陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

青学大・原晋監督「負けてたまるか大作戦」 前回箱根駅伝で苦しんだ「山」対策を強化

壮行会ではエントリーメンバー16人のうち10人が出席した(撮影・井上翔太)

ライバルの駒澤大学が目標に掲げている「2季連続の3大駅伝三冠」を阻止する一番手として――。第100回箱根駅伝で2年ぶり7度目の総合優勝を狙う青山学院大学の原晋監督は、恒例となっている作戦名について「負けてたまるか大作戦」を掲げた。あえて強い言葉で鼓舞した理由を、12月14日の壮行会で語った。

【特集】第100回箱根駅伝

現役の大学生たちにも向けたメッセージ

「『負けるな大作戦』は受け身の言葉ではないでしょうか。その点『負けてたまるか』は、『攻めながら勝つ』という積極的な言葉ではないかなということで、この言葉で今年は作戦名を考えさせていただきました」

原監督は作戦名の由来についてそう語った後、これは駅伝の部員だけに向けたメッセージではないことを強調した。壮行会に集まった現役の大学生たちに「特に4年生はコロナ禍で、色んなことで苦労した大学生活だったと思います。就職活動や人間関係で色んな苦労もあったことでしょう」と呼びかけ、「そんな中でも『負けてたまるか』という思いで乗り越えてきたのではないかと思います。私どもの駅伝チームも、1年間色んなことがありましたけど、チーム一丸となって『1強』と言われる駒澤大学に対して『負けてたまるか』というような思いで戦いたいと思います」。

壮行会の間、原監督はこのフレーズを最後に行った唱和も含めて10回近く使い、箱根路に向けた決意を表した。

現役の大学生たちにもメッセージを送った原監督(撮影・井上翔太)

若林宏樹・黒田朝日が5区候補、6区は山内健登ら

駒澤大の「三冠」達成を許した前回の箱根駅伝。連覇をめざした青山学院大の順位の行方を占ったのは、5区と6区の「山」だった。前々回に5区の山登りで区間3位と好走した若林宏樹(3年、洛南)は前回、直前で体調不良を訴え、当初山下りの6区を走る予定だった脇田幸太朗が5区に回り、6区で当日変更される予定だった西川魁星がそのまま走ることになった。5区に襷(たすき)が渡った時点では駒澤大と先頭争いをしていたが、6区を終えたところで7位にまで順位を落とした。

前回の箱根後に、原監督が山の対策として「1年間かけてトレーニングしていかないと」と語った通り、今年のチームになってから取り組みを少し変更した。「夏合宿で例年、全体で『山TT(タイムトライアル)』を1度だけやっているんですけども、今年は1回増やしました」。実際のコースを下見しながら、山に対する選手たちの適性も把握。今回の5区は若林のほか、出雲駅伝で2区区間賞を獲得し、全日本大学駅伝は2区の区間記録を更新した黒田朝日(2年、玉野光南)を準備。6区は出雲で4区区間賞の山内健登(4年、樟南)、同じく4年の松並昂勢(4年、自由ケ丘)、出雲で1区を任された野村昭夢(3年、鹿児島城西)が候補になる。

若林は全日本大学駅伝の1区で攻めの走りを披露した(撮影・金居達朗)

出席した選手からは、山への思いを語る言葉が相次いだ。もともと1500mが得意な山内が「スピードには自信があるので、しっかり走れるのではないかと思います」と言えば、野村は「6区は去年から準備を進めているので、下りは誰にも負ける気がしない。区間賞争いをしたい」とキッパリ。さらに原監督からは「2区」の候補の一人として名前が挙がった田中悠登(3年、敦賀気比)も「走りたい区間は5区です。山の神になれるように頑張ります」と語った。

6区候補の一人・山内は1500mが得意なスピードランナー(撮影・井上翔太)

自己ベストが相次いだ「MARCH対抗戦」

近藤幸太郎(現・SGホールディングス)や岸本大紀(現・GMOアスリーツ)といった強力な前年度の最上級生が抜け、新チームの結成当初、その穴は大きいと見られていた。ただ、今のチームも着実に力をつけてきているのは間違いない。「20年間、変わらず作りあげてきたメソッドの中でトレーニングをした結果、5000mのチーム44人の平均タイムは14分00秒。間もなく13分台になる。これはギネス世界記録に申請してもいいぐらいの組織力じゃないかと自負しています」と原監督は自信を持っている。

混戦の2位争いを制した全日本大学駅伝の後も、上積みは顕著だ。

11月22日の「MARCH対抗戦2023」で今回のエントリーメンバー16人のうち、11人が10000mの自己ベストを出した。中でも、1年生のときから駅伝で活躍してきた佐藤一世(4年、八千代松陰)は28分11秒00で大会新記録をマーク。黒田が28分15秒82、倉本玄太(4年、世羅)が28分19秒31と続き、「28分30秒以内」のタイムを持つ選手が計8人いる。原監督は「マイナス面で言えば、駅伝の『経験力』が薄いかもしれないですけど、5000mや10000m、ハーフマラソンのタイム自体は過去最高レベル。学生たちは自信を持って箱根路を駆けていくと思います」。

箱根駅伝チームエントリー・シード10校編 駒澤大学の「2季連続三冠」阻むのは?
中心選手の黒田(左)と佐藤。全日本では襷リレーが実現(撮影・吉田耕一郎)

出遅れ厳禁、往路から勝負をかける

駒澤大よりも前でレースを進めることをめざし、往路から勝負をかける。背景には「出遅れると、後手後手に回ってしまう」(原監督)という箱根特有の環境もある。「先頭は、中継車が風よけとペースメーカーになって走れる。後方から追い上げるとなると、どうしても無理にオーバーペース気味で入って、(1区間が)20km以上ある箱根では後半に息切れをしてしまう」。これらの理由から、優勝するためには先頭争いをし続けることが重要と位置づけ、1区から機運を高めて、「スピード・コースマネジメント・坂への適応能力」の3点が求められるエース区間の2区へとつなぐことが理想だ。

原監督は今大会の目標として「最低限のノルマとしてはシード権獲得。でも、シード権獲得では、すでに喜んでいただけないチームへと成長していますので、優勝をめざして取り組んでいきたい」と意気込みを語った。箱根駅伝に青学あり。節目の100回大会では、1強に割り込むレース運びを期待したい。

声援も背に受け、2年ぶりの総合優勝を狙う(撮影・井上翔太)

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