陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

順大・三浦龍司、脱「孤高の人」として最後の箱根駅伝へ 共同主将・藤原優希とともに

前回の箱根駅伝で2大会連続の2区を走った順天堂大の三浦(撮影・藤井みさ)

箱根駅伝で「総合5位以内」の目標を掲げる順天堂大学には、2人の主将がいる。3000m障害(SC)の第一人者で、2023年の世界陸上6位入賞の三浦龍司(4年、洛南)と、三浦に誘われて任に就いた藤原優希(4年、水島工業)だ。「共同主将」としてチーム作りに励む2人は、学生最後の大舞台での走る姿でもチームを引っ張る覚悟だ。

【特集】第100回箱根駅伝

主将就任へ、心動かされた西澤侑真の存在

「主将になって大きく変わりましたね。成長してくれたと思います」

長門俊介監督は三浦についてこう評す。3年時まではストイックに我が道を行く「孤高の人」というイメージがあった。

もともと、その突出した走りで陸上競技部を牽引(けんいん)してきた選手だ。今季も6月、ダイヤモンドリーグ・パリ大会の3000mSCで自身が持つ日本記録を更新(8分9秒91)。8月にハンガリー・ブタペストであった世界陸上では、日本勢として初の6位入賞を果たした。世界で戦う三浦がいることは、部全体の大きな刺激になってきた。

2023年の世界陸上男子3000mSCで日本勢初の6位入賞を果たした(撮影・内田光)

難しさが伴うトラックからロードへの切り替えにも、入学以来毎年、対応している。短い準備期間で駅伝シーズンに合わせ、箱根では1年時は1区を、2、3年時はエース区間である「花の2区」を担った。トラックのみならず、駅伝においても大きな期待を背負ってきたのが三浦である。

他方、三浦は過去の自身について「後輩ともあまり関わりを持たないタイプでしたね。中、高でも主将の経験はなかったですし、3年生までは主将をやるつもりはありませんでした」と明かす。

そんな三浦の心を動かしたのが、「令和のクインテット」と呼ばれた昨年の主力4年生5人のリーダーシップだった。とりわけ主将だった西澤侑真(現・トヨタ紡織)の姿が大きい。

「西澤さんと同じようにはなれないですが、少しでも近づきたい、後輩たちが自分たちも頑張ろうと思える主将になりたい、と思ったんです」

箱根駅伝に向けた記者会見で意気込みを語る三浦(撮影・上原伸一)

寮の風呂場で「自信を持て」と吉岡大翔に発破

主将になってからはチーム全体に目を向け、1年生とも積極的に言葉を交わすようになった。三浦を手本にトラックとロードの両立を目指している荒牧琢登(開新)は「よく声をかけてもらってます。(大学レベルでは)次元が違う三浦さんから気にかけてもらえるのはうれしいです」と表情を緩める。

同じ1年でルーキーながら「出雲」では1区を、「全日本」では3区を任された吉岡大翔(佐久長聖)は、三浦とのこんなエピソードを披露してくれた。

高校3年時に男子5000m高校記録(13分22秒99)を樹立し、鳴り物入りで順天堂大の門をくぐった吉岡。だが「実は、全日本の後は落ち込んでいたんです。出雲も全日本も期待に応えられなかったので」と打ち明ける。いずれも唯一の1年として出走したが、区間11位と同14位にとどまっていた。

そんなとき、たまたま寮の風呂で一緒になった三浦に「吉岡は高校の時より強くなっている。結果には表れていなくても中身はある。自信を持て」と発破をかけられた。「世界で戦っている三浦さんからの励ましが、立ち直るきっかけになりました」

三浦も、主将になったことが自身にもプラスに働いていると感じている。「視野が広がった気がします。今後の競技者生活においても、間違いなく大きな経験になると思っています」

今年の全日本では三浦から吉岡への襷リレーが見られた(撮影・吉田耕一郎)

「思い共にする仲間、学生時代しか得られない」

「駅伝は思いを共にするたくさんの仲間がいます。そういう気持ちは学生時代でしか得られない」と話す三浦。主将になってあらためて、駅伝がもたらすものの貴重さを感じているようだ。

そんな三浦の「変化」を、長門監督が一番感じたのは11位に沈んだ全日本のレース直後だったという。

「後輩たちのためにも絶対に死守したかったシード権を落としてしまい、悔しさを前面に出してましてね。そういう三浦は初めて見ました。主将としての責任感からでしょう。変わったな、と。三浦は来年、パリオリンピックという大舞台が控えていますが、いまはそれよりもチームだと、その思いが伝わってきました」

その悔しがる様子から、箱根では走りでも牽引してくれることを確信したという長門監督。「彼の根の部分にある熱いところを込めた走りをしてほしいです」

箱根駅伝に向けた記者会見で狙いと作戦を語る長門監督(撮影・上原伸一)

むろん、三浦もそのつもりだ。過去の箱根で、自身の記録は区間10位、11位、12位。今年の全日本も区間8位にとどまった。だからこそ、1人の競技者としても最後の箱根にかけている。

「これまでの箱根では『トラックほどには力を出し切れていないのでは』という声もよく耳に届きます。今年の全日本も結果が伴いませんでした。ですが、僕自身は過去3大会の箱根も手応えがありましたし、駅伝の経験はすべて糧になってます。最後の箱根では集大成の走りをしたいです」

相棒・藤原優希「聞く力」で先輩力を補完

三浦とともに「共同主将」としてチームの先頭に立っているのが藤原だ。いまや主将ぶりもすっかり板についた。ただ、新主将を決める時は、自分が主将になる青写真は描いていなかったという。

「三浦から『一緒にやろう』と言われたんです」

三浦は駅伝シーズンまではトラックがメイン。海外のレースに出場することも多く、大事な夏合宿の時期は不在になる。一方で、1年通して駅伝に向けて取り組んでいる選手もおり、そういう選手たちをまとめる存在が必要だった。

「共同主将に決まった時、三浦とは『風通しの良いチームを作ろう、学年に関係なく意見を言い合える雰囲気を作ろう』という話をしました」

今季、三浦と共同主将を務める藤原(撮影・上原伸一)

藤原は自身の主将としての方向性も決めた。三浦が順天堂大の象徴として引っ張っていくなら、自分はみんなと一緒になって高め合っていこう、と。だが、「しばらくは主将としての機能を果たせなかった」と振り返る。

「主将だから……という責任感が空回りしてました。周りに目を向けることを優先するがあまり、自分のコンディション調整がうまくいかなかったことも。それと、自分には三浦のような競技力がないので、リーダーとしての自信が持てなかったところもありました」

それでも少しずつ、自分のスタイルを確立し、三浦がいなかった夏合宿でも「コミュ力」を発揮した。主将2人のコミュニケーション方法は異なる。三浦は声かけなど「発信」することでチームの雰囲気を作っているが、藤原は持ち味の「聞く力」を生かしながら相手の話に耳を傾ける。

真のリーダーシップが問われるのは走る時

藤原も主将になったことが人間的な成長につながっていると感じている。一方で三浦同様、主将としての真のリーダーシップが問われるのは走る時だと思っている。前回の箱根では初出走を果たしたが、9区で16位と振るわず、順位を二つ下げてしまった。

「初めてだったので、舞い上がってしまって……。今年は調子を落として、出雲も全日本も走れませんでした。その分の悔しさも胸に、箱根では同じ9区を走りたいです。68分40秒を目標に、粘り強い走り、諦めない走りをするつもりです」

立場は人を変え、人を育てる。箱根では、共同主将という役職を通じて成長した2人が、さらなる牽引力を発揮する。

前回の箱根で藤原は9区を走り、前年度主将の西澤に襷をつないだ(撮影・北川直樹)

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