陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

明治大・児玉真輝と杉彩文海 前回の箱根駅伝で明暗分かれた2人を軸に、8位以内狙う

明治大の4年生コンビ・児玉(左)と杉がチームを引っ張る(撮影・小野哲史)

近年の明治大学はスピードのある選手は多いが、やや安定感にかける面もあった。前回の箱根駅伝も二つの区間賞を獲得しながら12位とシード権には届かなかった。それが今年度はトラックシーズンの不振と指揮官交代をきっかけに堅実さが磨かれ、チームの士気は高まっている。12月17日に明治大学八幡山グラウンドで公開練習と取材会が行われ、山本豪・駅伝監督とエントリーされた16人の選手たちが箱根に向けた意気込みを語った。

【特集】第100回箱根駅伝

児玉は前回箱根を走れず、杉は7区で区間賞

児玉真輝(4年、鎌倉学園)は箱根駅伝で1年生だった2021年に1区、2年生で3区と、いずれも往路の主要区間を担った。しかし、「1年目はシンプルに力不足で、2年目は襷(たすき)をもらった位置が悪く、焦って力んでしまって自分の走りができませんでした」と、それぞれ区間16位、区間14位と厳しい結果に終わった。

雪辱を誓った前回は、2区出走を予定されていたが、12月に入って体調を崩し、区間エントリーの5日前にはアキレス腱(けん)を痛めてしまった。児玉を欠いたチームは12位に終わり、シード権獲得とはならなかった。本人は口に出さなかったものの、「自分が走っていたら……」という思いがあったに違いない。

児玉は箱根予選会でチームトップの走りを披露(撮影・吉田耕一郎)

一方で児玉と同期の杉彩文海(さふみ、4年、鳥栖工業)は、箱根初出場だった前回、7区で区間歴代8位となる1時間2分43秒をマークし、区間賞に輝いた。「1、2年の頃は練習は積めているけど、試合でなかなか結果が出ない時期が続いていました。3年目に最大の目標だった箱根駅伝で区間賞を取れたことは、自分の中で肯定できる材料というか、今までの取り組みが間違っていなかったと自信になりました」

前回は明と暗が分かれる結果となった児玉と杉だが、最終学年として臨む最後の箱根は「総合8位以内」という目標を掲げたチームのために全てを注ぐつもりでいる。

「けがをしないで完璧に調整を行うことと、本番ではどんな状況でも冷静に、平常心を持つこと。自分の力を出し切って、チームに流れを作れるような走りがしたいです」と児玉が言えば、杉は「自分が前回、区間賞を取れたのは、4年生の存在が大きく、伸び伸び走らせてもらえたからです。今回はその分、後輩に伸び伸びとチャレンジングな走りをしてもらいたいので、自分たち4年生が安定した走りをしないといけないと思っています」と誓った。

杉は前回の箱根路で7区区間賞に輝いた(代表撮影)

森下翔太と吉川響、世羅出身の2年生コンビが主要区間へ

4年生と同じく5人がエントリーされた2年生にも有力選手がそろっている。中でも森下翔太、吉川響(ともに世羅)、堀颯介(仙台育英)の3人は前回の箱根を経験し、森下は3区で区間4位、堀は6区で区間8位と、ルーキーながら堂々とした走りを披露した。

5区に抜擢(ばってき)されて区間15位と苦戦した吉川は、「自分の今の実力では、他大学の選手に及ばない。他の選手たちにも勝てるように、日々、努力していかないといけないし、気持ちの面でも一つひとつ切り替えてやっていかないと、この山は攻略できない」と感じたという。

そこで今年度、ジョグは少しでも上り坂があるコースを走りにいった。12月にチームが富津合宿を行う中、吉川はアップダウンの激しいあかがねマラソン(ハーフマラソン)に出場し、1年間をかけて山対策に講じてきた。

「去年は走っていてきつくなると、自分の体が思うように動かなくなることがありましたが、今年はそれをあまり感じません。そういう意味では走るための筋力がついてきたと思います」

悔しそうな表情を浮かべ、前回往路のフィニッシュテープを切った吉川(撮影・浅野有美)

実際、10月の箱根駅伝予選会は1時間2分41秒で、児玉に次ぐチーム2番手でフィニッシュ。翌月の上尾シティハーフマラソンでは1時間2分31秒と自己記録をさらに更新し、チームトップでゴールしている。高校の同期で将来のエース候補と期待される森下に刺激を受けながら、吉川は主力の一人からチームの主軸へと変わりつつある。

そして、森下もまた「前回は区間3位に入れなかったことが悔しかった。今回は区間3位以内はもちろん、区間賞を取れるような走りがしたいです」と力を込める。

ともに世羅高校出身の2年生2人がカギを握りそうだ(撮影・小野哲史)

山本豪・新監督のチーム再建策

今年度の明治大は、6月の全日本大学駅伝選考会で10位に終わり、8月に山本豪・駅伝監督が就任した。チーム再建のために、新指揮官は「練習の大半を占める日々のジョギングから見直し、量を増やす」ことから着手。トレーナーを合宿所に呼んで施術を行うなどの取り組みも奏功し、故障者は例年より格段に減ったという。

児玉も「豪さんの場合、指示が非常にはっきりしています。練習をしっかり積む期間とレース前に調整する期間の期分けも明確で、みんなもやりやすいと思っているはず」と語っている。

箱根予選会では駅伝主将の尾﨑健斗(3年、浜松商業)を欠いたものの、危なげなく2位通過。主力の快走はもちろん、綾一輝(八千代松陰)と大湊柊翔(学法石川)の1年生コンビがそれぞれチーム3番手と5番手に食い込んだのが大きかった。

今シーズンの途中から就任した山本豪・駅伝監督(撮影・小野哲史)

その予選会を走った12人を含めた16人がエントリーされ、チームの士気は高まっている。「往路の順位が大事だと思っているので、最初から惜しみなく投入していきたい」と話す山本監督は、往路に起用したい選手として、児玉、杉、森下を挙げ、5区については「吉川を考えています」と明言した。

「往路が終わった時点で、重要なのは順位よりタイム差。例えば10番や11番でも、6位と1分くらいしかなければ、そこまでジャンプアップできる可能性はありますし、逆に10位だったとして9位までが3分あって、後ろに何校かいたら危ないです。ですから、最後の1枠を何校で争うのではなく、もう一つ上の確実にシード圏内に入れるような位置でレースを進めたいと思います」

かつての鎧坂哲哉(旭化成)や阿部弘輝(住友電工)のような大エースはいないかもしれない。それでも一人ひとりがきっちりと役割を果たせば、十分に目標に手が届くだけの充実した戦力が、今年度の明治大にはある。

目標に手が届くだけの戦力はそろってきた(撮影・小野哲史)

in Additionあわせて読みたい