ラグビー

東海大・谷口宜顕主将 初の日本一と同時に「愛し愛されるクラブ」をめざす

チームメートに檄(げき)を飛ばす谷口主将(すべて撮影・斉藤健仁)

いよいよ今季も本格的に始まった、大学日本一を決める「第60回全国大学ラグビー選手権大会」。12月23日にシード4校が登場して、東西で準々決勝が2試合ずつ行われ、1月2日の国立競技場で開催される準決勝に進む4校が決定する。「今季こそ大学日本一となる!」と意気込んでいるのが、関東リーグ戦最多タイの13回目の優勝を、6連覇で達成した東海大学ラグビー部だ。今季、「シーゲイルズ」のスキッパーを任されているのがWTB/FB谷口宜顕(4年、東海大大阪仰星)である。

リーグ戦全勝優勝 個人ではトライ王

11月26日、関東リーグ戦の最終戦となった流通経済大学戦。相手の勢いやセットプレーに苦戦したが、「全勝優勝はあまり意識せず、自分たちのテーマを80分間やり続けることを意識した」(谷口主将)と、積極的にボールを展開し34-31で勝利。全勝優勝を果たした。

リーグ戦で6連覇を達成。谷口(中央)のすぐ右に、高校時代からのチームメートSO武藤

WTB谷口は、高校時代からの盟友であるSO武藤ゆらぎ(4年)のキックパスをキャッチしトライを挙げるなど、優勝に寄与した。谷口は計10トライを挙げて関東リーグ戦の「トライ王」と「ベスト15」にも輝いた。

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谷口主将は「リーグ戦を通して、ペナルティーが多かった。(流通経済大戦も)中盤でペナルティーをして得点を取られてしまった。セットプレーは相手がいることですが、ハイタックル、(タックルさてれもボールをはなさない)ノットリリースとか、自分たちで防げるペナルティーは大学選手権に向けて減らしていきたい。またセットプレーで負けてしまうと試合は難しくなるので、FWはいい準備をして臨んでほしい」と冷静に振り返った。

タックルというよりディフェンスが得意

昨季は15番として試合に出場していたが、今季は南アフリカ出身のルーキーFBコンラッド・セブンスターの加入により、WTBとしてプレーする時間が多かった谷口。身長170cm、体重80kgとさほど身体は大きくないが、キレのいいラン、タックルを随所に見せて、優勝の原動力の一人となった。

「タックルが得意というより、ディフェンスが得意です。必然的にタックルにもつながりますが、相手がボールを持った瞬間に(タックルに)入れば相手が弱い状態となる。いろんな映像を見て分析もしますが、見極めが大事。ランのアタックも得意です。中学1年までSOをやっていたし、CTBもやったことがあるので、ボールがほしいタイミングを周りの選手に伝えることができる」(谷口)

木村季由監督も「(谷口は)僕よりしっかりしていると思います。ブレないですよね。選手と同じ目線で大事に思っていることを感じ取る力も、周りに求める力も持っていて、リーダーとしての役割を果たしている。WTBで出てもFBとして出ても持ち味を発揮しているし、安定感が出てきた」と、成長に目を細める。

高1でレギュラーとして花園制覇

大阪・茨田高校ラグビー部出身の父・雅俊さんが、高槻ラグビースクールでコーチをしていたため、3歳から競技を始めた。「毎日、ラグビーをプレーしたい」と、電車で1時間15分ほどかかる東海大大阪仰星中学校に進学。中学から高校といっしょに練習することで知られる同中学・高校での6年間で、スキルの向上だけでなく、「ゲームの流れをつかむことや、ディフェンスの駆け引きなど、ラグビー理解度が上がった」と振り返る。

高1での花園決勝。FB谷口へラストパスを送るWTB河瀬
高校1年で花園を制覇した。決勝の後半12分には自らトライも決めた

谷口の名前を一気に有名にしたのは、東海大大阪仰星高校1年で臨んだ「花園」こと全国高校ラグビー大会だった。「高校に入るとFBの選手がいなかった」ため、谷口は1年生ながら15番のレギュラーの座をつかみ、全国優勝を達成した。当時の主将は、ワールドカップにも出場したCTB長田智希(埼玉ワイルドナイツ)だった。

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高校2年時は花園に出場できず、高校3年時はリーダーの一人だったが、花園準々決勝で、のちに準優勝した御所実業(奈良)に敗れた。U17日本代表や高校日本代表にも選ばれた谷口は、他の大学からも誘われたものの、「仰星の先輩もいたし、ウェートルームなどの設備も良かった。リーグワンに入るための準備期間としていいのでは」と、そのまま東海大に進学した。

メンバーもノンメンバーも同じ画を

谷口は大学でも1年時からすぐ定位置を確保し、関東リーグ戦6連覇に貢献した。ただ大学選手権は大学2年時のベスト4が最高で、1、3年時は東海大にとっては初戦となる準々決勝で敗退しており、決勝に進出することができていない。

4年となり、キャプテンとなった谷口は、同期と話し合い、「燈(ともしび)」というスローガンを決めた。これは、チーム目標の「日本一」を目指すことは、「我々の手で火をおこし燈(ともしび)をともすことだ」という考えからきている。また、「Go beyond your limits」というサブタイトルと、「愛し愛されるクラブ」というクラブ目標も定めた。

東海大大阪仰星には、結果を求める「チーム」と、人として成長していく「クラブ」、二つの目標が存在するという。今季の4年生や試合に出ているメンバーは、谷口主将、BKリーダーのSO武藤、そして統括寮長のSH竹田怜央など仰星出身者が多い。

「チーム目標にこだわってしまうと、メンバーに入った23人と、ほかのメンバーとは、同じ達成感を味わうことができない。また、強さだけでは格好よくないですし、周りから応援されるチームが日本一になったほうが喜ぶことができるし、応援してくれる人にも恩返しできる」

こういった考えから、仰星と同じように、チーム目標だけでなくクラブ目標も決めたのだという。

関東大学春季大会で、校歌を歌う谷口

「グラウンドとは別のクラブ目標を立てることで、チーム全員が同じ画(え)を見ることができるようになる。4年生一人ひとりがリーダーシップを持って、後輩たちの模範になるようにチームに何かを還元しようとしていますし、試合に出た選手は相手に敬意を示すとか、メンバー外の選手も校歌を大きな声で歌うとか、きれいな姿勢で応援するとかの行動に移すこともできる。メンバーとノンメンバーがお互いに高め合って、チーム目標とクラブ目標の両方が達成できればいいと思います」

「報われない努力は努力とは呼べない」

そんな谷口が小さい時からの軸にしている言葉は、「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのであれば努力とは呼べない」だ。「王貞治さんの言葉です。先生などに努力しろよとよく言われますが、やらされていることをやっているうちは努力ではない。なりたい自分を想像して、自分がやりたいからやり、結果が出て初めてその過程の努力が認められるものであって、結果が出ていないうちに途中でやめることは絶対にしたくない」

谷口の将来の目標は「日本代表」で、来春からリーグワンの強豪チームでプレーする。谷口の大学での試合は、多くても残り3試合。昨季は初戦となった準々決勝で筑波大に敗戦しており、今季は12月23日に、関西2位の強豪・天理大と、天理大の地元である大阪・ヨドコウ桜スタジアムで激突する。

谷口は「今季、毎試合テーマを決めて、それにずっとこだわって、必死にやろうとやってきました。大学選手権でもそれをぶらさずにやっていきたい」と決意を語る。谷口がキャプテンとしてチームを鼓舞しつつ、得意のランとディフェンスでシーゲイルズの勝利に貢献し、今季こそ初の大学日本一の栄冠をつかみたい。

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