重責を担った。案浦監督によれば「彼女が自分でキャプテンをやると手を挙げた」という。中村の4年間での成長について、指揮官はしみじみと語った。

「彼女は2年生から頑張るようになりました。最初はなかなか思うようにいかず、3年生になって少し試合に出るようになりましたけど、ちゃんと試合に出始めたのは4年生になってからです。自分から手を挙げてキャプテンをやるような子ではなかったんですけど、同級生にも支えられて本当にチームを引っ張ってくれました。プレーもそうですけど、心の部分がすごく成長しましたね。東翔の恩師の先生も本当に喜んでくれましたし、私としても中村を紹介してくださって感謝しています」

「強いチームでプレーしてみたい」と日本経済大を選んだが、昨年までは十分なプレータイムを得られなかった

仲間を勇気づける、主将のハイタッチ

この1年、中村はパワーフォワードのポジションでチームを支え続けた。「一人ひとりが自分の役割を果たせている時は強い」と話す中で、彼女の仕事は「ルーズボールやリバウンドなどの泥臭いプレーを一番に考えること」。今大会ではそれを全うしつつも、プレーでは果敢なドライブからのレイアップやアウトサイドシュートも随所で見せた。

彼女を見ていて特に印象に残ったのは、常に仲間に寄り添う姿だ。プレーが途切れればどんなに遠くてもチームメートのもとへ駆け寄り、手を握るようなハイタッチを交わす。コートでもベンチでも常に大きな声を出し、チームを鼓舞し続けていた。

「やっぱり自分はキャプテンだし、チームを引っ張っていかないといけない。 一人ひとりにしっかりと声をかけて、ハイタッチすることはずっと意識してやってきました」

チームを鼓舞するため、仲間とハイタッチを交わす中村

案浦監督は、率先してチームを引っ張ろうとする中村の成長ぶりをうれしそうに語った。「そういう子ではなかったので本当にびっくりしました」。中村本人も、大学バスケを通して最も成長できたことをこう話した。

「自分は今まで積極的に誰かに声をかけるとか、指示を出すとかをできる人間ではなかったので、そういった『人を動かすこと』が一番成長できたと感じています」

「今までで一番楽しいインカレでした」

中村は4姉妹の末っ子として育った。上3人がバスケ経験者ということもあり、「ボールを触り出したのは幼稚園くらい」。「翔和(とわ)」の由来は、姉妹全員の名前に「翔」という漢字が使われているからだと教えてくれた。

「最後は4年生でコートに立ててよかったですし、『自分もしっかり頑張らなきゃ』と思わせてくれた後輩にも感謝したいです。後輩たちにはいい引き継ぎができたと思うので、今までで一番楽しいインカレでした」

インカレという大舞台、しかも大学最後の大会で新たな歴史を作った。日本経済大のキャプテンを全うした中村は、次のステージでもバスケット選手として翔(と)び続ける。

「今までで一番楽しいインカレでした」と話し、表彰式では笑顔を見せた

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